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豊かな自然と聖書の時代からのワインの歴史。レバノンワインに注目
3年前、IPPINのコラムにてレバノンワインを紹介しました。(https://ippin.gnavi.co.jp/article-1756/)
レバノンワインの世界的な評価や、日本人にあうテイストなどを紹介するとともに、日本にいると勘違いしてしまうレバノンの本当の風土、例えば高原では雪が降り、厳寒の冬を迎える、であるとか、赤茶けた暑い土地だけではなく、緑豊かな風景が広がるなどのエピソードを紹介しました。そして、今年、実に興味深いレバノンワインが日本にやってきました。
ワイナリーの名前は『IXSIR』(イクシール)。アラビア語で「不老不死の霊薬」を意味するエリクシール(ゲーム好きの方ならなんとなくファイナルファンタジーのエリクサーをイメージするでしょうか)に由来し、「永遠の若さと愛をもたらす」というメッセージをもっています。レバノンのテロワール(ワイン生み出す土壌、気候)の優良さなどは、前述の3年前の私のコラムを参照いただくとして、こちらのワインももちろん優良な産地で育まれていて、さらに国際的にも評価されるワイン造り、施設、環境への取り組み、そして世界的に喜ばれるワインを目指して様々な投資を続けています。ワイナリーからいただいたブランドブックを見ると、自然と、その自然と調和した中近東らしい石造りの建物に、モダンなデザインと美しいステンレスタンクやテイスティングルームなど、よく行き届いた施設はクールであり、ナチュラル。さらに、レバノンとフランスは歴史的にも深い関係があり、そのリレーションから、ボルドーの著名シャトーから醸造家を招き、そのエスプリとレバノンのテロワールのケミストリーもワイナリーの特徴となっています。
そして大きなトピックスは、日本でもおなじみ、世界の経済界をけん引するカルロス・ゴーン氏が出資者であること。東京で行われたワイナリーのお披露目パーティーに、にこやかで気さくな笑顔で登場したゴーン氏は、出資の理由を、大きく2つの面から語りました。
ひとつは、パーソナルなこと。科学、化学、機械工学に、経営、ビジネス。こうした合理的で生産的な仕事に関わり続けると、反対のことをしたくなる。それは逃げることではなく新たな挑戦として人生を豊かにしてくれる。ワイン造りにももちろん、合理的で、生産的で、化学・科学的な要素は必要だけれども、ゴーン氏はそれ以上にワインを自然の恵み、人間にはコントロールできない神秘的ななにかに強く惹かれたようです。ワインはなぜこれほど人を惹きつけるのか。ビジネスの成功者であるゴーン氏がそれでも求める人生のなにかの渇望。そこにワインが愛される、人生に必要とされる本質的な物が見えてくるような気がしました。
もうひとつは、故国レバノンへの貢献。両親はレバノン人。生まれた場所はブラジルですが、中等教育はレバノンの首都ベイルートで。中東のパリともいわれ、多様な宗教、文化が共存し、知、金融、商業などで各国の交差点として魅惑の都市だったベイルート。近年、中東の周辺国では紛争、内戦の連続で、レバノンもその中で不幸な時期もあり、華やかさよりも、苦難さが世界に伝わってしまっている面もあります。しかし、今なお豊かな自然、そして多様な文化が花咲く土壌は健在。そのポテンシャルや魅力を知らしめるために……。ワインそのものの品質はもちろん、若い世代の育成、雇用など、社会貢献としての投資。これもゴーン氏が考えるワイナリーへの投資の理由。
正規の輸入会社から日本で入手できるワインは現在6アイテム。特に印象的だったのは、『イクシール・グラン・レゼルバ・レッド』。国際品種であるシラーとカベルネ・ソーヴィニヨンのブレンド。冷涼という単語をあて字的に書き換えて、麗涼、という印象のシラー。冷涼感のあるシラーは、ストイックさを感じて、そこからじわじわと優しさが伝わってくるというイメージですが、こちらは、やさしい口当たりからじわじわと芯の強さが見えてきます。歴史の荒波、列強の圧力の中で、しなやかに豊かな自然とともに生き抜いてきた、そんなレバノンの風土や人々に思いを馳せると、また胸に迫るものがあります。
旧約、新約聖書の時代からのぶどう栽培、ワインの歴史。日本ではまだ知られていないワイン王国。カルロス・ゴーン氏というカリスマが自分の思いをこめたワイナリー。と、いろいろ難しい話を書きましたが、エレガントだけど、心安らぐ、チャーミングな素敵なワインです。余韻は長いけれど壮大ではなく、じわじわと静かに広がる。心落ち着く休日、柔らかい涼風が感じられる静かな茜空の17時ごろから、窓を開けて。家族やご夫婦、気の置けない友人とともに、どうぞ。
※掲載情報は 2018/05/12 時点のものとなります。
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キュレーター情報
ワインナビゲーター
岩瀬大二
MC/ライター/コンサルタントなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカーなどの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」。ワインに限らず、日本酒、焼酎、ビールなども含めた「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。
フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。
日本ワイン専門WEBマガジン「vinetree MAGAZINE」企画・執筆
(https://magazine.vinetree.jp/)ワイン専門誌「WINE WHAT!?」特集企画・ワインセレクト・執筆。
飲食店向けワインセレクト、コンサルティング、個人向けワイン・セレクトサービス。
ワイン学校『アカデミー・デュ・ヴァン』講師。
プライベートサロン『Verde(ヴェルデ)』でのユニークなワイン会運営。
anan×本格焼酎・泡盛NIGHT/シュワリスタ・ラウンジ読者交流パーティなど各種ワインイベント/ /豊洲パエリア/フィエスタ・デ・エスパーニャなどお酒と笑顔をつなげるイベントの企画・MC実績多数。