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今日は“一味違う羊羹”をご紹介します。
その前に少し和菓子について……。
和菓子の始まりは、不老不死の仙菓「非時香菓」と言われます。これは伝説ですが、古くは菓子とは果子、つまりフルーツや木の実のことを指しました。当時は甘いものは、果物そのものの甘みだけ、もしくは甘蔓という植物から採ったほのかに甘味のある汁でした。
やがて砂糖は輸入されますが、大変貴重なもの。砂糖を使った甘い菓子を広く人々が口にできるのは江戸時代も後期のことです。
羊羹も本来は菓子ではなく、中国の料理でした。その文字のとおり、羊の羹(あつもの)=羊の肉や内臓を煮込んだスープだったのです。冷えるとゼラチン質が煮こごりのように固まるのです。この料理を僧侶が日本に持ち帰り、精進料理として小豆を煮込んだ汁ものとしたのが始まりです。
やがて甘味を加え固められ、現在の羊羹が生まれます。
江戸中期以降、琉球の黒砂糖の流入と、四国での和三盆の生産と流通が整ったことで、甘い羊羹は高価ながらも町人たちもなんとか口にできるものとなりました。
こんな江戸川柳があります。「羊羹をすなおに食って睨まれる」
超貴重品の羊羹は、万一茶菓子として出されても一切れだけ、お客はその一切れを食べない事が暗黙の了解なのです。めったにお目にかかれない高級品の羊羹を思わず食べてしまったお客の様子が目にうかびます。
江戸っ子の洒脱な文化はいつも笑いを誘いますね。
さて、お勧めのこの羊羹には、フルーツがたっぷり入っています。無花果と苺のドライフルーツと胡桃の食感とラム酒の豊かな香りが、「えっ!!ウソ、羊羹?」と思うはず。
でも材料は吟味されており、小豆は北海道産、甘味は西表島の黒糖を使った本格和菓子の顔を持っているのです。
その味は、お茶ではなく、赤ワイン、ウィスキー、ブランデーと合わせるとピッタリです。
私は、バニラアイスクリームのトッピングにしてデザート仕立にしたり、クリームチーズと合わせます。味は濃厚なので、薄く切ってお酒のお供にすると、新鮮なマリアージュです。バターとの相性も良いので、薄切りバケットにバターと一緒にのせても美味しいです。
イチゴと合わせて生クリームを一掛けすればお洒落デザート。
夜が更ければ、ウィスキーとクリームチーズと共に……大人な時間を味わう。
その切り口から無花果や胡桃が無造作に顔を出し、一つ一つが違った表情をしていて、とても美しい。三角形に切ったり、真四角に切ったりして、その表情も楽しみつつ、お客様にお出ししています。
江戸川柳のように素直に食べた人を睨んだりしませんよ。「美味しい」と召し上がるその人のしあわせな顔を見て、私がしあわせになります。
一竿ずつ丁寧に手作りされているため、数量も限られていて、お値段もちょっぴり高めですが、羊羹を越えた和菓子です。
和洋の垣根を越えて、自由な発想で味わってみて下さい。
※掲載情報は 2016/04/28 時点のものとなります。
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キュレーター情報
ライフスタイルデザイナー
長尾典子
日本伝統の知恵と美を取り入れた現代の食と暮らし方”Nippon Stylish Life”を提唱。
西宮市内のサロンと各地で、テーブルコーディネート・料理・英語・食文化をテーマに幅広く活動中。
季節開催「Japan Cool Seminar in Tokyo」では伝統美味食をテーマに、レストラン・料亭を会場に、その日だけのオリジナル料理を味わい学ぶ講座。
旅館・ホテルの食空間提案、英語による和食文化、テーブルコーディネートセミナー、オリジナル食器デザイン販売も手掛ける。
著書『12か月のLifestyle Book 食卓からしあわせは始まる』エピック
『和食の力に魅せられて 伝統美味食の世界』エピック
食卓文化研究家、食空間コーディネート資格認定講師、卓育インストラクター、カラーコーディネーター、英語講師。
食空間コーディネート協会理事
京都文教短期大学、大阪夕陽丘短期大学非常勤講師。
奈良女子大大学院生活環境修士。現在、現在、龍谷大学博士後期課程。
mail:nagao@a-de-v.com