水と緑の国の静かなる情熱の火。「熊本ワイン」、美しく優しい清涼

水と緑の国の静かなる情熱の火。「熊本ワイン」、美しく優しい清涼

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熊本の豊かな恵みを体現するワインで分かちあう、明日への元気

火の国。熊本といえばこのフレーズだが、実は、きらめく水、健やかな緑の国でもある。日本有数の名水、地下水脈は、都市生活、豊富な農産物に恵みと潤いを与えている。熊本市内のほぼすべての生活水は地下水でまかなえ、「蛇口をひねればミネラルウォーター」という表現は過言ではなく、ホテルでも水道水を安心して飲めるというのも、この地のすばらしさのひとつだろう。その美しい水を感じられるのが、「熊本ワイン」だ。ここ数年、ワイン愛好家、プロの間でも噂が広まり、品薄状況が続いている注目のワイナリーだが、私自身一昨年までは、「熊本でワインなど作れるのか?球磨焼酎、県北部の日本酒は素晴らしいが、ワインは無理なのではないか?」とイメージだけで語っていたのだけれど、それが大きな間違いであることに気づかされたのが、ここで紹介する『菊鹿シャルドネ せせらぎ』だった。

 

当時の僕のレビューではこんなことが書いてある。「クリアで柔らか。心地よい酸と喉をとおったあとのグリーンな世界、後からやってくる、ふわっとすっきりと、の物静かだけれどキラキラとした陽光が緑の葉を通して感じられる余韻」。繊細なトロピカルゴールドと清涼なグリーンのケミストリーとでも言うのか、濃密さを隠しながらの涼やかな表情を見た。」

水と緑の国の静かなる情熱の火。「熊本ワイン」、美しく優しい清涼

このワインとの出会いがきっかけとなり、市内中心部からもそう遠くはない、熊本ワインさんに何度か訪問のチャンスを得た。そこで出会ったワインたちは、また、素晴らしいものだった。清々しくてどこか懐かしい甘みとともに、肩の力がふっと抜けていく『デラウェア』。かわいらしくて健やかな刺激が顔をのぞかせつつ山奥の野生のストロベリーとクランベリー畑の中に迷い込んだような濃密な酸を感じられる『マスカットベリーA樽熟成』など、都会の忙しさがバカらしくなるようなゆるやかさながら、でも、そこでがんばる人たちにエールを送ってくれているかのような溌剌さもある。涼やかな熊本の緑の渓谷、そのせせらぎや、有明海、天草、雲仙のきらきらとした静かなリフレクション。美しい水の国だからこそのゆるやかと、溌剌。うすはりのグラスで、冷やし目で。

 

昨年、熊本ワインには最大瞬間風速的な話題に沸いた。『菊鹿セレクション五郎丸』。もともと熊本ワインの所有する五郎丸地区の葡萄で作られていたワインだったが、ラグビー人気の沸騰と発売時期が重なり、全国ニュースも騒がせた。数量限定の希少ワインということもあり、即日ほぼ完売。ありがたいことにその直後、現地でテイスティングの機会をいただいた。ポテンシャルとしてはおそらく、2年後3年後ぐらいに素晴らしいものとなりそうなワインだった。話題だけで早飲みされるのはもったいないと感じたが、これも名前を広める機会にはなるのだろう。しかし、あっという間の完売にも、社長に浮かれた様子は微塵もなかった。売れたから作るということはしない。「出来の関係で今年は作る予定はありません」。ビジネスチャンスは逆にリスクでもある。火の国の火は心の中で静かに燃える情熱の火。穏やかな語り口の社長、醸造長。だが心は熱い。その熱い思いを、涼やかで清らかなワインから感じるのは錯覚ではない。

 

2016年4月。幸いにもワイナリー自体は地震の被害は最小限とのこと。機械をひとつずつ動かしながら確認をし、これから畑の確認もあるだろう。乗り越えて……というのは僕らの勝手で厚かましいエールになってしまうが、これからの熊本の元気と美しさの象徴として、ますます楽しく、幸せなワインを提供いただきたいと、思う。全国的には品薄で、アイテムによってはバックビンテージもないものもあるが、直営ショップはもちろん、熊本の酒屋、飲食店でも楽しめる場所は多い。訪れて、飲んで。それもまた、分かち合い、明日を楽しむための力になるかもしれない。清らかさ、美しさ、優しさ、健やかさ。繊細で清涼なワインの奥底に感じるしなやかで熱い力強さに、そのとき、きっと、気づいていただけるだろう。

水と緑の国の静かなる情熱の火。「熊本ワイン」、美しく優しい清涼

実は冬もいい。きりっと冷やして、和風ポトフと。温度が上がって少しずつゆるやかにほどけていく菊鹿シャルドネもまた、うまい。

※掲載情報は 2016/10/17 時点のものとなります。

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キュレーター情報

岩瀬大二

ワインナビゲーター

岩瀬大二

MC/ライター/コンサルタントなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカーなどの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」。ワインに限らず、日本酒、焼酎、ビールなども含めた「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。
フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。
日本ワイン専門WEBマガジン「vinetree MAGAZINE」企画・執筆
(https://magazine.vinetree.jp/)ワイン専門誌「WINE WHAT!?」特集企画・ワインセレクト・執筆。
飲食店向けワインセレクト、コンサルティング、個人向けワイン・セレクトサービス。
ワイン学校『アカデミー・デュ・ヴァン』講師。
プライベートサロン『Verde(ヴェルデ)』でのユニークなワイン会運営。
anan×本格焼酎・泡盛NIGHT/シュワリスタ・ラウンジ読者交流パーティなど各種ワインイベント/ /豊洲パエリア/フィエスタ・デ・エスパーニャなどお酒と笑顔をつなげるイベントの企画・MC実績多数。

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