記事詳細
紹介している商品
無塩バターはバターかけごはんに最適
フレンチのシェフと組んでイベントを行う前日のことだった。「明日までに無塩バターを用意してくれ」と。地方の生産者を東京に招いて、それぞれの食材のレシピを作り来場者に試食商談会してもらう趣旨で、3ヶ月かけて生産現場を廻っていた。シェフにどのくらい必要かと訊ねると「無塩バターを2kg」と。普段家庭用で使うバターは、200gくらいだが、これが10個も、そして、無塩バターだと!まだ、バター不足が話題になっていた頃で、どこで入手出来るか考えこんでしまった。
ともかく、ネットでは間に合わないので、バターを売ってそうな店を訊ねて歩いた。輸入食品を多く扱っているチェーン店でバターをやっと見つけたが、有塩バターしか売っていない!「無塩バターが欲しいのですが」というと、さっき入荷したばかりで、奥の冷凍庫にあると。2kg欲しいというと、業務用で、1個は450gしかないと。多い分には問題はないので450gを5個購入した。ずしっと重い袋を大切に持ち帰ったが、そういえばこの地域はパン屋さんや菓子屋さんが多いので業務用の無塩バターも沢山売っているのだと気が付いた。無事にイベントも終了し、遅めの休暇を取るためにパリに向かった。パリではアパルトマンを借りていて、着くなり荷物をほどいて、近所のスーパーマーケットに食品を買い出しに行った。朝食用の買い出しだが、パンは近所のパン屋で朝に焼きたてを買うので、他のコーヒー、ミルク、チーズ、ヨーグルト、ハム、卵にオレンジジュースとサラダ用の野菜を籠に入れたが、何と肝心のバターコーナーは空っぽだった。いや,正確に記すと有塩バターは全くないのだが、無塩バターは1個残っていたのだ。普段は有塩バターしか食べないので、どうしょうかと迷ったが、無いよりはましなので、無塩バターと一緒に岩塩も購入した。
後日、高級百貨店のバター売り場には有名ブランドのバターが沢山あり、パリの友人に聞くと酪農農家がストをして安価なバターがスーパーマーケットで消えてしまったんだと。パンに無塩バターを塗って一口味見してみると意外に塩気を感じる。パリの無塩バターには岩塩を混ぜて食べるつもりだったが、全然気にならず逆にバター本来の風味は無塩バターの方が美味しいと感じたのだ。「無塩バター」と書いてきたが、原料の生牛には微量の塩分が含まれており、現在では「食塩不使用バター」と表記されるのだ。
ちなみに、日本の有塩バターの塩分量は100gのバターに対して1.5%の食塩が入っており、パスタを茹でる時の濃度大体3%くらいなので、そんなに塩辛くはないのだ。料理や製菓、パンに無塩バターが使われるのは後で、食塩などを加えるために、"味の計算”をしやすくするために有塩バターはむいていないのである。以前からバターは好きなので幾つか紹介してきたが、今回紹介するのは佐渡バターの有塩と無塩(食塩不要バター)の2種類である。
このバターを教えてくれたのは佐渡出身で、日本のチーズ文化に多大な貢献をされた本間るみ子さんで「佐渡に美味しいバターがあるのよ」有塩バターにはミネラル豊富な佐渡海洋深層水塩が使用されてコクがあるが、無塩バターはクセが無く爽やかな感じでさっぱりとしている。
パンには有塩バターを使うが、実はバターかけごはんが大好きで、無塩バターを熱々のごはんの中に”閉じこめて”醤油をたらして混ぜると俄然旨さが増すのだ。無塩バターゆえに、醤油の塩分が丁度合い、普通の有塩バターよりも塩分を気にせずに味をカスタマイズでき、岩塩や藻塩、海苔の佃煮なども合うのだ。パリで無塩バターに岩塩を合わせて自分好みの有塩バターにして味をしめて以来クセになってしまったというお話。
※掲載情報は 2018/06/29 時点のものとなります。
- 6
キュレーター情報
アートディレクター・食文化研究家
後藤晴彦(お手伝いハルコ)
後藤晴彦は、ある時に料理に目覚め、料理の修業をはじめたのである。妻のことを“オクサマ”とお呼びし、自身はお手伝いハルコと自称して、毎日料理作りに励んでいる。
本業は出版関連の雑誌・ムック・書籍の企画編集デザイン制作のアート・ディレクションから、企業のコンサルタントとして、商品開発からマーケティング、販促までプロデュースを手がける。お手伝いハルコのキャラクタ-で『料理王国』『日経おとなのOFF』で連載をし、『包丁の使い方とカッティング』、『街場の料理の鉄人』、『一流料理人に学ぶ懐かしごはん』などを著す。電子書籍『お手伝いハルコの料理修行』がBookLiveから配信。
調理器具から食品開発のアドバイザーや岩手県の産業創造アドバイザーに就任し、岩手県の食を中心とした復興支援のお手伝いもしている。