ワイン×料理だけじゃない。ワイン×音楽のペアリングを楽しもう

ワイン×料理だけじゃない。ワイン×音楽のペアリングを楽しもう

記事詳細


紹介している商品


音楽×ワイン。まずはニューヨークワインという最良のテキストで

ワインのペアリングと言えばもちろん、料理、ということなのですが、ワインっていろいろなものと手を取ったり、惹かれあったり、溶け込んだり、生かし生かされたりします。「いろいろなもの」を言い換えれば自身の趣味やくらしのスタイル。アート、ファッション、インテリア、映画、小説、スポーツ。全てワインと一緒ならもっとお互いの魅力がみえてきます。休日の午後、北欧風の涼やかなインテリア、観葉植物のグリーンが差し色、木の手触り、素朴だけれど精緻な家具なら、あわせるワインは…。ペアリングのイメージはどんどん広がっていくのです。

 

私のお気に入りのペアリングの一つは音楽。ワインというとオペラ、クラシックという高尚なイメージもあるでしょう。それもまた正しいことのひとつ。でも、それだけじゃないんです。ワインを味わうと直感的に音楽が浮かぶ。気に入ったワインなら浮かぶのは自分が耳にしたことがある素敵な音楽。それは時に静かで心地よい音楽だったり、胸が高鳴るビートだったり、クラブシーンのグルーブだったり、弦楽四重奏だったり、自分を励ましてくれた日本語の歌ということもあるでしょう。それに加えてそのワインが生まれた国や場所とその国や場所の音楽の相性もいい。その土地の人たちが自然に耳にしている音楽。その人たちが創るワインと相性が良いのは自然なこと。野菜や魚、名物料理。ワインと料理のペアリングでは当たり前とされている方法は、音楽にも当てはまるのです。音楽とワインって、とってもいい。

私にとってその最良のテキストであり、発見がニューヨーク州産ワイン(以下ニューヨークワイン)でした。

 

不思議なもので最初にニューヨークワインを味わった瞬間から(もちろんニューヨークという刷り込みはあったのですが)ニューヨークの音楽が浮かぶ。その最たるものがビリー・ジョエル。次の瞬間に浮かんだアイデアは、ニューヨークワインを飲みながらビリー・ジョエルのライブ映像を見るというワイン会。これが驚くほど素敵な相乗効果。映像は当時のニューヨーク・メッツの本拠地であり、60年代、ビートルズが全米に熱狂をもたらし、世界を席巻するきっかけともなった公演が行われたシェイ・スタジアム。その当事者だったポール・マッカートニーをはじめとする豪華ゲストたちとともに繰り広げられたショウ。中盤あたりで早くもワインがうれしい涙を誘ってくれました。

もともとビリー・ジョエルは私にとって大切なアーティストで、来日公演はもちろん、ニューヨークのマジソンスクエアガーデンでのライブにも足を運びました。その大切なアーティストとその作品が、ワインを味わった瞬間に浮かんだ。ということはそのワインを私は理屈ではなく「好きだ」と感じたということ。これがとても大切。知識や勉強というワインにありがちなワードではなく、直感、感覚だってとても素敵なことなのです。

 

好きと好きが単純に一致すればもう幸せにハマってしまう。例えば先日味わったこの6本。

ワイン×料理だけじゃない。ワイン×音楽のペアリングを楽しもう

(ここから少しビリー・ジョエルとニューヨークワインの私の偏愛っぷりが続きます)。スタートは画像左から。2018年のドクター・コンスタンティン・フランクとハーマン J.ウィマーのドライ リースリング。これには、「ロザリンダの瞳」。ある音楽同人誌でも語ったのですが、この曲が収録された名盤「ニューヨーク52番街」のB面(懐かしい表現ですね)は、若いころは聞かずに飛ばしてしまうことも多かったのだけれど、大人になって、そして実際にニューヨークを訪れた後、どうにもいとおしいというか、これぞニューヨークの街の中の音ということで大の気に入りになったもの。中でもこの「ロザリンダの瞳」は、派手さはないのだけれど晴の日の午後、緑と光の中のイーストヴィレッジを歩いていると、どこからともなく聞こえてくる…そんな情景。

 

この2つのリースリング、特にハーマン J.ウィマーは、その体験と妄想が入り混じった風景の中に、一気に私を連れて行ってくれます。知的だけど素朴で、でもストリートスナップで声を掛けられそうな眼鏡のおしゃれ男子。東京で言えば長野から出てきた賢い大学時代の同級生とでもいうのか、そんな友人と、テラスの午後、軽いつまみとともに、あれこれ静かに語り合う、そんな時間。そこに遠くから「ロザリンダの瞳」が聞こえてくる。ハーマン J.ウィマーのドライ リースリングの味わいは、どこか知的で、そのメガネ男子同様、素朴さとクールさがやさしく溶け合い、繊細だけれど弱くはない芯の強さ。静かに語り合ういい余韻と、だからといって情けをかけ合う間柄ではなく、すっと去っていく後姿が自然。ワイン一つでこんな物語が続いてしまうのもビリーの音と吟遊詩人的なリリックのせいかもしれません。

