記事詳細
紹介している商品
日本で一番盛り上がっている大阪カレーシーンを牽引する店の味
レトルトカレー。未だお安いもの、簡単なもの、代替え、そういうイメージから脱却できない人が多いと聞く。しかしそんな時代ははるかかなた、昔の話だ。2017年のレトルトカレーのシーンを知る人からは笑われる。
スーパーマーケットでも手に入りやすい新宿中村屋のインドカリーのシリーズ、ヤマモリのタイカレーシリーズ。どちらも素晴らしい味のカレーがレトルトパウチで手に入る。仙台のにしきやなどはカレーとも表記しない。インド料理のシリーズと呼んでいる。それはつまりそれだけ本格的で、カレーライスという小さな範囲で括れないものまでがレトルトパウチ食品になっているということだ。凄まじい進化を遂げているのがレトルトパウチ食品の中の、特にカレージャンルのものなのだ。
そしてトップブランドも手をこまねいてはいない。本来トップブランドはその歴史的な資産を生かし、それをながらえ大切にするところに価値がある。しかしそれだけではもう回らない。日本を代表するカレー関連食品の大手、エスビー食品株式会社がすごいものを投入してきた。
事前情報をもらった時は色々な意味で動揺した。S&Bの担当者はちょいとやりすぎたんじゃないだろうか。暴走?独断?いやいや、大きなメーカーが理由なしにこんなことはしない。が、担当の情熱無くしてこんなモノの企画が通るはずがない。シーンはどうやら温まったらしい。
S&Bは「噂の名店」というタイトルのレトルトカレーシリーズを持っている。有名店のカレーをレトルトで再現、というもの。なかなか挑戦的な取り組みだ。神田神保町のインドレストラン「マンダラ」、荻窪の名店「スパイス」、鎌倉七里ガ浜の有名店「珊瑚礁」、半蔵門の欧風カレー「プティフ・ア・ラ・カンパーニュ」そして大阪のあまからカレーを出す「白銀亭」。なかなか面白いラインナップだ。ここに8月14日、新しい製品がラインナップされる。「噂の名店 大阪スパイスキーマカレー お店の中辛」という製品名。コロンビア8のキーマカレーが再現される。大阪スパイスカレーの雄と言われる店だ。
S&B「噂の名店」シリーズの中でのポジションとしては大阪カレー第二弾、という落とし所であろう。前出の「白銀亭」など、インデアンカレーを代表とする大阪のあまからカレー、一口目はとても甘く感じるのだが時間差で辛さがドッとやってくるあれ。あまからカレーの文化は主に大阪の洋食店などで着実に歴史を刻み、定番となっている。しかし大阪スパイスカレー、まだその歴史は短い。しかし大きなうねりを感じる現在の関西カレームーブメントの大きな柱、大阪スパイスカレーをフィーチャーしたかった担当者の強い思いが伝わってくる。
大阪スパイスキーマカレー お店の中辛 コロンビア8
驚くべき、という形容詞をつけても決して大げさではないものであった。
ボックスパッケージ内には3種のパックが入っている。カレーの入ったレトルトパウチ、スパイスがたっぷりと入った袋、それにローステッドカシューナッツが入った袋。これらを組み合わせて完成させる。
コロンビア8のカレーを再現するなら必須とも考えられるししとう。左手にししとう、それをかじりながらカレーを食べて欲しいという店主からの強いリコメンドがある。残念なことに切らしていたのでピーマンをローストして代用した。苦味の因子が大事だと聞いていたので、これもありと考えた。
カレーのパウチを温めて、ごはんを用意。
まずはごはんにスパイスをふりかける。ふりかけるというような生易しいものではなく、スパイスまみれにするという感がある。それくらい分量が多く、驚かされる。そこに温まったカレーソースを注ぐ。粘度は低く、さらさらで注ぐという言い方がふさわしいもの。
