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なにこれ…… ふむ、そうきたか……
これ、昨夜の私のつぶやきである。
さて、何かを食べた時、つぶやくように出る言葉は本当の評価と私は思っている。以前もどこかで書いたのだが、「美味しい!」と感嘆符をつけて言う時と「美味しい……」とつぶやくように言う時では、同じ「美味しい」でも評価が違うと思うのだ。つぶやくように出る感動の言葉は、誰かに聞いてもらうものではない。それは、心から出る素直なものだからこそ、つぶやきになる。
「なにこれ…ふむ、そうきたか…」というのは、この原稿を書くために購入した食パンの端の部分をかじった時の昨夜の私のつぶやきである。
今回紹介するベーカリーの食パンを買ったのは初めてだった。というのは、頑なにも「食パンならここ」という店がすでにあったからだ。そんなわけで、さほど期待せず、味見本番は翌朝にとっておいたのだが、パンをさわった時のふわふわ感誘惑に負けて、軽く味見したというわけだ。
ところが、パンの端がこんなに美味しいなんて、「なにこれ…」としか言えなかった。トーストしたものならともかく、戦略に負けた感?(笑)。そして、「そうきたか…」というのも、自分が一番と信じていた他店食パンをすんなりと超えた驚き。試食はこれからというのに、なんという可能性を秘めたパンなんだろう…(ここでも感嘆符はつかない)。
で、私の朝食。ベーカリーシェフから和の食材が合うと聞いたので、辛みはマスタードではなく柚子胡椒を使ってみた。幸せなパン朝食!(余談:紙袋の虹は模様ではない。我が家にて太陽光が織りなす偶然。この朝食にぴったりなシーン)
調理)中尾明美 柚子胡椒マヨネーズのアボカド入りBLTサンドイッチ
MORETHAN BAKERYのパン
パンの購入先は、都庁近くの「HOTEL THE KNOT TOKYO Shinjuku」内の「MORETHAN BAKERY(モアザンベーカリー)」。私は、このベーカリーがお気に入りだ。公園に面した通りから店内に入ると、外国人客が多いせいか異国的雰囲気が漂う。ある日、おしゃれな外観につられて入店し、試しに購入して以来、グルテンフリー生活にピリオドをうったほどの気に入りようである。
MORETHAN BAKERYは、購入するパンを迷うほど種類が多い(もしも、迷わない程度の品数であれば、売り切れたといことである)。大型のハード系から食パン、スイーツ系、専用キッチンで作ったサンドイッチなど、全部で50種類程そろっている。
スタッフが親切なところもいい。パンの説明や食べ方の伝授をしてくれる。ある専門誌には「話せるベーカリー」と紹介されているくらいである。今回、取材した際も、忙しい中、丁寧な回答をいただいた。私のお気に入りは、マスカルポーネミルクパンなのだが、「グリルパンで表面をさっと焼いてサンドイッチを作りたい」と話したら、「そういった食べ方ならこちらがお勧めです」と、違うパンを選んでくれた。
サンドイッチディレクターのいるベーカリー
一般的なベーカリーと少々違うのは、サンドイッチディレクターが所属していることだ。パン全般を仕込んでいるベーカリー部門とは別に、サンドイッチ類を仕込んでいる専用キッチンがあり、ベーカリー専門が美味しく焼き上げたものを、さらに専門が美味しく仕上げるという仕組みである。和の食材にも合う酸味のあるパンに、西京味噌でマリネしたサーモンをはさんだり、大葉、山椒、ミョウガなどの食材を使ったオリジナルサンドイッチがずらり!
※奥がサンドイッチ専用の厨房。
※焼きたてのパンがベーカリー厨房から運ばれてくる。
※オプションで様々な具材を挟めるグリルドチーズトーストがお勧め!チーズサンドにシュガー?と思いきや、これが大人気!
