菱岩 折り詰め弁当
京趣味 菱岩
桜の季節に必ず伺う京都。いつも混んでいますが、桜や紅葉のハイシーズンの混雑はなかなかのもの。お宿はもちろん、お料理屋さんの予約も困難なことがしばしばです。
ある年、急にスケジュールが空いて、そうだ!京都にお花見に行こう!と出かけたものの、お料理屋さんがどこも満席で嘆いたことがありました。SOSで京都のグルメ友に尋ねたところ、仕出し屋さんのお弁当がとても良いよ、と薦めてもらったのが『菱岩』さんとの出会い。以来、日帰り出張で食事をする時間が取れないときなどもお願いして作って頂いています。
天保元年創業の『菱岩』さんは、祇園でお茶屋さんやご家庭への仕出しと折り詰め弁当を専門に商いしておられます。元々店内で熱々で供されるものではなく、時間が経っても美味しく頂けるようにという仕出しやお弁当なので、そのお味の加減や調理の工夫、冷めても頂きやすいようにという心遣いなど、どのお料理にも誠実な手が加わっていて箸を進める度に感動がおとずれます。
第一の感動はまず蓋を開けた時。色とりどりな季節の素材の煮物、焼き物、和え物などがきっちりと美しく詰まっていて、まるで宝箱のようです。
まずは愛する出汁巻き卵を一口。上質な出汁がたっぷり含まれたきめ細かいふんわりした最上級のお味にノックアウトです。季節によって色々なおかずが詰まっていますが、いずれの季節に頂いても超絶に美味しい。魚や肉の焼き物も火入れの絶妙な加減で、冷めているのに固くならず、ふんわりジューシーで美味しく、生ものの締め具合や和え物のお味加減も素晴らしく一口頂く度に唸ってしまいます。
特筆すべきは野菜の炊き合わせと白ご飯。一見地味なおかずの野菜の炊き合わせですが、それぞれの野菜の持ち味を活かした炊き具合で野菜そのものの甘味や渋みなどを昇華させる薄味の仕立てや、一番美味しい食感のタイミングで上げている点など、心を込めて作れば野菜もここまで美味しく炊けるのね、と感じ入ってしまいます。そしてもしかしてお弁当の主役はこれなのかも、と思えるほどの逸品が白ご飯。いつもは冷めたご飯はあまり頂かない私ですが、こちらのご飯は驚きの美味しさなのです。むしろ冷めているからこんなに旨味と甘味が感じられるのか、と思うほど。そして冷めているのにご飯の粒と粒が立っていて、ふんわりしているのも不思議なこと。お米の品種なのか、炊き方がコツなのか、謎に思うほど逸品な白ご飯なのです。
夏場以外は数日前に電話で予約をすれば1つから作って頂けるのも嬉しいこと。さらに嬉しいことは、定番のお弁当であればJR伊勢丹の地下で受け取ることも可能な点です。お花見シーズンに『菱岩』さんのお弁当を携えて鴨川に行くのも私の定番ですが、最近は西の方に新幹線で出張がある際には、寄り道して『菱岩』さんのお弁当をピックアップして新幹線で頂くのも定番になりつつあります。本当に京都の美味は層が厚いです。
京趣味 菱岩
※掲載情報は 2018/03/17 時点のものとなります。
田中伶子クッキングスクール校長
中村奈津子
日本女子大学食物学科卒業後、全日本司厨士協会に就職。ニューヨークのニュースクール、フィレンツェのラ・フォールアカデミー、香港鴻星料理学院で学ぶ。2006年ニューヨーク駐在時より料理教室「LOVELY TABLE NEW YORK」を主宰。2009年帰国後、実家田中伶子クッキングスクールに勤務。2012年「LOVELY TABLE GINZA」開校。現在もニューヨークを行き来する活動をしている。
PHP研究所発行月刊誌「JAPAN CLOSE-UP」に料理記事連載。光文社「VERY」「女性自身」などに寄稿。BSフジ阿川佐和子氏の「阿川ごはん」レギュラー出演。日本テレビ「ZIP!」定期出演中。
主婦と生活社発行「一生作り続けたいおかず~50年の名門料理教室のベストレシピ150」が2014年本屋レシピ本大賞4位入賞。2014年9月講談社発行「本当に作りたい料理、ぜんぶ。」好評発売中。