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名前の由来は「七福神」 140年近くも庶民に親しまれる伝統の味
上野広小路を歩いていると、子どもの頃だった昭和50年代に、寄席で有名な鈴本演芸場の前から太鼓を叩いている音がよく聞こえてきたのを思い出します。子どもながらに寄席に行き、今でもうろ覚えの小咄があります。小学校のテストで、「雪がとけたら何になるか?」という問題が出されたそうです。ほとんどの生徒が「水になる」になると解答したのですが、一人だけ「春になる」と答えた子がいたらしいです。大正解にしたいところでしたが、理科のテストだったので不正解になってしまったらしいです。国語のテストでしたら正解だったのかもしれません。
その鈴本演芸場の隣には、「酒悦」という1675年創業の老舗の漬け物屋があります。うちの父親が「酒悦」の「福神漬」が好物で、一緒に上野公園に遊びに行った帰りにはよく買っていました。
「福神漬」の起源は、明治10年頃に「酒悦」の十五代当主、野田清右衛門によって約10年の歳月をかけて発明されました。当時は漬物といえば塩漬けしかなく、醤油漬が出来るまでに試行錯誤されたようです。また、十五代当主は発明好きで明治維新前には「のり佃煮」を発明したとも言われているようです。
一説によりますと、「福神漬」の名前の由来は、原料が七つの野菜(大根、なす、かぶ、うり、しそ、れんこん、なた豆)であることから、「七福神」に因んで名付けられたと言われています。名付け親は、当時の流行作家「梅亭金鵞(ばいていきんが)」で、すぐ近くの不忍池に七福神の一つである「弁天様」があることから思いついたらしいです。また、他の一説によると「福神漬」は、他におかずがいらないくらいに美味しい為、知らず知らずの内にお金が貯まってしまうので、福の神も一緒に漬けてあるのだろうということから「福神漬」と呼ばれるようになったとも言われています。
いずれにしても、不忍池の「弁天様」と「福神漬」には関係があるように思われます。余談ですが、江戸時代に徳川家康は七福神を信仰しており、家康が狩野派の画家に七福神が宝船に乗っている絵を描かせたことにより、宝船に乗った七福神の絵が広まったと言われています。上野の山には、江戸幕府の菩薩寺の寛永寺があり、そのお堂の1つに不忍池の弁天島におかれた弁天堂があります。
弁天島は、寛永寺の建設時に琵琶湖の竹生島にみたてて作られたそうです。
季節によって異なった景色の美しさを見せる弁天堂は、当時から江戸の町人の間では「福の神」として親しまれていたらしいです。その不忍池の弁天堂を出発点に「谷中七福神」が作られました。
話しを「福神漬」に戻しますと、「酒悦」の「福神漬」には、昔ながらの「福神漬」の他に、魚介の旨みが入った「特選福神漬」、生姜の入った「淡口福神漬」などがあります。
最初にカレーに福神漬けを添えられるようになったのは諸説ありますが、いずれも福神漬の甘さがインド料理の「チャツネ」の代わりとしてカレーの辛さをマイルドにする役割からだったようです。「酒悦」の「福神漬け」は、「カレーの添えもの」というよりは、おかずとして白米に載せて食べるだけでとても美味しいです。「特選福神漬」のほうは、ホタテのエキスが旨みを出し、上品な味わいがします。
写真上の濃い色のものが昔ながらの「福神漬」で、写真下の少し薄い色ものが「特選福神漬」です。
「福神漬」にトッピングとして、「じゃこ」と「かつおぶし」を混ぜても美味しいです。
酢飯に「特選福神漬」を混ぜて、市販の煮込んだ油揚の中に入れれば、簡単に「魚介風味の福神漬いなり寿司」が出来てしまいます。酢飯の中にコリコリとした歯触りがあり、美味しいのでぜひお試しください。また、「福神漬」を海苔巻きに入れても、美味しいです。本来は「お新香巻き」になるはずですが、「福神漬」の甘さが「かんぴょう巻き」の代わりのようにも思えます。
カレーに添えるなら、「福神漬」にジャムを少量加えても美味しいです。甘さ控えめの柑橘系ニューサマーオレンジのマーマレードを加えてみたら、味に深みが出て美味しかったです。
上野にいらしたら、お土産に「お金の貯まる縁起物」の「福神漬」を買いにぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか?
最初に申し上げたように「酒悦」の隣は、寄席の「鈴本演芸場」です。
ここにも何か「ご縁」があるのかもしれません。
少し無理はありますが、これぞ正しく、「笑う門には、福来たる」。
※掲載情報は 2016/02/24 時点のものとなります。
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キュレーター情報
荒岡眼鏡の三代目 眼鏡店ブリンク店主
荒岡俊行
1971年生まれ。東京・御徒町出身。1940年から続く「荒岡眼鏡」の三代目。
父方も母方も代々眼鏡屋という奇遇な環境に生まれ育ち、自身も眼鏡の道へ。
ニューヨークでの修業を経て、2001年に外苑前にアイウエアショップ「blinc(ブリンク)」、2008年には表参道に「blinc vase(ブリンク・ベース」をオープンさせる。
「眼鏡の未来を熱くする。」をミッションに掲げ、眼鏡をカルチャーの1つとして多くの方々に親しんでいただけるよう、眼鏡の面白さや楽しさを日々探求しています。
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