サクサクと口の中で崩れる『代官山小川軒』のプレーンウィッチ

サクサクと口の中で崩れる『代官山小川軒』のプレーンウィッチ

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今まで、色々なジャンルの料理人の取材をしてきたが、実は非常に苦手の料理人がいる。どういうふうに苦手かというと、とても真面目で私の冗談が通じないタイプの料理人である。その中の一人が『代官山小川軒』の小川忠貞シェフなのだ。『代官山小川軒(小川軒は新橋、御茶ノ水、目黒、鎌倉と経営が別々の店舗がある)』の1階には長いカウンターがあり、大変広い厨房では数多くの料理人が仕事をしている。カウンター以外は人数によって個室が中心のレストランであり、歴代の首相をはじめ政財界人が会合に使うという敷居が高い店なのだ。

 

何度かカウンターで食事をしながら小川シェフと話しているうちに、雑誌の連載(『料理王国』)の取材を受けてもらうことになった。取材のテーマは“オムレツ”だったが、これが大変だった。小川シェフからは「姿勢がダメ!腰が完全に引けている! フライパンは水平に持たないと左右均等にならない!」と怒られてばかり、さらに、「失敗したものは全部食べるように」と。カメラマンが食いしん坊で、撮影したものをよく食べてくれたのだが、医師からコレステロールの高い卵を禁じられて、私が失敗したオムレツは食べてもらえず、自分で全部食べたのだ(自業自得)。フライパンの柄を右手でトントンして、卵を返す技が出来ずに、右手が腫れてしまいお腹も一杯で取材終了・帰る時に「オムレツが出来るようになったら、家まで食べに行くから」と。小川シェフの眼は本当に真剣に訴えていて、怖かった(笑)が、料理の話をはじめと止まらなく、本当に真面目な人なのだ。

 

小川シェフが「新橋駅が出きる前から小川軒があり、小川軒の前に新橋駅が出来たのだ」という話を聞いたのですが、どういうことかというと、元々の新橋駅は「汐留駅」で、開業は1872年。その汐留駅は貨物専用の操車場になり、山手線として汐留駅が烏森駅として開業したのが1909年でその後、新橋駅と現在の名称になったのだが1914年。小川忠良の祖父、小川鉄五郎が小川軒を1905年に創業している。まさに、明治、大正、昭和、平成と114年の老舗レストランで開業した年は日露戦争の真っ最中だったのだ。1964年に『代官山小川軒』が移転し、1970年から小川忠貞シェフは三代目に就任し、長きに渡り料理を作り続けているのだが、カウンター越しにスタッフの働く様を観ていると、ここは小川学校だと感じるのだ。やはり、私が苦手とするのは小川シェフが学校の先生のようで、勉強嫌いな私は教育者としての一面を感じるだからだろう。

サクサクと口の中で崩れる『代官山小川軒』のプレーンウィッチ

小川軒といえば洋菓子の「レーズン・ウィッチ」が有名だが、このレーズン・ウィッチの話は、小川家の兄弟間での相剋の問題が出てくるので書かないが、これはこれで面白い歴史があるのだ。そのレーズン・ウィッチからクリームとレーズンを除いたものが今回紹介する「プレーンウィッチ・チョコプレーンウィッチ」は一見地味だが、サクサクして旨いのだ。

サクサクと口の中で崩れる『代官山小川軒』のプレーンウィッチ
サクサクと口の中で崩れる『代官山小川軒』のプレーンウィッチ

元々、レーズン・ウィッチもフランス菓子の影響を受けて、個人的にはバターたっぷりの「サブレ」が原型ではないかと思っている。サブレの謂われは、17世紀フランスのサブレ公爵夫人にまつわる話から取られているという説も有力だが、サクサクした砂(sabule)が崩れる様から食感が近い、「プレーンウィッチ・チョコプレーンウィッチ」に一番近いような気がする。

サクサクと口の中で崩れる『代官山小川軒』のプレーンウィッチ

※掲載情報は 2018/02/12 時点のものとなります。

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キュレーター情報

後藤晴彦(お手伝いハルコ)

アートディレクター・食文化研究家

後藤晴彦(お手伝いハルコ)

後藤晴彦は、ある時に料理に目覚め、料理の修業をはじめたのである。妻のことを“オクサマ”とお呼びし、自身はお手伝いハルコと自称して、毎日料理作りに励んでいる。
本業は出版関連の雑誌・ムック・書籍の企画編集デザイン制作のアート・ディレクションから、企業のコンサルタントとして、商品開発からマーケティング、販促までプロデュースを手がける。お手伝いハルコのキャラクタ-で『料理王国』『日経おとなのOFF』で連載をし、『包丁の使い方とカッティング』、『街場の料理の鉄人』、『一流料理人に学ぶ懐かしごはん』などを著す。電子書籍『お手伝いハルコの料理修行』がBookLiveから配信。
調理器具から食品開発のアドバイザーや岩手県の産業創造アドバイザーに就任し、岩手県の食を中心とした復興支援のお手伝いもしている。

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