顔よりデカイ“スーパージャンボかりんとう”を、君は見たか!?

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かりんとう嫌いも唸った、ジャンボな味わい

顔よりデカイ“スーパージャンボかりんとう”を、君は見たか!?

そもそも私は、かりんとうというお菓子が、まったく好きではなかった。昭和37年生まれの私は、昭和7年生まれの父と昭和10年生まれの母を持ち、恐らくは強烈な「食文化」の世代間ギャップに悩みつつ育った世代ではないか。

 

なにしろ両親は戦中戦後の食糧難を生き抜いてきた人間ゆえ、我が家には「食事が美味しいとか不味いとか言うのは贅沢だ」という空気が流れていた。少なくとも少年期くらいまで、贅沢な食事をした記憶がない。いつも家にあるお菓子のたぐいも、洋菓子やらスナックやらとは無縁。「和」一色というべきストイックさだった。すなわち両親の出身地である長野県諏訪市の名物、みすず飴、大社せんべい、諏訪湖豆、等々。およそ、中信(信州人は長野県中央部をこう呼ぶ)の人でなければ馴染みの薄い品々と思われるが、幼い私の口に合うものではなかった。

 

そして、なぜか、かりんとうも(ほぼ)常備されていた。なにしろ固いし、食べるとポロポロこぼれるし、黒砂糖の味しかしないし……というわけで、これも、どうにも食指が伸びなかった。

 

そういうかりんとうを、両親はわりあい美味しそうにポリポリ囓っていた。かりんとうとは、やや大げさにいえば、食文化の世代間ギャップ(断絶?)の象徴にも感じられたのである。

 

駄菓子の何たるかを知らしめる、下町のエンタメ

顔よりデカイ“スーパージャンボかりんとう”を、君は見たか!?

ところが、ひょんなことから浅草「亀十」の「お化けかりんとう」を紹介され、これには心底たまげた。まずはその巨大さである。優に20センチを超す大きさで、顔がデカイ私よりは小さいが、小顔の人ならすっぽり隠れてしまいそうなサイズである。

 

ただ大きいだけなら、でくの坊とも呼ばれかねないが、美味しいのである。食感はパリパリッとして、ふつうのかりんとうよりも洒脱な気がする。味つけも絶妙で、平べったいから舌全体で小麦粉の旨味が味わえる上、甘味と酸味のバランスが出色。

 

包み紙に堂々と「駄菓子」と書いてある、その庶民性も素晴らしい。おおむね文化というものは貴族性と庶民性に二分されてしまうもので、どっちつかずというのが一番かっこわるい。

 

たとえばジャズという音楽はアフリカから奴隷としてアメリカに連れて来られた人たち、またはその子や孫が、ありあわせのゴミ箱の蓋や缶のたぐい、または捨てられた楽器で奏しはじめたのがオリジンと言われている。その反骨スピリットや、ハートフルな庶民性が、人種や国境を越えて音楽好きの心に訴えたのではないか。

 

決して、庶民的=ダサイではない。若い頃のマイルス・デイヴィスは、本当にかっこよかった。正しい意味での庶民を貫いていたと思う。反骨でハートフルで、粋で、鯔背である。「駄菓子ですけど、それがどうしたって言うんですか(So, What)?」という矜持が感じられる。

 

店舗名:亀十
住所:東京都台東区雷門2-18-11
TEL:03-3841-2210

かりんとう

亀十

※掲載情報は 2015/10/31 時点のものとなります。

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キュレーター情報

横川潤

エッセイスト 文教大学 准教授

横川潤

飲食チェーンを営む家に生まれ(正確には当時、乾物屋でしたが)、業界の表と裏を見て育ちました。バブル期の6年はおもにNYで暮らし、あらためて飲食の面白さに目覚めました。1994年に帰国して以来、いわゆるグルメ評論を続けてきましたが、平知盛(「見るべきほどのものは見つ)にならっていえば、食べるべきほどのものは食べたかなあ…とも思うこの頃です。今は文教大学国際学部国際観光学科で、食と観光、マーケティングを教えています。学生目線で企業とコラボ商品を開発したりして、けっこう面白いです。どうしても「食」は仕事になってしまうので、「趣味」はアナログレコード鑑賞です。いちおう主著は 「レストランで覗いた ニューヨーク万華鏡(柴田書店)」「美味しくって、ブラボーッ!(新潮社)」「アメリカかぶれの日本コンビニグルメ論(講談社)」「東京イタリアン誘惑50店(講談社)」「〈錯覚〉の外食産業(商業社)」「神話と象徴のマーケティングーー顕示的商品としてのレコード(創成社)」あたりです。ぴあの「東京最高のレストラン」という座談会スタイルのガイド本は、創刊から関わって今年で15年目を迎えます。こちらもどうぞよろしく。

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