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豊島屋本店
純米無濾過原酒 十右衛門 【1800ml】
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数の子の旬が来る。
お節料理に使われることが多いので冬が旬のように思うけれど、実は、2月の節分頃から4月にかけてのいわゆる“早春”がニシンの産卵期で、ニシンの子である数の子がもっともおいしくなるシーズンとなる。
お節料理に使われる理由は、小さな卵がギュッと詰まっているところから「子宝」「子孫繁栄」の意味が込められた食材だから。また、ニシンは「二親」とも書き、古くから縁起のいい食べ物として扱われてきたのだ。
室町時代から将軍に献上されるような高級食材だったが、明治大正の頃には北海道で大量のニシンがとれはじめ、以来庶民の口にも広くいきわたるようになった。現在はほとんどが「塩漬け」されたものが流通していて、塩抜きをして出汁に浸して食べるのが一般的。驚くことに、数の子を食べるのは日本人だけなのだとか。ニシンは、アメリカやカナダ、アラスカ、ロシア、北欧などで盛んに食べられているけれど、数の子は食べないのだ。数の子好きとしてはなんとももったいないと思ってしまうが、海外で捌かれた数の子は現地で塩漬けにしたり味付けしたりして、どんどん日本に輸入されているのが現実だ。
ちなみに、アメリカ・カナダ産は強い歯ごたえで美味しい高級品。アラスカ産は大きめで歯ごたえがいい。ロシア産は小ぶりで細身。ヨーロッパ産は歯ごたえは少ないがお手頃値段……と地域の個性も違う。日本の産地はもちろん北海道。数の子加工は留萌市が中心地と言われている。
塩漬けされた数の子は食べるまでにとても手間がかかるのが難儀なのだが、あのプチプチコリコリとした歯触りや食感がなんともたまらなく、手間暇かけても下処理をきっちりして食べたくなるのだ。
かの美食家北大路魯山人もその著書で「数の子を歯の上に載せてパチパチプツプツと噛む、あの音の響きがよい。もし数の子からこの音の響きを取り除けたら、到底あの美味はなかろう」と記している。
難儀はもう一つ。
数の子は、合わせて飲むお酒がものすごく限られるということだ。白ワイン、赤ワイン、ビール……、どれを一緒に飲んでも、のけぞるくらいに生臭い。機会があればぜひ試していただきたい。とにかく、生臭く、金臭く、どうにも収拾のつかない風味が口と鼻に残る。
マヨネーズ和えにするとかレモンを絞るとか、いろんな手法でワインやビールと合わせようと工夫をしても、残念ながら生臭みが消えることはほぼない。焼酎やウイスキー、ウォッカなどは悪くない。ただ、蒸留酒は数の子の繊細な味を消してしまうことがある。
そう、数の子にぴったりくるのはなんてったって日本酒なのだ。当然ながら生臭みは感じられないし、日本酒がもつ米由来の旨味やコクが数の子のおいしさをぐっと際立たせてくれる。
お勧め銘柄は東京の地酒、「純米無濾過原酒 十右衛門」(豊島屋本店)だ。東京に地酒があるのかと思われるかもしれないが、この豊島屋は創業、慶長元年(1596年)。現在東京都にある酒蔵10蔵の中で最も古い蔵元だ。江戸後期天保七年(1836)の『江戸名所図会』にも、「鎌倉町 豊島屋酒店白酒を商ふ図」が描かれている。また、同社のメインブランド「金婚」は、神田明神、明治神宮、山王日枝神社の御神酒として納められている。とにかく由緒正しい江戸のお蔵元なのだ。
硬水仕込みが多い東京の酒らしく、芯の通ったコクが感じられる辛口でありながら、なめらかさも併せ持つバランスのいい味わい。原酒の強さはなく飲み心地は意外に優しい。ミラノ万博サテライトイベント「ミラノSake Week」にも出品され、海外からも注目されているブランドだ。お燗にすれば数の子の歯触りと特有の旨味を倍増させてくれる。不思議に生臭みを消し、魚卵の甘さを楽しませてくれる。
数の子、お正月だけといわず、これからの旬をぜひ味わってほしい。
※掲載情報は 2016/02/19 時点のものとなります。
トータル飲料コンサルタント/ソムリエ
友田晶子
米どころ酒どころ福井県に生まれ。ソムリエとして酒類業界に携わり、ワイン・日本酒・焼酎・ビール・カクテルと幅広く取り扱う。業界25年のキャリアと女性らしい感性を活かし、一般向け・プロセミナー、飲食関連イベントの企画・開催、PR事業アドバイス、輸入業者や酒販店・料飲店・ホテル旅館などプロ向けコンサルティング、観光PR支援等を行っている。各種専門家がガイドを務める人気のインターネット検索サイトAll Abouの日本酒・焼酎・ワインガイド。「わかりやすい説明」には定評がある。公式HP内で連載中の「おいしいラク学講座」では、日本酒や焼酎、ワインやビールやスイーツ、チーズにまつわる役立つコラムとおつまみレシピなどを常時更新中。田崎真也氏オーナー、ワインバー「アルファ」(銀座)代表。「シュヴァリエ・ド・タスト・フロマージュ」(フランスチーズ鑑定騎士団)。 日本料飲ビジネス研究会会長/東京芸術学舎 非常勤講師/ふくい食のアンバサダー・福井ブランド大使/球磨焼酎大使/著書「世界に誇る国酒~日本酒~」が、グルマン世界料理本大賞グランプリ受賞!/日本ロシアフォーラム2014「食と農」パネリスト