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驚異的な辛さと旨味の渦に巻き込まれる快感ミャンマー郷土料理
ご縁あって色々な方からアジアの美味しいものを紹介いただく事が数多くある。インド、タイ、スリランカ、ネパール。そんな中ですごいものをいただいた。とても辛い、そしてうまいミャンマーの料理を袋詰めにしたものだった。
ミャンマーという国。意外と場所はわからないという方も多い様子。
ミャンマーの旧国名はビルマ。インド、バングラデシュ、中国、ラオス、タイと国境を接し、それらの国からの食文化の影響を見る事ができる。地理的にもインドの手前、タイの向こう側という言い方がわかりやすいかもしれない。仏教国であること、それと米食が主でそこにおかずを添えて食べるというわたしたちにも通ずるスタイルを持つ。
主菜はヒンと呼ばれるミャンマーのスパイス煮込みが多いようだ。スパイスはインドほど強くはせずというのが基本で、濃度と辛さはいろいろ幅がある。そんなミャンマーの煮込み料理、ヒン。
今回手元にやってきた「チェッターヒン」、これはミャンマーの激辛トマト煮込みともいえるもの。これが本当に旨かった。
『36チャンバーズ・オブ・スパイス』という会社をご存じだろうか。少し前の私の記事でも紹介した、料理研究家の渡辺玲先生監修の「ボンベイトレイルミックス」を企画した会社。アジアの郷土料理を真正面から受け止め、昇華させエッジの立った製品作りをしている食品メーカーだ。
実はパッケージが完成する前のサンプルをいただき食べたのだが、身震いする辛さとうまさであった。サンプルには小さな付箋がついていた。「ミャンマーカレー 激辛 めちゃくちゃうまいです」とあった。それは心から本当であった。
めでたく発売にこぎつけ、スーパーの店頭に並んだという知らせが嬉しくてさっさと買いに行き、再度食べてみることにした。
まずパッケージを手に取るとズシリとくる重量感。骨つきの鳥手羽元が2本まるまる入るという。なるほどの重さだ。具材の多いレトルトパウチ食品はきちんと時間をかけて温めたい。時間はパッケージを参考のこと。ミャンマー料理研究家 保芦ヒロスケさんが監修を手がけたそうだ。
このチェッターヒン、皿にあけると粘度は高く、汁というよりも現地の考え方である煮込み料理、おかずの類と考えるのがより近いと感じられる。とはいえ日本人の視点からだとやはりアジアのカレーの一種と分類する人も多かろう。
ヒンは各種肉を使った煮込みが多く、魚などもヒンとして調理される。地勢的、文化的にインド近隣の食文化の影響が見られるのが面白い。油を多く使うのはバングラデシュ的でもある。この『36チャンバーズ・オブ・スパイス』の「チェッターヒン」は、ベースは辛くスパイシーなトマトとタマネギを深く炒め煮たペーストというイメージで、そこに手羽元が入り煮込まれている。昨今油は悪者扱いされることも多いが、食材の香りや味を油に移して料理全体に行き渡らせ、味の融合を図る媒介としてこんなに大事なものはないのだ。油多めのイメージのミャンマー料理だがこの製品は上手に抑えてあって、なおかつ風味はきちんと残る。ここら辺がうまい落とし所を感じさせる。そしてこのレトルトパウチになった「チェッターヒン」には、毎度おなじみになってしまったレトルト製品を賞賛する言葉。あれを使わねばならぬ味であった。「なぜこんなすごいものがあのレトルトパウチの袋から出てくるのか?」である。その中でも特別その感が強い、ものすごくうまいものがこれだ。しかも今回は激辛。
ひと口目、ほんの少し舐めてアッと思い急いでタオルを取りに行った。覚悟を決めた。
