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ヤンキーから油屋へ転身
杉崎学兄貴は、16歳から23歳までバリバリのヤンキーだったそうです。当時の愛車は真っ赤なクラウン。もち、シャコタン、ウイング付き。今も、その面影はちょっぴり残っております。
兄貴は、当時中学2年生でいじめで自殺してしまった親族の死をきっかけに、心に棘をもち、苦しんでいる若者を具体的に救う方法を模索。心の駅 和郷朝市や農園、牧場などの受け皿を作っていきました。そんな兄貴の人生を変えるひとつの出逢いがありました……。
昭和24年創業。夫婦二人で営む小さな手搾りの町工場『大嶽製油所』。安価なサラダ油におされ、手搾りの油屋は次々と廃業。ここも、80歳の大嶽喜八郎が廃業を決めていました。兄貴は、縁も所縁もない近所の油屋に「廃業するなら、俺がやる!」と丁稚奉公を申し出ました。毎日食べるまかない飯の美味しさを体験し、ますますこの菜種油に惚れ込み、「おっつぁん、どれだけ時間がかかっても、俺がこの油を世の中に戻すから」と約束。
喜八郎は技を伝えた後、工場の廃業を決め、貴重な機械一式を兄貴に譲ってくれました。廃業の翌年、兄貴に喜八郎は希望と夢を託し、静かに天国へ旅たちました。ヤンキーから黄金に輝く純粋菜種油屋への転身となったのです。
聖なる製油所
これまでも製油所というのは、ステンレスのパイプが並ぶ巨大プラントがあたりまえ。ところがここ、ほうろく屋は5分で見学できるほどの広さ。でも、私には、オーラすら感じる神聖な場所に写りました。
国産の菜種は、天日に干して太陽の恵みを浴びさせます。「とうみ」と呼ばれる風圧選別をして焙煎の工程へ。ほうろく釜に薪をくべて、時間をかけて、ゆっくりと丁寧に低温焙煎されます。電気やガスの炎では、伝統の味は生み出されないという兄貴。
ほうろく釜の真上には神棚が祀られ、兄貴は、毎日、作業の前に手を合わせるのです。「今日も、上手に焙煎できますように」と。この大切な工程は、先代から教えられた技であり、その結果、通常の湯洗い、加熱処理、濾過という工程を必要とせずに澄んだ菜種油が出来上がります。
肉食が悪い?油が悪い?
戦後70年で日本人の食生活は激変してしまいました。生活習慣病、ガンなどの疾患も増加。先進国でガンの死亡率がこれほど右肩上がりの国はありません。「肉食」を悪者にする学者もありますが、私は粗悪な植物油の摂取量の増加こそが今の不健康の元凶であると思っております。油選び、油の使い方は美容と健康のバロメーターであると自分の経験を通じて感じます。
ほうろく屋での試食が「イワシの一夜干しのアヒージョ」でした。伝承油のアヒージョ、絶品!
兄貴曰く「残った油は、パスタに和えるとうまい」。
私は絶句しました。「揚げた油をリサイクル?ありえない~」
私は、油については、少々、うるさく、勉強も積み、最新の油の情報を収集してまいりました。そう、自称「油博士」。よい油とはオメガ3が多く、繰り返し使わない、油を酸化させないために、コールドスタートで加熱調理が定説でした。
ところが、もう兄貴の菜種油の製法と味を知ったとき、これまでの上っ面の油知識を語ることすら恥ずかしくなりました。科学やデーターを超える「良い油」を作るには、原料と製法にまさるものはないのです。栄養表示も脂肪酸についても、兄貴の前ではかすみます。
兄貴は、単に油生産者の枠をとっくに超えています。若者の心と体を元気にする解決法として、農薬・化学肥料を使わず、微生物が豊富な土壌で育った野菜を食べること、引きこもりや少子化まで「食を通して解決できる!」という 使命感を持ち様々な活動を続けています。
製油所を継いだ当時の原料菜種の仕入れはわずか500~600㎏。原料の確保が急務でした。西尾市内の空いている畑を借りて菜の花を植え、菜の花でまちおこしを行う愛知県田原市のNPOや、全国の菜の花プロジェクトも連携し、5年目にして、愛知県産 だけで24トンという仕入れルートを確保しました。
「菜種がいっぱい集まるから、売らなきゃならんのよ」とはにかむ兄貴の銀縁メガネの奥の瞳はキラキラ。
日本の油ほど、流行に流されてきた調味料はありません。紅花油、オリーブオイル、ココナッツオイル、MCTオイル……。そこには、ある種のマーケティング的戦略が見え隠れします。
こんなイカした大人が増えていくことを願います。
圧搾法で絞っただけの菜種油と加熱なしの荒搾り油、焙煎温度60度までの生搾り油の3種類。どれも、これも、兄貴のパッションをびんびん感じる素晴らしい国産菜種油です。
荒搾り油 ほうろく菜種油 460g ¥2,400(税別)
※掲載情報は 2018/11/20 時点のものとなります。
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キュレーター情報
料理家/フードディレクター
タカコナカムラ
山口県の割烹料理屋に生まれる。
アメリカ遊学中にWhole Food(ホールフード)に目覚める。
日本の伝統食・発酵食、乾物料理の第一人者として、数多くの商品開発や、オーガニックカフェのプロデュースに関わる。
現在、食と暮らしと環境をまるごと学ぶ「タカコ・ナカムラWhole Foodスクール」を主宰。
通信講座(がくぶん)では、
「野菜コーディネーター」「発酵食スペシャリスト」
「AGEフード・コーディネーター」など食と美や健康に関する講座を多数監修。
一般社団法人ホールフード協会 代表理事