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味やモチモチ感、独特のほのかな甘み……北欧のパンのおいしさをそのまま再現
昭和13年築の3軒連なった日本家屋をリノベーションした趣きのある複合施設「上野桜木あたり」(台東区谷中地区)内に、ノルウェーから輸入した小麦やライ麦で作るサワードウブレッドのお店「VANER ヴァーネル」が、8月5日にオープンしました。
サワードウブレッドとは、その名の通り酸味のあるパンのこと。天然の乳酸菌や酵母を組み合わせて低温で時間をかけてパン生地を発酵させるため、乳酸による酸味が発生するのです。パン酵母でふくらませる通常の小麦のパンよりもずっと古い歴史があり、グルテンが少ないためにパン酵母が有効にならないライ麦入りのパンに広く用いられています。
小麦よりも寒冷地で育ちやすいライ麦は、主にヨーロッパ北部で広く栽培されてきました。それゆえ、サワードウブレッドは北欧やドイツなどの食卓に欠かせないパンでもあります。
またアメリカのサンフランシスコでは、19世紀のゴールドラッシュの時代にサワードウブレッドが野営の食料として重宝され、今では英語の言い回しでsourdoughといえば「(金鉱の)開拓者、探鉱者」の意味も。そして現在もサンフランシスコの名物として受け継がれています。
さて、蘊蓄が長くなりましたが、「ヴァーネル」さんのサワードウブレッドは、私にとっても待望の一品でした。というのも、北欧料理を作ったときなどにライ麦入りのサワードウブレッドはなくてはならないものなのに、これまで納得できるパンを日本で手に入れることができなかったからです。
実際にノルウェーなどのベーカリーで修行を積まれたお店のヘッドベイカー宮脇司さんが作るサワードウブレッドは、酸味やモチモチ感、独特のほのかな甘みといった北欧のパンのおいしさがそのまま再現されていて、本場の味を知っている方なら感激されると思います。
今回は、このパンでデンマーク発祥のオープンサンド「スモーブロー」(上写真)を作ってみましたが、やはりパンの酸味がしっくりときました。
なお、お店で使われているノルウェー産の小麦・ライ麦は以下のものとのことです。
Oland(※) オーランド小麦 (※)ノルウェー語で正しくはOにストローク表記
特徴:スウェーデンが原産の古代小麦の一種。独特の甘みがあり、質のいい小麦として北欧で広く認知、評価されている。
Spelt スペルト小麦
特徴:文明の古い時代から栽培されていた記録の残っている古代種の小麦。どっしりとしたナッツ系の香りが特徴で、パンとして焼いた場合独特の甘みが立ちやすい。
Emmer エマー小麦
特徴:スペルトに並び人類の文明の中で最も古くから食べられている小麦の原種のひとつボディーのあるアロマで、独特の草っぽさとその甘さが魅力。
Svedje Rug スヴェーシェライ麦
特徴:元々フィンランドとロシアで収穫されていた品種を改良。味はコーヒーやダークチョコレートの様な複雑な甘みが特徴。
他に、スウェーデンのシナモン、カルダモンのパンもあり、こちらも美味でした。サワードウブレッドは栄養面でもすぐれているといわれます。今後、少しずつ商品数を増やしていかれるそうですので、期待しましょう。
ヘッドベイカーの宮脇司さん
※掲載情報は 2018/08/26 時点のものとなります。
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キュレーター情報
各国・郷土料理研究家
青木ゆり子
雑誌「ぴあ」等の記者を経て料理に目覚め、2000年に「世界の料理 総合情報サイト e-food.jp 」を創設。以後、各国の「郷土料理」をテーマに、サイト運営、執筆、レシピ研究および開発、在日大使館・大使公館での料理人、料理講師等などに携わる。
地方色あふれる国内外の郷土料理の魅力を広く伝えるとともに、文化理解と、伝統を守り未来につなげる地域活性化をふまえて活動を行っている。
「世界の料理レシピ・ミュージアム」館長。著書「しらべよう!世界の料理 全7巻」(ポプラ社)、
「日本の洋食~洋食から紐解く日本の歴史と文化」(ミネルヴァ書房)。