ニッポンのカレーライスへの回帰と再構築

ニッポンのカレーライスへの回帰と再構築

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「おうちのカレーライス」と認識できるものがいかに少ないかを知ることとなる味

仲良くしているカレー研究家の女性がいる。大変な美人で素敵な女性なのだが、それ以上に飲食の現場での動きぶり、仕事ぶりがパワフルで、なおかつカレーやレストランへの愛に溢れていて魅力的な人なのだ。一条もんこさんという。テレビやメディアでもお馴染みの人気のカレー研究家。

 

ラーメン業界とカレー業界。もしそんなものがあるのなら、ラーメン業界はなかなか人材が豊富だと感じる。ラーメン女子大生、ラーメン女優、ラーメン官僚にラーメンミュージシャン。キャッチーなアイコンになり得る存在やアイドルに育つ可能性を持つ人が多い。
カレーのアイドルに一番近かった水野仁輔氏が研究者、求道に身を置いて以来、頭一つ抜けたアイコン、アイドルが足りないのがカレー業界の弱い部分だと感じていた。冗談を言っているのではなく、キャッチーでみんなが知っていてみているとウキウキするような。そういう旗を振ってみんなを引っ張ってくれるような人材が足りていないのがカレー業界かもしれないと少し心配していたのだ。そんな中でやっていることの意義も意味もあるアイコン、アイドルになり得るのが一条もんこさんだと思っている。ちゃんと実力もバックボーンも持っている。そして可愛らしい部分や真摯な姿勢さえ持ち得ている。

 

一条もんこさんはインドレストラン『エリックサウス』の出身。そして現在は下北沢にこのカレー店あり、松尾貴史さんが店主を務める「般゚若」の厨房を仕切っている。飲食の現場でからだを動かしている人。そういう人をわたしは強く信用している。

ニッポンのカレーライスへの回帰と再構築

そんな彼女が自分名義のレトルトカレーを出すことになったと聞いた。はやい時期に彼女がそっとわたしに教えてくれたのだ。そして先日幕張で開催された食品のトレードショー、「FOODEX JAPAN 2018」で、一緒にいらっしゃった開発メーカーの方を引き合わせてくれた。『合同会社 36チャンバーズ・オブ・スパイス』。尖ったコンセプトを持つ面白い商品の開発を精力的に続ける新しい会社だ。代表からその場で発売前の試食用の製品をいただいた。まだボックスパッケージも出来上がっていない完成間もない貴重なひと袋。なんという光栄。

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そして後日。

 

試したくてウズウズする気持ちを抑えながら色々な雑事をこなし、さて、やっと時間を取ってゆっくり味わえるタイミングだ。皿を温めて、ごはんを準備して。きちんと深く温めたレトルトパウチパックを開く。そう、レトルトパウチパックを持った瞬間に「きちんと温めなければいけない製品だ」とわかったのだ。袋はかなりデコボコしており、それはつまり、中の具材のカットの大きさが手に取るようにわかる、ということだ。こういうものはきちんと腰を据えて温め、満遍なく具材に熱を行き渡らせなければいけない。あとでボックスパッケージの正式発売盤を見せていただくと、温め時間は5分から7分と、標準的なレトルトカレーよりも長い時間が指定してあった。

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さて。
封を切ってごはんの上にカレーソースを流していくと、パックの奥から大きな具材がどんどん転がり出てくる。予想通り大きなカットのものばかりであった。

 

ひとくち運ぶと。
おや、これは。とても素直な味。

 

甘く深い奥行き。だしの旨味が広がるクラシックなカレーライス。うん、クラシックという言葉を使いたくなったのだ。一条もんこさんがおっしゃっていた印象的な言葉「21世紀のおふくろの味」。それを念頭に開発、調整を続けたそうで、なるほど言葉通りの味が感じられる。しかも大事な部分は「昔ながらの」ではないところ。クラシックスタンダードをもう一度見直して再構築、それを以って「新世紀のカレーライス」として着地させてある。それがこれ、だから「あしたのカレー」なのだ。心から納得がいってぐうの音も出ない。秀逸なコンセプトだと感じた。