初めのスパイスの香りに加えてまたさらに香りが広がり、いやが上にも気持ちが高ぶる。最後にカシューナッツを散らすのだが、これも散らすという言葉を超えたこんもり加減の量。それらが一体となった香りがレトルトの常識を超えて強く香る。最後に先ほどローストしたピーマンを乗せてやって完成だ。箱から出して手順通りにやってここまで良いビジュアルになるとは思わなかった。お店の皿さながらのビジュアルに驚かされる。
ひと口スプーンを運ぶとその強い香りと共に苦味、香ばしさがどっと口の中に広がる。甘さの要素を抑えた大人っぽい仕上がり、味わいだ。そこにドライレーズンとインゲンが効果的に甘みなどで場面転換をしてくる。
複雑だが大きな流れ、店主の思うスタイルが確実にある。しかしその範囲を逸脱せず、ひとくちひとくちが違う味と香りを感じ、立体的でなんと面白いものだろうかと思い知らされる。強くカルダモンが香り、とてもストレートにフェンネルやバジルが香る。これはインド料理のテンパリングとは違う種類の香りだ。そこが面白い。
こういう手合いのカレーには珍しく、奥行きも感じるのだが、これは出汁だろうか。どこかから酸味もやってきて不思議なまま食が進み、そして悲しいかな、食べ終わってしまう。後に残るのは口中の強いスパイスの香りだけだ。それがしばらく残り、同じ時間、切ない気持ちも残る。そう、食べ足りないのだ。
しかしよくもまあ、こんな味を製品にして袋に詰め込んでしまったものだ。大したものだと思う。スーパーマーケットの棚は荒野だ。王道を外さぬ王者の定番たちが並びフェースを譲らない。そこにセカンド群や価格勝負の製品などもどっと溢れ、最近ではご当地カレーも群雄割拠、輸入品まで並ぶ様相でまさに戦地戦国。そんなレトルトカレーの荒野にこの製品が切り込んでゆく。大変なことだと思う。
仕掛けた喧嘩は勝たねばならぬ。しかし、勝ち方も色々あるのだ。このカレーは多くの人に受け入れられるものではない。なぜならカレー、日本におけるカレーライスというものは、未だ母ちゃんが作るもの、給食で出てくるもの、という思考が主を占めるのだ。が、そんな場所でこの内容と味をS&Bが作ったということが多分時代に楔を打ち込んだことになるはずだ。その技術と、それ以上にこの味をレトルトパウチ食品というものにしてしまおうと考え、実行した勇気。そこにこそ賞賛を向けるべきであろう。レトルトパウチ食品の大きな可能性を感じさせる味であった。
これは「体験」だ。食体験をもう少し超えた「体験」なのだと思う。発売は8月14日を予定。期待して待っていただきたい。
※掲載情報は 2017/08/12 時点のものとなります。
- 4
キュレーター情報
カレーライター・ビデオブロガー
飯塚敦
食、カレー全般とアジア料理等の取材執筆、デジタルガジェットの取材執筆等を行う。カレーをテーマとしたライフスタイルブログ「カレーですよ。」が10年目で総記事数約4000、実食カレー記事と実食動画を中心とした食と人にフォーカスする構成で読者の信頼を得る。インドの調理器具タンドールの取材で09年秋渡印。その折iPhone3GSを購入、インドにてビデオ撮影と編集に開眼、「iPhone x Movieスタイル」(技術評論社 11年1月刊)を著す。翌年、台湾翻訳版も刊行。「エキサイティングマックス!」(ぶんか社 月刊誌)にてカレー店探訪コラム「それでもカレーは食べ物である」連載中。14年9月末に連載30回を迎える。他「フィガロジャポン」「東京ウォーカー」「Hanako FOR MEN」やカレーのムック等で食、カレー関係記事の執筆。外食食べ歩きのプロフェッショナルチーム「たべあるキング」所属。「ツーリズムEXPOジャパン」にてインドカレー味グルメポップコーン監修。定期トークライブ「印度百景」(阿佐ヶ谷ロフトA)共同主催。スリランカコロンボでの和食レストラン事業部立ち上げの指導など多方面で活躍。