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舞妓さんも驚く辛さと甘さの共演。京都からの刺客は手強かった
ある日、友人から荷物が届いた。なんだろう? いま時分あいつから荷物。なんだったっけ? そう思いながら荷を解いた。入っていたのはせんべいやソースだった。ああ、そうだ、以前話に出たあれか。一度食べてみてほしいんだよ、と言っていたっけな。
ジェットダイスケという男。日本の動画配信プラットフォームの多くの立ち上げを手がけた映像作家で、元祖ユーチューバー、ユーチューバーの父ともいわれる男。彼とは共通の友人をきっかけに知り合い、日本で初めての、iPhoneを使って制作されたショートムービーのフェスティバル「iPhone3分映画祭」を手伝うこととなった。iPhoneが3GSの時代のことだ。アップルストア銀座のシアターで行われたそれは大変な盛況となった。いまだに街で「ジェットさんのYoutubeに出ていた人ですね!」と知らぬ人に声をかけられるのがこそばゆい。
少し前に彼は東京を離れ、琵琶湖の畔に居を構え、写真家として日々を送っている。銀座で行われた個展に顔を出して以来、会っていなかった。さて、そんな事を思いながらせんべいの封を開いてみる。
「舞妓はんひぃ~ひぃ~せんべい」とパッケージにある。舞妓さんが辛さでひいひいいっているラインナップ共通のイラストがあるが、そのパッケージの側面にはさりげなく英文字で「CURRY SENBEI」とあり、そこにタージマハールであろうか、インドを彷彿とさせるイラストレーションが添えられている。やる気を感じるデザインだ。
食べてみるとこれがなかなか手ごわい辛さだった。態としてはソフトせんべいの類だろう。モダンなものだ。ふわっと仕上がりサクッとしている硬くないタイプのせんべい。問題は味、辛さだ。表面にまぶしてあるカレーパウダー。とてもいい香りである。スタンダードなカレー味を思い出させるいいもので、おや、うまそうだねとパクリといくと痛い目を見るのだ。えらく辛い。が、しかし。舌を、のどを焼く辛さなのだがきちんとうまい。旨みが感じられるのだ。辛さも絶妙で激辛マニアの人はもう少し辛くてもいいな、とやせ我慢をするだろう。しかし食べ物として「食べてうまい」「もう少し食べたい」という大事な部分を失っていない。また、辛さの引きが早いのでまた食べたいと思わせる。うまい着地点を見つけたものだと感心した。
せんべいは2種あった。いま食べたレギュラーサイズの「舞妓はんひぃ~ひぃ~せんべい」と、サイズが一回り小さい「舞妓はんひぃ~ひぃ~せんべい小丸」。こちらは手のひらに3枚ほどのりそうなサイズで、小さいが故に辛さの調整が効きやすい。個包装になっておりすぐには湿気ないのでみやげにも良いだろう。こちらのボックスパッケージは砂漠にタージマハールが浮かび、その砂漠の空に「舞妓はんひぃ~ひぃ~せんべい小丸」が月として浮かぶという凝ったもの。楽しいパッケージだ。
これらの辛さを担うのが「舞妓はんひぃ~ひぃ~」。これは国産ハバネロ唐辛子を使った一味唐辛子。狂辛と銘打っている。説明にもあったがただ辛いだけではなく、スピード感あるからさというよりもジワリと広がる感じの辛さに特徴がある。かなり辛いが種類でいえば意地悪ではない辛さだと感じる。しかし辛さとしてはかなり強いので注意して取り扱ったほうがいいだろう。市販の唐辛子の約10倍の辛さを持っているという。唐辛子の辛さを計る単位、スコヴィル値で表すと鷹の爪4~5万スコヴィルに対し、「舞妓はんひぃ~ひぃ~」に使用されるレッドサビナ種のハバネロは最大値で57万スコヴィルを誇るそうだ。そしてそうは言いながらこれは一味唐辛子であるわけで、一味としても完成度を高めなければいけないため私たち日本人にも馴染み深い本鷹唐辛子(鷹の爪)など数種の唐辛子を独自ブレンドしてあるそうだ。ここらへんの拘りは京都らしさというところでもあろう。
メーカーは「少しの量でとっても辛いので、お料理の味を崩さずに辛みを足していただけます。」としている。ああ、なるほど、これは面白い。辛さは欲しいけれど、料理そのものの風味はこわしたくない、唐辛子味にしたくないというシーンはあるだろう。黒子として活躍してくれる辛み調味料というわけだ。風味香りが欲しいということなら同シリーズに七味唐辛子もラインナップされている。
この日はガーリックステーキを焼いてみたのだが、これによく合うのだ。肉の旨みを殺さずに、ガーリックの風味を邪魔せずに、もう少し、の辛さを手に入れることができる。優秀だ。
さて。実はこの頂き物の中で一番気になっていたのがソース。「舞妓はんひぃ~ひぃ~カレーソース」だった。ちゃんと試してみたくてアジフライと串カツを用意してみた。結果を先にいうが、これはさっさと自分で追加注文をせねば、と思った次第。