続く、ドクター・コンスタンティン・フランクのサーモン・ラン シャルドネ リースリング 2019は心地よい甘味をわずかに感じさせる癒しと、すっとそこに寄り添い引き立てる酸の組み合わせが心を軽やかにしてくれるワイン。ということで、友人とのたわいもない、でもよくよく考えれば深い、そんな会話を軽快なサウンドに乗せた「マイ・ライフ」や、せつなさと楽しさが同居したギターが印象的な「ドント・アスク・ミー・ホワイ」。オズモート・ワインのセネカレイク・シャルドネ 2017には、どこか心を癒す静けさがあって、フランス語を交えてアンニュイな声で聴かせる「愛の面影(セテ・トワ)」を雨の午後に。

 

シティから2時間のロングアイランドはセレブの避暑地としても有名なハンプトン。そのマストアイテム的なワイン、ウォルファー・エステート シャルドネは、おしゃれなピクニックやガーデンやリゾートのランチに。これはそのまま夏の日の心象風景を綴った「夏、ハイランドフォールズにて」。リリックは少し辛いものがあるけれど、ただ明るく楽しいだけじゃない人生だからこそ、きらめきのワインを太陽のもとで楽しむと胸の痛みも大切なスパイスなんだと思える不思議。

ワイン×料理だけじゃない。ワイン×音楽のペアリングを楽しもう

▲良く行き届いたウォルファー・エステートの畑

 

この6本の中で一つの驚きは、ラモロー・ランディングスのT23アンオークド カベルネ・フラン。きらめきと深みが同居し、ブラインドならボルドーの歴史あるシャトーの名前が出てきそうな逸品。現状でも素晴らしい個性なのだけれど、10年、いや20年後でも楽しみ。ならば曲は若かりし日のビリーが歌う「シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン」。その頃のきらめきも良いのだけれど、熟年になってからのビリーがライブで披露するバージョンは、驚きの高音の伸びに艶が溶け込んで珠玉のナンバーに。その期待感をこめて。

 

再びハーマン J.ウィマー。カベルネ・フラン2018には、「ソングス・イン・ジ・アティック」。これはストレンジャー以前の売れていなかった時代の曲を集めたライブ盤。私が初めて訪問した2014年に出会った大切な宝物であるハーマン J.ウィマーが、今はシンデレラワイナリーと言っても良いぐらいに評判を高めている状況で、その2014年に味わったワインを思い出してみると、やはりその時から素晴らしい萌芽があったんだなあ…としみじみ思えてきます。

 

最後はウォルファー・エステートのカヤ カベルネ・フラン2016。香りからすでに謎めく複雑さ。「ニューヨーク52番街」のA面。ビッグショット、オネスティ、マイ・ライフ、ザンジバル。アリーナロック、珠玉のバラード、軽快なポップスから超絶技巧のジャズロックと…形式もその曲の場面や時間もどんどん変わって、どこに連れていかれるのか高まる期待。このワインにも同様の雰囲気があります。

ワイン×料理だけじゃない。ワイン×音楽のペアリングを楽しもう

ちなみにこちらの画像。ニューヨークワインの産地のひとつであるフィンガーレイクスのオーナーの後姿。ビリーの「ニューヨークの思い」のリリック、最後のmindをWineにかえて。2014年、夏。これ、私がニューヨークワインに対して恋に落ちた瞬間でした。

 

と、長々とビリー・ジョエル好き全開となってしまいましたが、これは私の場合という一例。あなたにとっての素敵なワインと音楽のペアリングがきっとあるはずです。音楽ってそもそも自分の今の気持ちとのペアリング、時間や場所に思い出、いろいろなあなたの今と寄り添ってくれるものですよね。ワインも同じ。少し落ち込んでいるけれど一人の落ち着いた時間、休日の午後、雨。だったらこんなワイン、こんな音楽。そう、ワインと音楽があれば癒しにも元気にもなる。そのことをはっきりと私に教えてくれたニューヨークワイン。ちなみビリー・ジョエルの「イタリアンレストランで」という曲では白ワイン、赤ワイン、それともロゼがいいかな、なんてリリックが。そして「君が決めていいよ」と。どうぞお好きな音楽とワインでお過ごしください。

※掲載情報は 2021/05/05 時点のものとなります。

  • 1
ブックマーク
-
ブックマーク
-
この記事が気に入ったらチェック!
ワイン×料理だけじゃない。ワイン×音楽のペアリングを楽しもう
ippin情報をお届けします!
Twitterをフォローする
Instagramをフォローする
Instagram
Instagram

キュレーター情報

岩瀬大二

ワインナビゲーター

岩瀬大二

MC/ライター/コンサルタントなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカーなどの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」。ワインに限らず、日本酒、焼酎、ビールなども含めた「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。
フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。
日本ワイン専門WEBマガジン「vinetree MAGAZINE」企画・執筆
(https://magazine.vinetree.jp/)ワイン専門誌「WINE WHAT!?」特集企画・ワインセレクト・執筆。
飲食店向けワインセレクト、コンサルティング、個人向けワイン・セレクトサービス。
ワイン学校『アカデミー・デュ・ヴァン』講師。
プライベートサロン『Verde(ヴェルデ)』でのユニークなワイン会運営。
anan×本格焼酎・泡盛NIGHT/シュワリスタ・ラウンジ読者交流パーティなど各種ワインイベント/ /豊洲パエリア/フィエスタ・デ・エスパーニャなどお酒と笑顔をつなげるイベントの企画・MC実績多数。

次へ

前へ