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大正・昭和の丁稚さんが里帰りで食べたのがルーツ
越前がにやふぐ、かれいなど、厳寒の日本海の味覚で知られる北陸の福井県。しかし、地元の方々にとって、福井の冬に欠かせないもうひとつの名物は「水ようかん」なのだそうです。
水ようかんといえば夏に食べるもの、というイメージがありますが、福井県民にとっては、雪降り積もる寒い日にこたつでいただくのは、水ようかんが定番。先日、取材のためJR福井駅に降り立ち、駅ビル内のおみやげ売り場に入ってみると、方々の店に「水ようかんあります」の文字が並んでいて、他所からの訪問者はちょっとびっくりさせられました。
毎年11月から翌年3月にかけての冬季だけ販売される福井の水ようかんは、もともと「でっち(丁稚)ようかん」と呼ばれた、大正・昭和の頃の丁稚さんが里帰りのときに食べたのがルーツだとか。今でも地域によっては、その名称で呼ばれているようです。
余談ですが、福井県は30年以上連続で日本一、社長輩出数の多い県でもあります。伊藤忠商事やデパートの高島屋などの創業者の出身県としても知られていますが、昔も丁稚奉公から始めて、この水ようかんを食べながら立身出世した方々も多かったのではないかしら、などと思いを馳せたりしています。
さて、福井の水ようかんは平たい箱に入っているのが特徴的。溶かした寒天に小豆あんや黒砂糖などを加えただけのシンプルな製法ながら、ぷるんとしたやわらかい食感と、すっきりした甘さや小豆そのものの風味が何ともおいしく、今まで東京で食べていた水ようかんとは、ひと味もふた味も違う感じです。
難点は、糖度が少ないためあまり日持ちがしないこと。しかしながら新鮮なうちにいただくのもまた、おいしさの秘密かもしれません。
福井では、越前地方(嶺北)、若狭地方(嶺南)とも県全域で実にたくさんの菓子店が、吟味した食材でそれぞれの特色を打ち出し、水ようかんの味を競っています。
有名で通販でも手に入りやすいのは福井市内の「えがわ」、「丸岡屋」などですが、水ようかんのおいしさは素材のクォリティとともに、良質な水が決め手だと思いますので、名水で知られる嶺北の内陸地・大野の小さなお菓子屋さんの水ようかんなども、機会があればぜひ召し上がってみてください。
※掲載情報は 2015/01/22 時点のものとなります。
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キュレーター情報
各国・郷土料理研究家
青木ゆり子
雑誌「ぴあ」等の記者を経て料理に目覚め、2000年に「世界の料理 総合情報サイト e-food.jp 」を創設。以後、各国の「郷土料理」をテーマに、サイト運営、執筆、レシピ研究および開発、在日大使館・大使公館での料理人、料理講師等などに携わる。
地方色あふれる国内外の郷土料理の魅力を広く伝えるとともに、文化理解と、伝統を守り未来につなげる地域活性化をふまえて活動を行っている。
「世界の料理レシピ・ミュージアム」館長。著書「しらべよう!世界の料理 全7巻」(ポプラ社)、
「日本の洋食~洋食から紐解く日本の歴史と文化」(ミネルヴァ書房)。