夏はパンクなウィスキー アードベッグの痛快な新作

夏はパンクなウィスキー アードベッグの痛快な新作

記事詳細


紹介している商品


常識をぶち破るスコッチウィスキー「アードコア」

 僕の記事の中では今までも音楽と酒のペアリング、音楽と酒の素敵な関係について触れてきました。ニューヨークワインとビリー・ジョエルは、僕の考えうる最高のペアリングの一つ。味わいだけではなくその向こうにある物語と結びついて、その関係はより幸せなものになっていきます。

 

僕はいろいろなジャンルの音楽が好きで、そのひとつがパンク系。オフスプリングやフォールアウトボーイは来日公演に欠かさずに行きますし、そのフォールアウトボーイとパラモアのジョイントツアーは東海岸まで乗り込んで。グリーンデイ的なものから、ストラングラーズ的、クラッシュ的なものまで(とここまで書いて…すいません、かなりマニアックになってしまいました)。

 

とはいえ、パンクに合う酒って何だろうと考えると、ちょっと難しい。ワインの場合、パンク的な生き方をしている生産者とか、パンクのような既存の常識を打ち破ったワイン、というように、そのものよりも、ストーリーとの相性がいいな、というのが実感。

 

そんな折、まさかのコンセプト。スコッチウィスキーという、それこそ伝統と誇りを重んじ、秘伝のレシピとかたくなに守られてきた製法、という厳格さをもって生まれる保守本流の酒が、パンクをテーマにした作品をリリースするというのです。驚きました。確かにスコッチが生まれるスコットランドは、パンキッシュなUKロックが数多く生まれてきた土地柄。グラスゴーを中心的に革新的な世界を驚かせてきた音楽が生まれた場所でもあります。でも、なんでまた。

 

 仕掛けたのは「アードベッグ」。1815年にスコットランドの中でも名門が揃うアイラ島で生まれたシングルモルトウイスキー。ピートが非常に強くスモーキーでありながら繊細な甘さと高い品質。その風味は、“ピーティーパラドックス”との愛称もあり、クセになる個性的な味わいから“アードベギャン”と呼ばれる熱狂的なファンに愛されるカルト的な存在でもあります。カルト的と言っても、世界130ヶ国 10万人以上のコミッティーメンバーが存在すると言いますし、日本においてもスコッチウィスキーとしてはアクセスしやすく、全国各地のバーで味わうことができます。

 

アードベッグは、その世界中の熱狂的なアードベギャンをはじめとしたモルトファンとともに祝う 「アードベッグ・デー 」 を2012年から、毎年1回、世界で同日開催。ここでの楽しみはその年だけの限定アードベッグのお披露目。今回掲げられたテーマは「パンク」。そしてその思いを表現した2022年の限定商品が「アードベッグ ARDCORE(アードコア)」でした。

ふれこみは「極限まで焙煎したモルトで、ウイスキーのルールを破壊する」。極限まで強く焙煎したブラックモルトを使うことにより、今までにないスモーキーで尖がった印象のアードベッグに。尖っているとはいえ、香りも味わいもさすが名門の風格。ダークチョコレートやキャラメル的な大人の甘味の中から、アニスや炭の香りが立ち上がる。フェンネルなどハーブの清涼感に、同じ清涼感ながらスモーキーで野性的なライムやオリエンタルなスパイスというエキゾチックさも漂わせ、そこの糖蜜、ビスケット、上質なピーナッツバターのような甘味、艶が絡んできます。甘味とピートという横のグルーブに、スモークと清涼というビートがタテに加わって、なるほど、常識はずれか。

 

パンクロックに例えれば、80年代に一時代を築いた円熟味がありながらも若々しいベテランパンクロッカーのベーシストとドラマーと、今の時代を切り開く野心をもってギターをかき鳴らし、力強いハイトーンヴォイスで、歌声を響かせる女性パンクロッカーの共演、なんていったら飛躍すぎでしょうか。ついでに飛躍すれば、リリックは、甘く切ない出来事を断ち切って明日へ向かいたいけれど、でも、その甘く切なく、また傷ついた自分も愛したい。だから今夜は仲間と飲む。いつもとは違うバーで刺激的に。なんていう明るさと度胸と、でもどこか甘えたい心とがからみあうような世界観。やっぱり飛躍しすぎたか。

