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家族が集まる時にぴったりなお酒
年末から年始にかけては、実家に帰省したり新年の挨拶で互いの両親の家を訪れる機会が増えますが、そんな時の手土産にオススメのお酒を紹介します。
【飛良泉 山廃純米 囲炉裏(いろり)酒】です。
これは、「山廃造りの蔵」として知られる秋田の「飛良泉本舗」が、お燗にすることでより一層美味しさが引き立つお酒として、従来より販売していた「本醸造スペック」の「囲炉裏酒」を、平成23年の冬より「純米スペック」にバージョンアップさせたものです。
香りのトーンは中程度で、「バニラアイス」を想わせる乳製品の香りや、「マドレーヌ」のような焼き菓子の香りがあり、「やや甘くミルキーで、柔和でほっとさせられる香り」が感じられます。
口当りはしっかりとしていて、穏やかな甘味に続いて明快で力強い酸,そしてふくよかな旨みが口に広がり、後口には僅かですが苦味も残ります。
「冷や」で呑むと、やや酸のバランスが強過ぎる感がありますが、湯せんをして「40℃のぬる燗」に仕上げて呑んでみると、強めの酸の輪郭はしっかりと残りつつ、旨味が膨らんで全体の味わいのまとまりがグッと良くなります。
確かにこのお酒は、「お燗」にした方が本領を発揮してくれるようで、「酸が際立つキレのある飲み口で、濃醇で存在感のある、やや【通好み】の味わいのお酒」でした。
本来ならば、年末年始に家族みんなで集まって鍋を囲みながら「囲炉裏酒」を呑む,というシーンをイメージして選んだお酒なのですが、一人で鍋というのも何だか味気ないので、今回は煮込み料理や旬の味覚と合わせてみました。
1品目:豚もつの煮込み
これは皆さん良くご存じの「居酒屋の定番料理」ですが、柔らかくなるまで煮込んだ「豚もつ」に味噌ダレが良く浸み込んでいて、そこに脇役の「大根」、「ごぼう」、「人参」、「こんにゃく」が加わり、さらには「鷹の爪」がピリ辛のアクセントを添えていてお酒を誘う味わいです。
さっそく合わせてみると、まずは味噌の甘味と「囲炉裏酒」の控えめな甘味が口の中で調和しますが、その後からこのお酒の厚みのある酸が上手になって包み込んできて、「もつ煮込み」の味がやや消されてしまう感があります。
相性としては決して悪くはないのですが、「煮込み料理」でこのお酒の酸のレベルに負けないものを選ぶならば、もっと濃厚で甘辛味の「牛すじの土手煮」などの方がベターかもしれません。
2品目:たら白子ポン酢
続いて2品目は 【たら白子ポン酢】です。「真だらの白子」は冬の代表的な味覚の一つで別名「タチ」とも呼ばれ、沸騰させない程度のお湯で湯通ししてからすぐに氷水で締め、ポン酢をかけて「モミジおろし」を添えて食べるのが一般的ですが、クリーミーな食感と共に白子の旨みが口いっぱいに広がり、そしてポン酢の酸味によって白子の濃厚な味わいが程好く抑えられてゆきます。
合わせてみると、白子の凝縮感のある旨味と「囲炉裏酒」のキレのある酸ががっぷり四つに組み合い、そしてポン酢の「すっぱい酸」とこのお酒の「厚みのある酸」という、タイプの異なる酸のつり合いも思った以上にうまく取れています。
お酒と料理の双方の個性がちゃんと口の中で残り、お互いに負けないながらも相手を認め合うような、そんなユニークな印象の組合せでした。
話は変わりますが、家庭で「お燗酒」を愉しむ際に、電子レンジに徳利を入れて温めるという方法は、お酒の温度が急激に変化して風味を壊してしまったり、徳利の形状によっては中のお酒の温まり具合にムラが生じてしまう為、あまりオススメはできません。
かと言ってガスコンロでお湯を沸かして湯せんするのは、お湯の温度管理が難しい上に、追加のお燗をする度にいちいち席を立って台所に行くのが面倒なので、私は写真のような「電気式の湯せん器」を使っています。
これだと、お湯の温度を好みの温度にキープしてじっくりとお酒を温められる上に、卓上に置きっぱなしのまま席を離れずに、「小さめの徳利」で小まめにお燗をすることができるので、常に冷めない状態で「お燗酒」を愉しむことができます。
こんな便利グッズと美味しいお酒と酒肴さえあれば、寒い冬の夜も愉しく過ごすことが出来そうですね……。
【今回紹介したお酒のデータ】
●蔵元 飛良泉本舗(秋田県・にかほ市・平沢)
●山廃仕込み純米酒
●アルコール度数 15%
●参考価格(税抜)720ml 1350円
※掲載情報は 2015/12/14 時点のものとなります。
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キュレーター情報
酒匠・シニアソムリエ
佐藤茂夫
飲食業界に携わって今年でかれこれ30年目となりますが、その間にビヤホール,ブラッスリー,居酒屋,焼肉店,トラットリア,アイリッシュパブ,大型バーベキューレストラン,北海道料理店etc.の様々な業態のお店を渡り歩きました。
またその一方で、「ソムリエ」「利き酒師」「焼酎アドバイザー」「酒匠(さかしょう)」etc.のお酒に関わる様々な資格を取得し、2006年に開催された「第2回世界利き酒師コンクール」では、2度目のチャレンジで優勝を果たすことができました。
本業の合間には、これまで得た知識と経験をもとに、SSI (日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会)が主催する、日本酒の利き酒師講習会で講師役なども務めております。
素晴らしい日本酒の魅力を、できるだけ多くの人に判り易く伝えてゆきたいと思っておりますので、どうぞ宜しくお願いします。