山川志ろ酒
酒のイチカワ
江戸時代の東海道にはさまざまな名物がありました。食べる名物の多くは山や峠、川の近くにあったそうです。
それは難所を越えた時、茶屋でひと休みをして、疲労を回復するためでした。名物に甘いものが多いのも体が糖分を必要とする自然の欲求なのでしょう。
東海道の浮世絵とともに、画の中に描かれ、今も残る名物をシリーズでご紹介します。
もうすぐ3月ですね。第一回は桃の節句にぴったりの白酒です。
平安時代からの風習である「桃の節句」ですが、 室町時代に桃の花を浸したお酒を飲んでいたものが変化したと言われています。
現在のように桃の節句にお雛様を飾るようになったり、白酒が楽しまれたりするようになったのは江戸時代から。みりん(または焼酎)に、蒸したもち米と米麹を仕込んで熟成させた白く濁った甘味のある白酒は、ひな祭りには欠かせないお酒として大人気でした。
当時は桃の節句が近づくと、天秤棒でかついた桶の胴に「山川白酒」と書いた札を貼った白酒売りが江戸の町を売り歩いていたそうです。
「雙筆五十三次 はら」
絵師:三代歌川豊国、歌川広重
制作年:安政~慶応年間(1854-1868)
所蔵:静岡市東海道広重美術館
富士山にほど近い東海道の宿場、原宿を背景に描き、手前にはこの辺りの名物である富士の白酒にちなんで江戸の白酒売の姿を描いています。
東海道を日本橋から数えて十四番目の宿場・吉原宿と隣の蒲原宿の間宿(あいのしゅく:宿場の間にある休憩所)である本市場(もといちば)。ここは 東海道ではめずらしい、富士が左側に見える「左富士」の名所。富士川左岸の豊かな水田地帯、加島平野でもち米を生産していたことから、このあたりは白酒が名物でした。
「東海道五十三次之内 吉原(行書東海道)」
絵師:歌川広重
制作年:天保年間(1830-1844)
所蔵:静岡市東海道広重美術館
三人の旅人が休む茶屋の店先に「名物山川志ろ酒」と書かれた看板が見えます。
白酒に「山川」とつけるのは、「山を流れる川の水が、泡立つと白く見える」ことから、 「山川酒」とか「山川白酒」とも呼ばれていたそうです。
吉原宿伝統の「山川志ろ酒」は 平成16年に復元されたほんのり甘口の濁り酒(日本酒)です。ラベルには広重の浮世絵と、その中に描かれている茶店の看板と同じ名前が使われています。
甘みのある白いとろりとしたこのお酒は、酒粕の風味があって、軽くて爽やかな飲み心地。ビタミン・ミネラルが豊富なので、女性のお祭りである「ひなまつり」にはぴったりの飲み物ですね。
酒のイチカワ
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酒のイチカワ
※掲載情報は 2017/03/01 時点のものとなります。
学芸員/栄養士
大森久美
栄養学を学んだ後、武蔵野美術大学卒業。芸術学士、学芸員資格を取得。2006年特定非営利活動法人ヘキサプロジェクトを設立。2010年より現地法人ヘキサプロジェクト・ロンドン・リミテッドディレクター。美術館のキュレーションを行うかたわら、アート/デザインのワークショップなどの教育普及や、地方で伝統の技を守り続ける職人達との商品開発にも精力的に取り組む。日本文化の奥深さを伝えることをミッションに、食とアートのスペシャリストとして日本の美意識を国内外に発信中。