100年前の甘めの味が楽しめる老舗の海苔巻き

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現代に生き残る100年以上前のすしの味とは

普段から海苔巻きと稲荷の組み合わせが大好きで、以前のippinでも巣鴨の大阪寿司『八千穂寿司』(https://ippin.gnavi.co.jp/article-9282/)の紹介をしたが、今回は神田の『神田志の多寿司」』の「しのだのり巻きお詰めあわせ」を紹介する。元々油揚げが好きだがそれ以上に偏愛しているのが海苔なのである。友人達が新しく開店した鮨屋が旨いと言っていたので訪問してみた時の話。絶賛するほど旨くはなく、仕上がりに海苔巻きを頼んだが、これが何だかしっくりこない。口に入れた海苔巻きが噛み切れずに海苔が延びてしまう。いろいろと情報を集めてみると鮨屋の店主は大阪で修行したとのことで、海苔巻きの謎が解けた。これは、関東と関西での海苔の使い方が全然違うからなのである。私にとって「すしバイブル」に当たる本、日本橋・吉野鮨本店の三代目だった吉野曻雄さんの『鮓・鮨・すし』(旭屋出版)の中に解答があったのだ。

海苔巻きと書いているが,関西では「巻きすし」というのが一般的である。根本的な違いは関東(江戸前)では海苔は焼き切って使うが、関西では海苔は焼かないで使うという点だ。くだんの鮨屋はまな板の上に海苔を直接置いて巻いていたので、益々海苔が湿った状態になってパリッとした食感はなくなるのだ。
焼いた海苔を細巻きにするには素早く巻く技術が必要だが、焼いていない海苔なら破れる心配も無いのでゆっくり巻けば良いものの、やはり海苔はパリッとして欲しいものだ。最近は焼きたてのパリッとしたものは手巻きが一番良いと思っている。仕事先の大阪の会社の人と海苔の話をしていた時に、その人は大阪はなく静岡出身だったが、「大阪では海苔は味付け海苔が多く、普通の焼き海苔はあまり食べないようだ」と言っていた。すしの発祥は元々上方だが、鉄砲に似ていることから鉄砲巻きといわれる細巻きと鉄火巻きの2つは江戸の創案なのである。元々関西のすしに細巻きは無かったが、大正12年の関東大震災以降に大阪から東京へ生イカ、生エビ、おどりなどが持ち込まれて誕生した、「東京すし」が大阪に逆輸入されて生まれたものらしい。アメリカで日本のすしを手本にして生まれた「カルフォルニア巻き」みたいなものだろうか。すしもおでんも関東大震災後に関東と関西の交流により、お互いに影響を与えながら変化していくのは非常に面白く興味深い話である。1902年(明治35年)に東京・九段坂に開業した『神田志の多寿司』は、その当時から甘味まろやかにして「コク」のある稲荷寿司と、じっくりと煮込まれたかんぴょうを使った海苔巻きが評判となっていたとか。確かに『神田志の多寿司』の味は他のものと比べて甘味が非常に強く、新宿伊勢丹地下で購入した伊勢丹店舗限定の「昔いなり」もかなり強い甘みを感じたことを思い出した。

100年前の甘めの味が楽しめる老舗の海苔巻き

「しのだのり巻き」は、普段なら日本酒でいただく。この甘みの強い味には渋めの日本茶が合うとも考えたが、意外にウィスキーのつまみになるのは発見だった。すし組合(全国すし商環境衛生同業組合連合会)の技術副部長の方に取材して聞いた話だが、関西と関東のすし飯の甘さは東海道を登ってくるにつれ甘味が減っていくということだ。大雑把だが、すし飯は米一升に対して酢1.8リットル、塩10~15gが基本。砂糖の量は関西では150~200g、中京辺りで100~150g、そして関東では0~100gとどんどん減って行くのだそうだ。こうして考察すると、『神田志乃多寿司』の味は100年以上前のもので、現代では希少な味なのではと思う。甘めのすしが好きな方にはお薦めの老舗の一品なのであった。

100年前の甘めの味が楽しめる老舗の海苔巻き

※掲載情報は 2017/12/29 時点のものとなります。

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キュレーター情報

後藤晴彦(お手伝いハルコ)

アートディレクター・食文化研究家

後藤晴彦(お手伝いハルコ)

後藤晴彦は、ある時に料理に目覚め、料理の修業をはじめたのである。妻のことを“オクサマ”とお呼びし、自身はお手伝いハルコと自称して、毎日料理作りに励んでいる。
本業は出版関連の雑誌・ムック・書籍の企画編集デザイン制作のアート・ディレクションから、企業のコンサルタントとして、商品開発からマーケティング、販促までプロデュースを手がける。お手伝いハルコのキャラクタ-で『料理王国』『日経おとなのOFF』で連載をし、『包丁の使い方とカッティング』、『街場の料理の鉄人』、『一流料理人に学ぶ懐かしごはん』などを著す。電子書籍『お手伝いハルコの料理修行』がBookLiveから配信。
調理器具から食品開発のアドバイザーや岩手県の産業創造アドバイザーに就任し、岩手県の食を中心とした復興支援のお手伝いもしている。

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