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一枚の煎餅で二度美味しい
京都の老舗せんべい屋の軽い揚げせんべいを食べながら、友人の家で雑談していました。「宝くじ3億円当たったら家を買うか旅をするか?」、「スーパーカーとキャンピングカーなら、どちらを買うか?」など現実味のない話を熱く語っておりました。話を続けているうちに、どんどん現実的になっていき、「焼き鳥は塩派?タレ派?」から、ついには「甘醤油と塩のどちらがいい?」と食べていた揚げせんべいにまで話は及びました。
僕は意識しながら再度、食べ比べました。「どちらの味も大好きだけどなぁ……甘醤油味に塩をかけたら、その選択肢はなくなるよね?」
僕は友人宅の味塩の瓶をお借りして、ふってみました。
「ダメダメダメ……」
長年かけて作り上げてきた味をなめんなよと、老舗せんべい屋から怒られているようなしょっぱさでした。
それから何年か経った後のことです。東京は葛飾区の街を散歩していました。葛飾周辺は古くから稲作が盛んで米を使った団子や煎餅が作られるようになった地域です。手焼きの煎餅をひっくり返している光景を見かけるのもその名残と言えるのでしょう。
柴又や青戸など葛飾の街を歩き回る中で、富士見堂の「白ほおばり」に出会いました。煎餅は玄米のまま仕入れ、精米まで自分のところでされているそうです。生地作りから全て一つの会社で行っている煎餅屋はなかなかありません。
この「白ほおばり」を食べた時、ふと京都の友人宅での雑談を思い出しました。甘醤油味の軽い揚げせんべいなのですが、薄味で上品に仕上げられています。そして山椒塩の入った小袋がついているのです。これを丁寧に破り、煎餅の上に少しだけまぶします。そして口に入れてみます。甘醤油味と塩味の選択肢にはない味わいが待っておりました。
※掲載情報は 2017/02/20 時点のものとなります。
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キュレーター情報
旅行作家・エッセイスト
イシコ(石原英一)
1968年岐阜県生まれ。静岡大学理学部数学科卒業後、大道芸を使った子供ショーをしながら全国を行脚する生活を10年程続ける。2003年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。5年間限定で国内外問わず50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動や環境教育を行う。一方、女性ファッション誌編集長、WEBマガジン編集長を経て、「MONOマガジン」や「散歩の達人」などに連載を持つようになり、エッセイストとしての活動を始める。2008年から2009年まで「SKYWARD」、「SANKEI EXPRESS」、「nakata.net」など新聞、雑誌、WEBに「旅」や「食」をテーマにした連載やブログを持ちながら世界一周。
帰国後、岐阜県安八町に移住し、ヤギと暮らしながら、「旅」と「散歩」をテーマにWEB、書籍、テレビ、講演、商品プロデュースなどを通して表現している。著書に「世界一周ひとりメシ」(幻冬舎文庫)、「世界一周ひとりメシ in JAPAN」(幻冬舎文庫)、「世界一周飲み歩き」(朝日文庫)がある。