これぞ“The鹿児島”!黒酢×かつお節の「甕発酵鰹だし酢」

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「壺畑」って何?

これぞ“The鹿児島”!黒酢×かつお節の「甕発酵鰹だし酢」

黒酢の仕込みの「壺」が置いてある場所を「壺畑」といいます。きれいに壺が並べられた様子はまるで黒酢を造る「畑」のように見えます。

 

発酵食料理を得意とする私は生産者を訪ねることが多く、毎回表現できないほどの感動を受け、こんな素晴らしいものをもっと多くの人に伝えなければという思いを強く感じ、その使命感こそが私の仕事のエネルギー源となっています。今回は、地理的表示(GI)保護制度にも登録された“とびっきりの黒酢”を紹介します。

 

創業1805年、鹿児島県霧島市福山町で、“甕壺露天醸造法”で作る黒酢は、米酢の製法とは全く違う工程で作られます。
通常の米酢の伝統製法は、清酒に酢酸菌を加え静置発酵で作られます。米酢作りは清酒を仕込むことから始まります。といっても既に酒作りをパスするお酢メーカーも多々ありますけど。

霧島市福山町の黒酢

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一方、福山町の黒酢は、甕に玄米麹と蒸した玄米、水を入れます。仕上げに、外からの雑菌を遮断する目的で、麹を表面に振りかけて、蓋をします。2週間程で、甕の中でアルコール発酵し、甕の中や空気中の酵母や乳酸菌、酢酸菌の作用で次第に酢へと発酵していきます。

 

甕の中で、酒作りからの全ての発酵の工程が完結するという、大変珍しい製法なのです。そして、ここまでが、人間による作業。ここから先は自然環境に委ねて、人はただひたすら、待つのみ。まさに、福山町の気候と風土が作り出す、自然の恵みが甕に詰まったのが黒酢なのです。

 

甕は、土に埋めるように設置され、移動することはありません。完成した黒酢は、その場でポンプでくみ上げ、大きな甕で熟成されます。酢の製造容器は、タンクや木桶ではなく『甕』。
豊臣秀吉が朝鮮から持ち帰った技術を使った薩摩焼の大きな甕で仕込まれます。ただし、今では薩摩焼だけではまかないきれないため、滋賀や韓国、石見銀山の甕も使用されています。

 

福山町には7軒の黒酢の製造メーカーがあります。人口2000人の町に、甕の数は15万個。人間より壺多しです。
仕込んで半年ほどで、黒酢にはなりますが。3年、5年と熟成させると、メイラード反応により色が濃くなり旨味や甘味も増えて、まさに、日本のバルサミコ酢のような深い味わいになります。

黒酢の伝統を守る

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鹿児島は知覧の特攻隊基地もあり、戦争の傷跡が各地に残っています。
戦後の一時期において風前の灯となった「黒酢」造りの伝統を、今日まで伝えて来たのが「重久盛一酢醸造場」です。

 

この地に最高級の純玄米黒酢を造ろうとの夢に燃え、純玄米黒酢造りの技術をみっちりと修行した重久盛吉氏。その頑固一徹の父に、子供の頃から純玄米黒酢造りの技術を厳しく叩き込まれたのが、重久盛一氏でした。

 

「世界一美味い酢を造れ! どんな世の中になっても自然本来の味を失っては駄目だ。味良し、体に良し、の伝統を守れば、喜んでくれる人が必ずいる。」

 

盛一氏は、戦中戦後の食糧難の時代に玄米の入手が困難となり、黒酢の原料である玄米を自ら田んぼで作り福山の玄米黒酢の伝統の味を守り続けてきました。

 

現在『重久盛一酢醸造場』は「マルシゲ」の屋号を使い、柔らかい味を表現しています。フルネームを社名にしているのは珍しいことですが、福山の純玄米黒酢と言えば『重久盛一酢醸造場』の酢であるという自信と責任を明確にする為、自分の姓名を使われているそうです。なんと、私の会社名もフルネームなんです。わかる、わかる……。そのお気持ち。

微生物が喜ぶ環境

福山町の黒酢はメーカにより、味も風味も個性も全く違います。それは、製法の差というより、壺畑の「環境」が影響しているのではないかと思われます。
重久盛一酢醸造場の壺畑は標高300m、霧島山系が背後に、桜島が正面に見える錦江湾内が広がっています。南の斜面を壺畑にしているため、陽当たり抜群なうえ、桜の木や樹木も畑の周りに茂っています。もし、私が酢の微生物だったら……きっとこんな自然の美しい場所に棲みたいと思うはずです。

鰹×黒酢=アミノ酸

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今回紹介するのは、4月発売の新商品「鰹だし酢」です。
甕のなかに、枕崎の鰹節をいれて発酵熟成させたThe 鹿児島!といえるものです。鰹節を入れることにより、アミノ酸の量は、黒酢の2.2倍増し。

 

通常このような“調味酢”は、甘味や旨味を添加しているものが多いのですが、こちらの商品は黒酢とかつお節のみというシンプルなもの。
「お酢」には、終末糖化産物AGEを抑える働きがあるといわれていますから、健康志向の方におすすめです。
伝統のバトンを受け継いだ三代目の重久雅志社長によると「鰹だし酢」の商品化のきっかけは、「お酢があまり好きではなかったので、食べやすいお酢を作りたかった」ということ。甘みを添加しなかった理由としては、「甘味を足したい場合は後で足せば良いし、お刺身のタレや焼き魚にかけるなど、甘味が不要なものにもそのまま使えるから」と話されていました。それもそのはず、本来のアミノ酸豊富な「黒酢」の機能性を損なわないために、あえて甘味をつけずに商品化されたとのことでした。

 

私も「鰹だし酢」のコンセプト、大賛成です。本来、黒酢には米麹により甘みがあります。鰹の甘み成分、イノシン酸と黒酢のマッチングで、料理に少量ふりかけるだけで旨味が広がります。糖尿病患者のための食事療法など、減塩した料理に使うと旨味がプラスされ、美味しくなります。余分な甘みは不要。
なんといっても“ツン”とくるお酢感覚がないので、家族みんなで手軽にお酢のある食卓を囲むことができます。

 

最後に、「黒酢を好きになるコツは?」……その答えは簡単です。とにかく鹿児島の福山町へ行ってみることです。壺畑をひと目見ることです。壺畑の広がる壮大な景色には感動します。桜島、黒豚、芋焼酎、鰹節、西郷どん(せごどん)、長渕剛&黒酢。

※掲載情報は 2019/03/12 時点のものとなります。

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キュレーター情報

タカコナカムラ

料理家/フードディレクター

タカコナカムラ

山口県の割烹料理屋に生まれる。
アメリカ遊学中にWhole Food(ホールフード)に目覚める。
日本の伝統食・発酵食、乾物料理の第一人者として、数多くの商品開発や、オーガニックカフェのプロデュースに関わる。
現在、食と暮らしと環境をまるごと学ぶ「タカコ・ナカムラWhole Foodスクール」を主宰。

通信講座(がくぶん)では、
「野菜コーディネーター」「発酵食スペシャリスト」
「AGEフード・コーディネーター」など食と美や健康に関する講座を多数監修。

一般社団法人ホールフード協会 代表理事

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