 

ルールを破ると面白い。そのルールがなかなか破られないようなものならなおさら面白い。なぜならそれだけの厳格なルールが出来上がってきたのは、とんでもなく重い理由や必然性があって、だから破るならば相当な重圧と責任感と、そして確かな技術がなければできないこと。だから面白い。軽い気持ちで、つたない技術、思いつきでできるようなものではありません。

 

スコッチウィスキーと言う世界で、そして熱狂的なファンを持つアードベッグが、ルールを破っていくというのは困難なことだけれど、逆説的に、アードベッグならば、アードベッグだからこそそれができる。

 

パンク心に火をつけられたスコッチウィスキー。音楽とのペアリングはもちろん、明日なにかやってやろう、小さいこと、日々の仕事、人間関係のちょっとした変化でいいと自分の背中を前向きにキックしてくれるような気がします。そのキックは強いけれど、でも自分の今をちゃんと甘やかせてもくれるものでしょう。

 

僕はストレートでぐっと一息で一口あおってから、そのあとはゆっくり。邪道な感じですが途中で氷を1つ落として。みなさんへのこの夏のおススメはオンザロック。パンクロック…それがいいたいだけ、というわけではなく、ほどよい冷涼感がこのウィスキーのパンチと甘やかさをきれいに感じさせてくれます。ロンググラスにクラッシュアイスを詰めてそこにアードコア。オレンジやマンゴーなどのフルーツとミントを添え、少しモヒート的にしてもエキゾチックさが増す感もあります。

 

パンクというフレーズは常識破りの作り方で生まれたから。ならば、この夏、私たちも存分にパンクな感じで楽しみましょう。仕立てのいいジャケットとスコッチウィスキーという紳士なイメージを離れて、バンドのツアーTシャツと短パンやダメージデニムで楽しむ。いいじゃないですか。

夏はパンクなウィスキー アードベッグの痛快な新作

▲写真左から限定商品 「アードベッグ アードコア」「アードベッグ ウィー・ビースティー 5年」そして定番の「アードベッグ 10年」。

「アードベッグ・デー 2022」

3年ぶりの開催となったアードベッグ・デー。日本では2022年6月3日(金)、4日(土)、 5日(日)の3日間、Q Plaza HARAJUKU(キュープラザ原宿)1Fにて開催。初日には、オープニングイベントがあり、お披露目を楽しみに中村獅童さん、尾上右近さん、佐田真由美さん、クリス-ウェブ佳子さんをはじめ、アードベッグファンのセレブリティーも参加。今年のテーマである“パンク”を体現した会場では、既存のアート作品に新たに手を加え、PUNKTUREDなアートに変化させていく「PUNK LIVE Paint(パンク ライブ ペイント)」やステージでのライブもおこなわれ、会場は大いに盛り上がりました。

夏はパンクなウィスキー アードベッグの痛快な新作

※掲載情報は 2022/07/04 時点のものとなります。

  • 1
ブックマーク
-
ブックマーク
-
この記事が気に入ったらチェック!
夏はパンクなウィスキー アードベッグの痛快な新作
ippin情報をお届けします!
Twitterをフォローする
Instagramをフォローする
Instagram
Instagram

キュレーター情報

岩瀬大二

ワインナビゲーター

岩瀬大二

MC/ライター/コンサルタントなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカーなどの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」。ワインに限らず、日本酒、焼酎、ビールなども含めた「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。
フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。
日本ワイン専門WEBマガジン「vinetree MAGAZINE」企画・執筆
(https://magazine.vinetree.jp/)ワイン専門誌「WINE WHAT!?」特集企画・ワインセレクト・執筆。
飲食店向けワインセレクト、コンサルティング、個人向けワイン・セレクトサービス。
ワイン学校『アカデミー・デュ・ヴァン』講師。
プライベートサロン『Verde(ヴェルデ)』でのユニークなワイン会運営。
anan×本格焼酎・泡盛NIGHT/シュワリスタ・ラウンジ読者交流パーティなど各種ワインイベント/ /豊洲パエリア/フィエスタ・デ・エスパーニャなどお酒と笑顔をつなげるイベントの企画・MC実績多数。

次へ

前へ