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八丁味噌の由来
徳川家康の生誕の地でもある岡崎城から、西へ八丁(約870m)の距離を進むと、東海道街道を挟んで、2軒の八丁味噌屋が軒を並べています。
それが、『まるや八丁味噌』と『カクキュー』です。
今回ご紹介する『まるや八丁味噌』さんは、創業延元二年(1337年)の老舗。
八丁味噌の名は、愛知県岡崎市の岡崎城から西へ八丁(約870メートル)の距離にある八帖町(旧八丁村)に由来しています。
矢作川の舟運と旧東海道が交わる水陸交通の要所。江戸時代には土場(船着き場)・塩座(塩の専売)があり、舟運を利用して味噌の原料となる、大豆や塩の調達や出荷も可能となりました。
味噌蔵というより聖地
蔵の中には、直径・高さ共に6尺もある木桶が並んでいます。その上に3トンもの重石がピラミッド状に積み上げられている様子は、味噌蔵というより聖地のよう。仕込み蔵にいるだけで感動します。昔も今も、石積み職人たちの手で一つ一つ円錐状に積み上げる重石。それは、八丁味噌を仕込む職人ならではの技です。大豆と塩と水のみを使い、人の手を入れず二夏二冬、じっと蔵で発酵・熟成を静かに待つというのが、八丁味噌の製法です。まさに自然の摂理と人間の知恵が醸しだした調味料ですね。
八丁味噌は、ドイツをはじめ、世界20カ国以上に「Hatcho Miso」として輸出されています。近年では、麦を使用しないグルテンフリー味噌としても注目を集めています。
長期発酵・熟成により、他の味噌にはない抗酸化成分メラノイジンも豊富なうえ、旨味が濃いので、出汁を使わずにお湯に溶くだけでだけでも、十分に味わい深い味噌汁になるのは驚きです。
岡崎のお茶ノ水博士
まるや八丁味噌の名物社長が、岡崎のお茶ノ水博士(風貌が似ていることから、私たちが呼んでいるだけです!)浅井信太郎さんです。若い頃ドイツに留学し、1980年代には日本でもいち早く、アメリカの有機認証を取得。それだけにとどまらず、世界でもっとも安全チェックが厳しいとされる、ユダヤ教の食の規定「コーシャ」の認証まで取得するなど、ワールドワイドな視点に立ち、八丁味噌を守り続けています。
海外の物産展では、甲冑姿で試食を提供する姿から世界中で「ミスターHatcho」と親しまれています。
八丁味噌入門品
八丁味噌は、二回の夏と二回の冬を越し、なおかつ石積みをすることで水分がとても少なくなる為、普通の味噌に比べると固めです。
麦味噌文化の山口県出身、そして長く東京に暮らす私ですが、我が家では八丁味噌が常備品。愛知県人でもないのに……。
トマト+八丁味噌=デミグラソース、韓国唐辛子粉+甘酒+八丁味噌=甘酒コチュジャンなど、私の定番レシピには、八丁味噌でなければ作れないレシピがたくさんあるのです。
「八丁味噌」は愛知県三河地方のソウルフードですが、全国区では“寿司屋の「赤だし」”の方がなじみ深いのかもしれませんね。
「赤だし」を“出汁入りの味噌”と思っている人が少なくないのですが、八丁味噌に米麹の旨味をプラスした“米味噌+八丁味噌”の合わせ味噌を「赤だし」といいます。
八丁味噌入門者は、この「赤だし」からスタートするのがいいのではないでしょうか。
GI制度とは
昨年、メディアを騒がしたGI制度について触れておかなければなりません。
GI制度とは農林水産省が推進する地理的表示保護制度で、その地域ならではの製品をきちんとしたルールを決めて守り伝えていくことを目的とし、2017年に誕生しました。このGI制度における「八丁味噌」のルールとは、愛知県産の豆味噌であれば「八丁味噌」と名乗ってよし、というもの。製法についての基準は簡略化されており、木桶でなくてもよし、温度管理して発酵させてもよし、そのため発酵期間は10ヶ月以上のものであればOKとなんとも緩いものに。本来のつくり方を守る為にGI制度を受け入れないという選択をした場合、岡崎市の風土の中で木桶を使い、石積みをして、二年寝かせるという伝統製法を守り続けてきた『まるや八丁味噌』と『カクキュー』は、「八丁味噌」と名乗ることができなく恐れがあります。
この二社の八丁味噌を使用した加工食品もまた、「八丁味噌○○」と唱えられなくなってしまうのです。岡崎市のキャラ「オカざえもん」の八丁味噌ラーメンは「味噌ラーメン」になってしまうわけです。
本来の地理的表示保護の目的はどこへいってしまったの?
基準を緩めることで、多くの愛知県の豆味噌生産者たちが「八丁味噌」のブランドを名乗ることが可能になります。世界へ輸出する可能性も大きく広がるでしょう。反面、乱暴な表現ですが、愛知県の豆味噌ならば、本来の製法でなくとも「八丁味噌」として売られることになります。「八丁味噌」というブランドに恥ずかしくない伝統製法を、後世に繋いでいこうという、『まるや八丁味噌』と『カクキュー』のモチベーションは下がってしまうでしょう。売上も厳しくなり、経済的にも苦しくなってしまいます。和食文化を支え生産者の伝統製法を守るのが、本来の農水省の役割ではないかと私は考えております。
八丁味噌の製法を他の豆味噌の生産者にも理解して頂き、同じようにはできなくとも、愛知県の豆味噌という文化をともに残していく方法をぜひ、再検討してほしいと強く思います。
和食文化を守ろう
木桶の問題もしかり。国内にいる木桶の生産者さんは、今やたった一人となりました。なぜこれまで、国が支援をし、継承していくことをしてこなかったのか。「木桶じゃなくてもいいよね~、不衛生だし、栄養成分は変わらないからね」「天然発酵じゃなくったって、安全な原料で温度管理さえやれば、二年物の味噌はつくれるからね」なんて思っているのであれば、それは大きな間違いです。
日本人は、移りゆく四季の自然の環境と微生物の力を借りて発酵食をつくりつづけてきました。山の神がおり、水の神がおり、万物に神が宿り、私たちは多くの恵みを与えられ生かされている思想こそが、和食文化の根底にあります。
科学や分析、経済ばかりを優先していくと、和食文化は消滅してしまいます。
海外からの多くのお客様が訪れる2020年まであと少し。和食文化を伝えていくために、何をすべきかをしっかり取り組んで欲しい。せめて私は料理家として、ホンモノの製法と味を伝えていこうと思っています
最後に、浅井社長のおちゃめな一面がわかるのが、まるや八丁味噌のドメイン名。
「@8miso.co.jp」には、思わずにやり。岡崎のお茶の水博士、頑張って!!!
有機赤だし(500g) 855円(税別)
※掲載情報は 2019/01/10 時点のものとなります。
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キュレーター情報
料理家/フードディレクター
タカコナカムラ
山口県の割烹料理屋に生まれる。
アメリカ遊学中にWhole Food(ホールフード)に目覚める。
日本の伝統食・発酵食、乾物料理の第一人者として、数多くの商品開発や、オーガニックカフェのプロデュースに関わる。
現在、食と暮らしと環境をまるごと学ぶ「タカコ・ナカムラWhole Foodスクール」を主宰。
通信講座(がくぶん)では、
「野菜コーディネーター」「発酵食スペシャリスト」
「AGEフード・コーディネーター」など食と美や健康に関する講座を多数監修。
一般社団法人ホールフード協会 代表理事