鬼気迫る辛さと酸っぱさ、旨味の嵐のポークカレー

鬼気迫る辛さと酸っぱさ、旨味の嵐のポークカレー

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インド・ゴアのポークカレーは西所沢でいかに美味しく育ったか

鬼気迫る辛さと酸っぱさ、旨味の嵐のポークカレー

西所沢のロードサイドに溶け込むように佇むちょっと雰囲気ある店『ネゴンボ33』。

 

その少し変わった名前のうまいカレー店の店主、山田シェフとは他の取材やなにやらでおしゃべりができる仲になっている。去年の秋、山田シェフが「レトルトカレーが出るんですよ。」と教えてくれたことがあった。おやおや、出るんですよ、じゃなくて出たんですよの間違いでは、と不審な顔をしているわたしに笑いながら「いや、前に出たものとはまた別のメーカーさんからなんです。」と教えてくれた。
それはなんというか、すごいことではあるまいか。ひとつの看板で他のメーカーをまたいで製品が出るなどなかなかないはずだ。それも1年と空けず。これはすごい。

 

そんな話と前後して『36チャンバーズ・オブ・スパイス』という会社から「ネゴンボ33のレトルトカレーの試作品です。感想を聞かせてください」とパッケージなし、テスト生産のものが極秘裏に送られてきた。なるほどこういう風につながっていたのか。
「合同会社 36チャンバーズ・オブ・スパイス」は以前この連載のわたしの記事で紹介をした一条もんこさん監修の「あしたのカレー」を開発した実力派の食品開発メーカー。尖ったコンセプトを持つ面白い商品の開発を精力的に続ける新しい会社だ。色々合点がいって、その試作完成品を食べてみればこれがかなりの出来で大いに感激した。よくまあこんないいものを作ったものだと感じ入るほどの完成度。果たしてあの製品、今回ほぼいじらず変わらずの内容で発売が決定したようだ。なんということか。

鬼気迫る辛さと酸っぱさ、旨味の嵐のポークカレー
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そして昨日。
『36 chambers of spice』のお二人に誘われて、彼らの元を訪ねて行った。なんとそこには山田シェフも同席。ご無沙汰をしていたので嬉しさひとしお。美しいパッケージの「ネゴンボ33監修 ポークビンダルー」をいただいた。宴席での楽しいおしゃべりや噂話に花が咲き、とても楽しかった。話題の中心はこのカレーの開発の話。山田シェフと『36 chambers of spice』の田中さん、小川さんから楽しいエピソードをたくさんうかがった。

 

ポークビンダルーはインド西海岸中部・ゴア地方がポルトガル統治であった時代に広まり、現在ではゴアを代表する料理とも言われる。オリジナルはポークをワインビネガー、ガーリック等を使って漬込み、その後に煮込み調理をするもの。ゴアで広まったものは、そこにスパイスやチリーを加えて完成させる。多くのインドでの宗教戒律では豚肉は食べないという決まりがあるが、そんな土地で長期間のポルトガル統治があったため豚肉を使うカレーが生まれたという面白い料理だ。

鬼気迫る辛さと酸っぱさ、旨味の嵐のポークカレー

さて、翌日。改めて食べてみようと準備をした。
せっかくなのでピンクペッパーと紫タマネギをパッケージ通りに配してみた。

 

封を切るとまずはどっしりした香りが上がる。
スパイスが鼻を抜ける、というよりももっと野太い香り。これはきっと肉、ポークの匂いだろう。そこに酸味感じる香りも乗っている。むせるというほど強くなく、酸味のエッヂを抑えるようなスパイスも感じられる。実に強く食欲が刺激される匂いだ。

鬼気迫る辛さと酸っぱさ、旨味の嵐のポークカレー

皿に広げるときにまず真っ先に飛び出してきて目に飛び込むのがオレンジ色の油。試作の時よりも少し控えめになった感があるが、これはとても大事なもの。油がきちんと強い、それはつまり辛かったりスパイスのいい香りだったりをきちんと油に閉じ込めて大事に扱ってあげている証拠なのだ。

鬼気迫る辛さと酸っぱさ、旨味の嵐のポークカレー

まず、ひと口目がグイッと辛い。そして酸っぱい。これは!とワクワクする気持ちが高まる。うまいのだ。
初めに酸味がくるが、その酸味はスパッと切れ味が良く変に後を引かない。その後ろから口とお腹にグッとくる厚み感じる辛さがやってくる。時たまつぶの黒胡椒がガリッときてその香りが華やかに広がるのもなんとも楽しい。ホールの黒胡椒を贅沢に使ってあることからもこのカレーの価値、やりたかったところが見えてくる。そんなことを考えているうちに頭のてっぺんから汗が湧き出す。お腹がグイッと辛さで温まる。これは楽しい食体験だ。