辛い。ぐいっと辛く、ぐいっと汗が出るのだ。しかし、旨い。強く、濃いトマトの凝縮された旨味。そこにドスンと辛さがのる。ごはんがすすんで困ってしまう。手羽元が柔らかく骨離れよく、きちんと旨い。いや、考えてみてほしい。袋を温めただけの中から出て来た骨つきチキンが「レストランの普通にうまいと同じレベルでうまい」のだ。これはとんでもない事だ。袋から出てきたのに旨いのだ。こんなの困る人がいっぱいいるだろう。わたし達食べる側は万々歳だ。
非常にうまい、非常に辛い。すごく辛い。ジリジリと音を立てて頭の毛穴が一斉に開いて汗を吹き出す。そして、やはり旨い。その旨味や奥行きに舌が間違いなく喜んでいる。とても旨いのでとても辛いのにやめられない。タマネギがその形を残したままたくさん入っており、そこからの旨みと甘みが強く感じられる。そこに逃げ込もうと舌がもがくがその後ろをビリビリと辛さがこれでもか、どうだ、もっとか、と押し寄せてくる。不思議なのが、その辛さが意地悪ではなく心地いい事だ。時よりやってくるホールのブラックペッパーをガリリと噛んだ時の辛さと香りが場面転換を作ってくれる感がある。ピーナツオイルの香りやガーリックのパンチが渾然一体となって口の中で暴れている。
いまいちど、なぜこんな代物が袋から出て来て自分の家の食卓で猛威を振るっているのか、汗をかきかき考える。考えられない。麻痺してきている。ただひたすら辛くてうまくて幸せなのだ。そう、なんだか辛さとうまさのうねりの中を漂うようだ。そんな混沌に身を置く楽しさよ。
ふと思い立ってベランダのコリアンダーリーフを取ってきてパッケージの真似をしてタマネギみじん切りとコリアンダーリーフを散らした。これもとても良かった。残念ながら赤タマネギではないが、フレッシュなタマネギは香りと食感でとてもいいアクセントになる。
どんどん食べ進み、ごはんがどんどん進むその中で考えた。例えばだがこのヒンを炒め物のベースペーストに使って料理をする、などもありではないだろうか。いや、でもこのままがいい。一袋でごはん2膳は軽くいけるパワフルで辛いこれは、いじくるのは勿体無い。カートン買いを薦めたい。いや、カートン買いをわたしがしたいと思っているのだ。
これをきっかけに高田馬場のミャンマーレストランやミャンマーコミュニティも盛り上がると楽しいな、と思う。そこまで考えてしまう味だった。
ミャンマー料理は魚だしの汁麺、モヒンガーやタイの人気カレーヌードル、カオソーイの原型とも言われるオンノーカウスエーなどもある。どちらもいいが、やはり白飯を喰らうのが好きなわたしたち日本人にはヒンを薦めたい。
※掲載情報は 2018/06/21 時点のものとなります。
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キュレーター情報
カレーライター・ビデオブロガー
飯塚敦
食、カレー全般とアジア料理等の取材執筆、デジタルガジェットの取材執筆等を行う。カレーをテーマとしたライフスタイルブログ「カレーですよ。」が10年目で総記事数約4000、実食カレー記事と実食動画を中心とした食と人にフォーカスする構成で読者の信頼を得る。インドの調理器具タンドールの取材で09年秋渡印。その折iPhone3GSを購入、インドにてビデオ撮影と編集に開眼、「iPhone x Movieスタイル」(技術評論社 11年1月刊)を著す。翌年、台湾翻訳版も刊行。「エキサイティングマックス!」(ぶんか社 月刊誌)にてカレー店探訪コラム「それでもカレーは食べ物である」連載中。14年9月末に連載30回を迎える。他「フィガロジャポン」「東京ウォーカー」「Hanako FOR MEN」やカレーのムック等で食、カレー関係記事の執筆。外食食べ歩きのプロフェッショナルチーム「たべあるキング」所属。「ツーリズムEXPOジャパン」にてインドカレー味グルメポップコーン監修。定期トークライブ「印度百景」(阿佐ヶ谷ロフトA)共同主催。スリランカコロンボでの和食レストラン事業部立ち上げの指導など多方面で活躍。