ミートパイ
西荻窪 ANSEN
昔のフランスでは、朝、パンを買うのは夫の仕事でした。
焼きたてのパンを買いにいく。香ばしいフランスパンの匂いを抱えながら、袋から突き出したパンの先をちょっと千切って食べる。至福の喜びが体全体に伝わります。行くパン屋さんは決まっていました。十年一日のごとく同じパン屋に通いました。それがフランス人の哲学であり人生でした。
パンは、地元にかぎる。西荻窪なら間違いなくここ「ANSEN」。ずっとずっとパンを焼き続けるおじさんは、話しだすととても快活。試食のラスクをたくさん薦めてくれます。
このパイ生地に自家製のミートソースを包んで焼き上げたパンも昔ながらの味。ミートソースは毎朝練って作っているそうです。大きいものではありませんが、ミートソースと香りのよいパイ生地のおかげか食べた後の満足感はしっかりあります。
地元の中高生が放課後に買い占めることもしばしば。西荻窪の生活の味なのです。
前回同様、地元に三代で住んでいる東京女子大のSさんに美味しい食べ方を聞きました。
「買ってすぐ食べるのも美味しいが、焼き立てでない限りトースターで温め直した方が、サクサクが増します。ミートソースも味がしっかりして美味しくなります。ただし、温めただけだとミートソースが温まる前に焦げてしまうので、表面をほんの少し濡らしてから焼くといいですよ。
以前自分の朝食用に買って帰ったのですが、翌朝、目覚めると消えていました。母が仕事場での昼食用に持って行ってしまったんです。
『温めた方が美味しいのに。私のミートパイだったのに……』
私があまりに落ち込んだので、これ以降はなくなりました。
私もミートパイを買うときは家族の分も買うようにしています。でも日も暮れてから買いに行くと一個残っていればいい方です。結局、最近は仕方なく独り占めさせてもらっています」
住所:東京都杉並区西荻北3丁目25-1
西荻窪 ANSEN
※掲載情報は 2017/04/09 時点のものとなります。
スピーチライター/コラムニスト
ひきたよしあき
(株)博報堂で、広告クリエーターとして働くかたわらで、「朝日小学生新聞」などにコラムを書いています。出張、撮影、講演で全国を回りながら、おいしいものを送ったり、頂いたり。誰かに何かを送ろうとする時、そこに素敵なエピソードが生まれます。高い安い、有名無名に関わらず、できればその一品にまつわる物語までお伝えしようと思っています。皆さんからの情報もお待ちしています。主な著書「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)