まずはアジフライにかけてみる。結構などろり加減で、よくあるとんかつソースの飴的なツヤツヤどろりではなく、粒子感が感じられる、つまり使用している食材のすりおろし的なニュアンスを感じるザラザラどろりなのだ。ここでまずおやおや、と思わされる。期待が高まるのだ。食べてみれば、これはもう旨辛のひとことであった。
あまからいソースでとろみが強いが、そのとろみはリンゴや玉ねぎのすりおろしたものと近い自然なとろみ。調整された真っ平らなものではなく適度にデコボコがあるのがいい。甘みに一度強く振ってありそれを辛さで戻す感じの感覚があって、これはそう、そうだ。大阪カレークラシックス、昔から関西圏にある、あまからカレーのスタイルに似た感覚だ。なるほど、実に納得がいく。
アジフライとのマッチングはかなりのもので、ソース自体強い味なのだがアジフライそのものの味を殺してしまうようなことはない。フルーティーな甘みとぐいっと来る辛さでバランスは良好。汗をかかされるのだが不思議とやめられない。ちょっといいとんかつ専門店に行くとたまに当たる、甘さに強く振った店オリジナルのとんかつソース。あれに程近く、そこに辛さのレイヤーを重ねてやったイメージだ。これはたまらない。
説明を読むと、やはり「野菜と果実を贅沢に煮込んで作った旨みたっぷりのカレーに舞妓はんひぃ~ひぃ~一味を使って辛味を効かせ、ソースに仕上げました。いつでもカレー風味に仕上げてくれる、お手軽ソースです。」とあった。
おや、はて?
実は「カレー」という要素はあまり感じていなかった。いや、言われてみればもちろん確かにカレー味と表現していいのだろう。そういう味だ。しかしここまで「カレー味になった」とは感じていなかった。ああ、そうか、きっとそうだ。
ウスターシャーソースというのがある。いわゆるウスターソースで知られる黒くてサラサラのあれだ。ルーツは19世紀初頭にあり、イギリス・ウスターシャー州で生まれたとされる。ビネガーにタマリンド、エシャロット、タマネギ、ニンニクなどの野菜類と、クローブ、シナモン、ローリエ、セージ、ブラックペッパー、チリなども入る。これはカレーに使うスパイスとハーブにも共通するものがあり、その配合を変えるとカレーにほど近いものになるのだ。そういうこともあって、しばしば、カレー味の調味料はこれはカレー味なのか、ウスターソース寄りなのか、と考えることがある。あの感覚がある。だからカレー味と感じる人もいればソースに近いと思う人もいる。近似値にあるといえるのだ。
兎にも角にも「舞妓はんひぃ~ひぃ~カレーソース」、大変気に入った。辛い、というよりも旨あじが強く、何にでも使いやすい。メーカーからは温野菜和え、ソーセージ炒め、野菜炒め、焼きそば、お好み焼きのソースに白ごはんに混ぜてドライカレーというような提案がある。確かに万能で使い出がある。
実は先ほど「舞妓はんひぃ~ひぃ~」をかけて食べたらえらく美味くなったガーリックステーキ。あれにさらに「舞妓はんひぃ~ひぃ~カレーソース」をかけたのだがこれがもんのすごくよかった。そうか、ステーキソースにもなり得るか。このドロドロ感も肉によく絡み、脂の旨味を絡めとり、で実に上手に働いてくれる。こんなに良いとは思わなかった。大変に気に入った。
そうそう、そうだった。
この「舞妓はんひぃ~ひぃ~カレーソース」は食べたことがないんだ、と彼は言っていたな。感想を伝えるよ、と約束をしていたんだった。久しぶりに会いに行ってみたいな、と思う。
※掲載情報は 2018/05/10 時点のものとなります。
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キュレーター情報
カレーライター・ビデオブロガー
飯塚敦
食、カレー全般とアジア料理等の取材執筆、デジタルガジェットの取材執筆等を行う。カレーをテーマとしたライフスタイルブログ「カレーですよ。」が10年目で総記事数約4000、実食カレー記事と実食動画を中心とした食と人にフォーカスする構成で読者の信頼を得る。インドの調理器具タンドールの取材で09年秋渡印。その折iPhone3GSを購入、インドにてビデオ撮影と編集に開眼、「iPhone x Movieスタイル」(技術評論社 11年1月刊)を著す。翌年、台湾翻訳版も刊行。「エキサイティングマックス!」(ぶんか社 月刊誌)にてカレー店探訪コラム「それでもカレーは食べ物である」連載中。14年9月末に連載30回を迎える。他「フィガロジャポン」「東京ウォーカー」「Hanako FOR MEN」やカレーのムック等で食、カレー関係記事の執筆。外食食べ歩きのプロフェッショナルチーム「たべあるキング」所属。「ツーリズムEXPOジャパン」にてインドカレー味グルメポップコーン監修。定期トークライブ「印度百景」(阿佐ヶ谷ロフトA)共同主催。スリランカコロンボでの和食レストラン事業部立ち上げの指導など多方面で活躍。