ニッポンのカレーライスへの回帰と再構築

具材はスタンダードなじゃがいも、玉ねぎ、ニンジンというラインナップ。そこにポークが入る。大きめのカットで野菜も含めてどれもボリュームを感じるサイズ感。これがあるからこそ日本のカレーライスと胸を張れる。カレーライスとはもはやどこの国のものでもなく、日本食なのだ。

ニッポンのカレーライスへの回帰と再構築

カレーソースは穏やかでうまみ深く、それが喜びにつながる正しい日本のカレーライスの味だ。ポークはスジにそってはらりとくずれる柔らかさ。噛んでゆくと旨味も十分感じられ、特に脂身の部分などはうれしさ込み上げる味わいで驚かされた。ジャガイモの少しねっとりする感じ、ニンジンが舌で潰せる感じも大変良い。よくまあこんな仕上げにできたものだ。一つひとつの主張が激しいスパイスは平らにならされて、でこぼこを感じさせないバランスのよさ。フラットという意味ではなく、スパイス達の一体感が大事なのだ。日本のカレーライスはこうでなくてはいけない。

 

これはやはり日本食であり、日本の食卓の味がする。そこがとても大事なのだ。長く続いてきた固形ルウなどを使って作るカレーライスも、時代とともに少しずつモダンに変化していることをお気づきか。あまりにも日常的な食べ物であるカレーライスは時にそういう変化が気づかれづらい。顕著なのがその色だ。カレーは黄色、ではもはやない時代。現代カレーライスは茶色が基本。そこを黄色寄りに寄せているこだわり、原点回帰。そしてだしの旨味にこだわった部分。クラシックだけではない、もう一度日本食としてのカレーライスをよりよいものにと考えてのバランス。
そしてなにより「お代わりが欲しくなる」カレーライスというまごう事なき正しい日本のカレーライス像を具現化した彼女とメーカーの情熱。

ニッポンのカレーライスへの回帰と再構築

「あしたのカレー」という名前につけられた想いは「二日目のカレーの美味しさ」を知る全日本国民への「二日目のカレーがその場で食べられる」という回答と、あした=未来、という、新世代のスタンダードを志す心意気。その二つが強く込められいている。これはもはや彼女の口から聞くまでもない。味がそれを語るのだ。

 

これだな、という安心感と満足感が強く湧き上がる、ジャパニーズホームスタイルカレーが誕生した。
長く愛される予兆を強く感じている。

※掲載情報は 2018/04/20 時点のものとなります。

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キュレーター情報

飯塚敦

カレーライター・ビデオブロガー

飯塚敦

食、カレー全般とアジア料理等の取材執筆、デジタルガジェットの取材執筆等を行う。カレーをテーマとしたライフスタイルブログ「カレーですよ。」が10年目で総記事数約4000、実食カレー記事と実食動画を中心とした食と人にフォーカスする構成で読者の信頼を得る。インドの調理器具タンドールの取材で09年秋渡印。その折iPhone3GSを購入、インドにてビデオ撮影と編集に開眼、「iPhone x Movieスタイル」(技術評論社 11年1月刊)を著す。翌年、台湾翻訳版も刊行。「エキサイティングマックス!」(ぶんか社 月刊誌)にてカレー店探訪コラム「それでもカレーは食べ物である」連載中。14年9月末に連載30回を迎える。他「フィガロジャポン」「東京ウォーカー」「Hanako FOR MEN」やカレーのムック等で食、カレー関係記事の執筆。外食食べ歩きのプロフェッショナルチーム「たべあるキング」所属。「ツーリズムEXPOジャパン」にてインドカレー味グルメポップコーン監修。定期トークライブ「印度百景」(阿佐ヶ谷ロフトA)共同主催。スリランカコロンボでの和食レストラン事業部立ち上げの指導など多方面で活躍。

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