鬼気迫る辛さと酸っぱさ、旨味の嵐のポークカレー

そして肉。肉の食べ応えがとんでもない。
1個でも十分満足できるようなクオリティの分厚く大きいポークがドスンと2個入る。脂部分が舌の上でつるりととろけ、肉部分は柔らかいがかみごたえも残され、噛めば噛むほどうまみが溢れ出す。実にうまい。ポークの醍醐味、脂の部分の旨さが大変なものでちょっと忘れがたい。ごはんとともに肉部分、特に脂部分を口に含み、下で押しつぶして口の中をかき回してやるとえもいわれぬ幸せがやってくる。肉の甘みというものが楽しめるのだ。肉煮込み料理の嬉しさ、幸せを堂々併せ持つ。よくある頼りないおっつけの肉が入るレトルトカレーとは全く世界観が違う。お肉入りカレーではない。これは肉自体を辛くて酸っぱいソースで楽しむ食べ物なのだ。

鬼気迫る辛さと酸っぱさ、旨味の嵐のポークカレー

ピンクペッパーを数粒散らしてやると、爽やかな香りが心地よい。もう一つ、とある場所からいただいた柿を使った甘いアチャールを乗せてやった。これを合わせるとまた実に旨い。このポークビンダルー、アレンジにも十分対応する懐の深さと力強さがある。

 

熱々の時には気がつかなかったがカレーソースがある程度の温度に落ち着くと、辛さ、酸っぱさの後ろに甘みをたたえていることを気がつかされる。
そしてごはんにかけた時には気づかなかった水分。カレーソースの野菜を煮込んだとろりの部分とは別に、さらりの汁が少し入る。それが知らぬ間にごはんの下に入り込み、よく染み込んで食べ進めるごとに幸せが波のようにやってくる。これは大したものだ。

鬼気迫る辛さと酸っぱさ、旨味の嵐のポークカレー

レトルトパウチの範囲とイメージから大きく逸脱した、レストランそのままの料理を袋詰めしたもの、という感を強く感じる味。試作完成品を食べた時と同じ高い満足感。あそこから引き算はせずにそのまま、いいもののまま発売を決めたらしい。
山田シェフが「うちの妻が自店のものより美味しいというんですよ」と笑っていた。

 

少し前に「あしたのカレー」、「チェッターヒン」、「ルンダン」などを発売している36チャンバーズ・オブ・スパイスだが、あの製品ラインナップの完成度もすごかったが、この「ポークビンダルー」の鬼気迫る完成度といったらない。
そしてジャパニーズカレーライスの王道「あしたのカレー」と激辛の「チェッターヒン」等。その中にこの「ポークビンダルー」がラインナップされるというのが本当に面白い。
強い個性の味ばかりだが、作り込みと磨き込みに圧倒される。監修の面々もツワモノ揃いで、そういうところからも36チャンバーズ・オブ・スパイスという会社の強さや信頼なども見えてくる。その動向を追い続けたいメーカーだ。

鬼気迫る辛さと酸っぱさ、旨味の嵐のポークカレー

そして製品としての「ネゴンボ33監修 ポークビンダルー」。とにかく旨味。旨味が強くて辛くて酸っぱい。心と舌を揺さぶられる味だ。パッケージ裏に小さく隠れている、あの西所沢のお店の看板のかわいい猫ちゃんイラストに騙されてはいけない。辛いのだ。酸っぱいのだ。

 

そして、わたしは辛いものは好きだが辛いだけのものには興味がない。
辛く、旨いもの。そういうものが欲しい時は迷わずにこれを選ぶべきだ。

※掲載情報は 2019/02/28 時点のものとなります。

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キュレーター情報

飯塚敦

カレーライター・ビデオブロガー

飯塚敦

食、カレー全般とアジア料理等の取材執筆、デジタルガジェットの取材執筆等を行う。カレーをテーマとしたライフスタイルブログ「カレーですよ。」が10年目で総記事数約4000、実食カレー記事と実食動画を中心とした食と人にフォーカスする構成で読者の信頼を得る。インドの調理器具タンドールの取材で09年秋渡印。その折iPhone3GSを購入、インドにてビデオ撮影と編集に開眼、「iPhone x Movieスタイル」(技術評論社 11年1月刊)を著す。翌年、台湾翻訳版も刊行。「エキサイティングマックス!」(ぶんか社 月刊誌)にてカレー店探訪コラム「それでもカレーは食べ物である」連載中。14年9月末に連載30回を迎える。他「フィガロジャポン」「東京ウォーカー」「Hanako FOR MEN」やカレーのムック等で食、カレー関係記事の執筆。外食食べ歩きのプロフェッショナルチーム「たべあるキング」所属。「ツーリズムEXPOジャパン」にてインドカレー味グルメポップコーン監修。定期トークライブ「印度百景」(阿佐ヶ谷ロフトA)共同主催。スリランカコロンボでの和食レストラン事業部立ち上げの指導など多方面で活躍。

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