※コーヒースタンドならぬ「ティースタンド」が併設されているのもおもしろい。
ベーカリーシェフのこだわり
ところで、ベーカリー統括シェフは、ベーカリー業界で有名な神林シェフ。プロフィールはググっていただくとして、取材にて伺った神林シェフのこだわりについて書きたいと思う。
「愛情に勝るものはない」ということで、とにかく手間をかけているそうだ。ホテル内のベーカリーゆえ、レストランのビュッフェ用やディナー用のパンも含めかなりの種類のパンを焼いているのだが、パンによって小麦粉や発酵用の種(いわゆる酵母菌)を分け、発酵時間もそれぞれ。酵母菌は、もちろん自家製。それぞれの種を育てるのも時間もかかるので、ひとつのパンのためにかなりの時間をかけて焼き上げる。
そして、小麦粉は国産にこだわっていないという。それは、フランスでのエピソードから成るシェフのこだわりであった。フランスで表面の焦げたパンを見つけたシェフは、技術が劣っているパンだと思い、面白半分で日本に持ち帰った。ところが、それを食べたところ、香ばしい美味しさに驚いたという。焦げていると思った表面は、美味しさを引き出すために計算されたものだった。
そこで、シェフは、日本人が好きなふわふわ感と、フランスの香ばしさを掛け合わせたパンを焼き上げた。それが、ホテル内レストランでも提供されているカンパーニュナチュールである。フランス小麦とドイツ産ライ麦を使用。自家製の種で発酵させ、ミネラル感と少々の酸味を出しつつ、小麦の美味しさを最大限に引き出している。
実は、シェフにインタビューする前、偶然にもレストランMORETHAN TAPAS LOUNGEでカンパーニュナチュールを食べているのだが、ふわふわのパンを包むように焼けた皮の香ばしさと、ゆかしさを感じる少々の酸味がなんともいえない美味しさで、「久しぶりに美味しいパンを食べた」と感動したのだった。そして、添えられた豆腐ディップが最高のマリアージュだった。
そのカンパーニュナチュールの美味しさが、シェフのフランスでの体験から生まれたものと知り、文章をメモしつつ「確かに!」と納得できた。さらに、食事用のパンに、敢えて酸味を出したのは、「唾液の少ない日本人が美味しく食事できるための配慮」とも伺い、美味しさの融合の奥深さも学んだ。
無骨であることのよさ
「無骨」と言うと、悪い意味にとられる方がいるかもしれないが、取材中、なぜだか「無骨であることのよさ」というものを感じてならなかった。私もそれに近いものを持っているからかもしれない。
勘違いされないよう、私の言いたい「無骨」について少々話したい。
ある大学教授の論文に、興味深いことが書かれていた。大正時代の作家「徳冨蘆花」の作品中に登場する栗の木についての論文である。
「栗は無骨ながら木訥(ぼくとつ)で実直、自分を変に飾り立てることなく、巧言令色を嫌い他人にいやらしく媚びることがない質実な木。しかも、棘だらけの毬、鬼皮と渋皮に包まれたその最も奥深くに、甘き心(最高に甘美な果肉を秘している)」
「無骨さであることのよさ」とは、まさにこういうことである。
栗を好きな人は多い。料理人として活動するようになってから「栗が大好物」と言っている人を何人知ったことか。栗が魅力的な食べ物であることは間違いないのだ。
私は、MORETHAN BAKERYのパンに、無骨ながらも愛されている最高に甘美な果実を秘している栗と同じものを感じ取ったのだ。
美味しいのに無骨さを感じるのは、誠実に焼いているその信念がパンに現れるからなのだろう。そして、ベーカリー自体、店内の雰囲気はクールでおしゃれ感にあふれているのに華美に見えないのは、店頭に並ぶパンに無骨であることのよさが醸し出されているからと思える。
ビュッフェで好みのパンをみつける
1Fレストランの朝食ビュッフェ、ランチビュッフェでは、美味しいパンがたくさん食べられるので、自身のパンの好みを探すにはお勧めだ。そして、帰りがけにベーカリーで気に入ったパンを購入すれば、翌朝も楽しめる。
※ランチビュッフェの料理一例。パンに合う料理が多い。
※私が好きな「岩海苔のリュスティック」。バターを塗って食べるのがお気に入り。
ちなみに、サンドイッチディレクター山口さんのお勧めは、グループ店(吉祥寺ブーランジュリー・ビストロ・エペ)にはないMORETHAN BAKERYオリジナルの「プレッツェル(3種類)」「ベーグル(多種類)」「レーズンブレッド」。個人的には、レーズンブレッドが大好き!
あと、17時から1Fバーカウンターのガラスケースに並べられる「SUSHI PINCHOS(寿司ピンチョス)」も目新しく楽しい。気になる方は、ぜひお試しあれ。
MORETHAN BAKERY
〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-31-1
HOTEL THE KNOT TOKYO Shinjuku
TEL 03-6276-7635
営業時間 8:00~18:00(定休日なし)
https://www.mothersgroup.jp/shop/morethan_bakery.html
■併設レストランなど
1F MORETHAN TAPAS LOUNGE -Spanish-
TEL 03-6300-0174
2F MOREHAN GRILL
TEL 03-6276-7654
※掲載情報は 2019/04/12 時点のものとなります。
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キュレーター情報
料理家、ライター
中尾明美
東京都生まれ。一男一女の母であり、孫も持つ。五代続く医者の家に育った生い立ち、健康食品製造販売会社の代表を務めた経緯やがん克服経験から、医食同源を目指した食生活を推奨している。「DEAN & DELUCA」キッチンスタッフ、「リストランテアロマクラシコ」キッチンスタッフを経て、イタリアフィレンツェの料理研究家に師事し、現在も厨房に立ちつつ、会費制食事会「プライベートダイニングRoom A’s Tokyo」、料理教室「Class A’s Kitchen」、出張料理「A’s Kitchen」を主宰。食材・調理器具と波動を合わせた調理、化学調味料を使わない優しい味にはファンが多い。2018年4月よりELLEgourmetフードクリエイターメンバー。