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ヨーロッパのお菓子の歴史を感じさせる濃厚な甘さと深いコク
「ザッハトルテ」は、ウィーンを代表する銘菓として今に受け継がれる、世界で最もよく知られる、チョコレートケーキの王道。1832年、オーストリアの宰相メッテルニヒに仕える料理人の一人だったフランツ・ザッハによって考案されたもので、美食に明け暮れる貴族のために新しいデザートを、というメッテルニヒの要望に応えて生み出されました。その正統を継ぐオーストリア、ウィーンにある洋菓子店「デメル」のザッハトルテは、その最高峰です。デメルは、「デメルを訪れずしてウィーンを語るなかれ」と言われるほど、世界に知られる高級洋菓子店で、創業はフランス革命の始まる3年前の1786年と言いますから、歴史は約230年にも及びます。オーストリアを長く治めたハプスブルグルク家との縁も深く、デメルのお菓子は、数多くの王侯貴族に愛されてきました。 私も初めてのヨーロッパ旅行でウィーンを訪ねた折、デメルで本場のザッハトルテをいただきました。あまりの甘さに驚きましたが、それだけではない深い味わいに、ヨーロッパのお菓子文化の奥深さを感じたものです。うれしいことに、今は日本でもデメルのお菓子がいただけます。渋谷区神宮前にあるデメル日本店は、シャンデリアやテーブル、椅子などのインテリアはすべてウィーンから運ばせたとのことで、店内はウィーンの本店を思わせる豪華さと気品に満ちています。「デメル」の「ザッハトルテ」は、チョコレート入りのスポンジケーキの表面にアプリコットジャムを塗り、チョコレート入りのフォンダンでコーティングして仕上げたもの。「ほどよい甘さ」が流行りの現代には珍しく、強烈ともいえるほどの甘さですが、これが由緒正しい正統派。砂糖を加えずにホイップした脂肪分少なめの生クリームと合わせると甘さが調和されてまろやかに、よりリッチな味わいになるように感じます。ぜひお試しを。
※掲載情報は 2015/02/20 時点のものとなります。
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キュレーター情報
食生活ジャーナリスト
岸朝子
大正12年、関東大震災の年に東京で生まれ、女子栄養学園(現:女子栄養大学)を卒業後、結婚を経て主婦の友社に入社して料理記者歴をスタート。その後、女子栄養大学出版部に移って『栄養と料理』の編集長を10年間務める。昭和54年、編集プロダクション(株)エディターズを設立し、料理・栄養に関する雑誌や書籍を多数企画、編集する。一方では、東京国税局より東京地方酒類審議会委員、国土庁より食アメニティコンテスト審議員などを委託される。
平成5年、フジTV系『料理の鉄人』に審査員として出演し、的確な批評と「おいしゅうございます」の言葉が評判になる。
また、(財)日本食文化財団より、わが国の食文化進展に寄与したとして食生活文化金賞、沖縄県大宜味村より、日本の食文化の進展に貢献したとして文化功労賞、オーストリア政府より、オーストリアワインに関係した行動を認められてバッカス賞、フランス政府より、フランスの食文化普及に努めた功績を認められて農事功労賞シュバリエをそれぞれ受賞。
著書は『東京五つ星の手みやげ』(東京書籍)、『おいしいお取り寄せ』(文化出版局)他多数。