年の瀬のテーブルで歓声が上がる、"ド迫力"ハニーベイクド・ハム。

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はじめ人間ギャートルズの、"あの"肉

年の瀬のテーブルで歓声が上がる、"ド迫力"ハニーベイクド・ハム。

年の瀬ともなれば、お呼ばれしたり、お招きしたりで、皆様もさぞ忙しい日々をお過ごしのことでしょう。私はといえば、思うところあって酒を断って早4年。こういう情報は枯れ野に放った火のごとく瞬時に拡散されていくと見え(?)、忘年会のお誘いは皆無。飲めや歌えやの日々は彼方に過ぎ、すこぶる静かな師走を迎えている。

 

しかし。今年の正月に実家(といっても車で10分であるが)に帰った折、愚妹が運んできた一品を食べ、12月の「ippin」では是非ご紹介したいと思い、およそ1年にわたって温めてきたネタがある。

 

それは「ハニーベイクド・ハム」である。

 

ずっしりと重い、金色の輝かしいアルミの包みをほどく。その中から現れたるは、巨大なハムの塊。これをなんと表現すれば良いか。ああ、昭和の漫画「はじめ人間ギャートルズ」で、園山俊二描くところの原始人達がかぶりつく、あの肉塊ではないか。

 

子供の頃、あのシーンに接して、心底「羨ましい……」と思った。「ギャートルズ」を知っていても知らなくても、この肉塊を目の当たりにすれば、「ギャー」とか「キャー」とか、あるいは「ウオー」とか、年の瀬のテーブルに歓声(または嬌声)のあがること請け合い。座は一気に華やぐはずである。

遠い野生を呼び覚ますテイスト

年の瀬のテーブルで歓声が上がる、"ド迫力"ハニーベイクド・ハム。

このスケール感はとてもわれわれ日本人のものではない。アメリカ・オハイオ州の工場で製造された商品ながら、幸いなことに日本語のHPでオンラインショッピングできる(オリジナルマスタード付)。

 

その肉塊は自家製スモークチップで燻製され、その名の通り、蜂蜜を塗った表面がワイルドに焼かれている。肉は思いのほか瑞々しく、クセがない。あらかじめ包丁が入っていて、一枚、一枚、簡単に切り取ることが出来てありがたい。

 

この平たくて大きい一枚のハムで、キュウリやオニオンのスライスを巻いて食べると、まことにオツな味わい。何ら胃もたれも胸焼けもせず、一枚、また一枚と平らげている自分に気づく。表面の焦げた匂いがまた、遠い野生を呼び覚ます。ハムの脂身も自然な旨味と甘味を備え、これだけでも珍味と称すべき代物。

 

肉食のことは、やはり、歴史の長い西洋人たちに教わらねばなるまい。そして、たとえば往年の大指揮者、ハンス・クナッパーブッシュがミュンヘンフィルを振ったブルックナーやワーグナーを聴けば、ハムをたらふく喰って、ビールをしこたま呑む人種でなきゃ、こういう音楽は出来まい……と得心する。

 

クナッパーブッシュの実家は居酒屋だった由。おそらくは食にも一家言あったに違いない彼に、願わくばこのハムを食べさせたかった。重厚、圧巻、ド迫力。その厳つい風貌を眺めていれば、どこかハニーベイクド・ハムに見えてきてしまう。

※掲載情報は 2015/12/21 時点のものとなります。

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キュレーター情報

横川潤

エッセイスト 文教大学 准教授

横川潤

飲食チェーンを営む家に生まれ(正確には当時、乾物屋でしたが)、業界の表と裏を見て育ちました。バブル期の6年はおもにNYで暮らし、あらためて飲食の面白さに目覚めました。1994年に帰国して以来、いわゆるグルメ評論を続けてきましたが、平知盛(「見るべきほどのものは見つ)にならっていえば、食べるべきほどのものは食べたかなあ…とも思うこの頃です。今は文教大学国際学部国際観光学科で、食と観光、マーケティングを教えています。学生目線で企業とコラボ商品を開発したりして、けっこう面白いです。どうしても「食」は仕事になってしまうので、「趣味」はアナログレコード鑑賞です。いちおう主著は 「レストランで覗いた ニューヨーク万華鏡(柴田書店)」「美味しくって、ブラボーッ!(新潮社)」「アメリカかぶれの日本コンビニグルメ論(講談社)」「東京イタリアン誘惑50店(講談社)」「〈錯覚〉の外食産業(商業社)」「神話と象徴のマーケティングーー顕示的商品としてのレコード(創成社)」あたりです。ぴあの「東京最高のレストラン」という座談会スタイルのガイド本は、創刊から関わって今年で15年目を迎えます。こちらもどうぞよろしく。

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