日本人のカレーライス観は海からやってきた!

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イージス艦こんごうの給養担当隊員の方から嬉しい荷物が届いた

日本におけるカレーライスの起源は諸説あるが、一つの経路からだけやって来たとはわたしは考えていない。
ただ共通していえることは「外国、海の向こうからもたらされた」という一点のみ。これは変えようがない事実だ。軍隊、外国航路、貿易船。そういうものの中にスパイスを使う煮込み、炒め料理などが、何分何秒という単位ではなく、同時代の中、何らかの形で伝わってきたのだと考えている。それがカレーの伝播の事実なのではないだろうか。そのあと普及に至るまでの変化と日本の食文化の融合があったのだ。

 

閑話休題。

 

ある日、わたしの電話に一通の見知らぬ人からのメッセージが届いた。
そこにはこう書いてあった。

 

『はじめまして私は海上自衛隊で勤務しています。仕事は調理をしていまして毎週金曜日はカレーを作っております。カレーには自信があります。
 佐世保のカレーGPで優勝したカレーがレトルトになっているのをお送りしたいので、送り先の住所を教えて頂けますか? 「こんごう カレー」で検索してください。』

 

差出人は冨永さんとあった。

 

うん! イージス艦こんごうか。
ミリタリーマニアではないわたしでも、ヘリコプター護衛艦のいずもと並んでその名前は記憶にある。
こんごうは日本の弾道ミサイル防衛を担うイージス1番艦。データリンクが要の近代戦を旨とした、モダンな艦艇だ。自衛隊、特に海上自衛隊のカレーの話は有名で、ご存じの方も多いだろう。長期の任務で航海に出た折、曜日感覚をなくさぬように金曜の食事にはカレーが出る、というあの話だ。

 

そして、冒頭の話“カレーライスは海からやってきた”。特に軍港のあった町、横須賀、呉、佐世保などにはそんな影響でやはりカレーライスの文化があるようだ。
そういう由緒正しいカレーライスの、直系の血を受け継ぐ場所からのメッセージ。興奮しつつもはたと考えた。冨永さんとは何者なのか。どなたともしれぬ人に何かをお送りいただくのも恐縮であるし、まずは誰なのか、顔がわからない不安もある。まずは、と冨永さんのメッセージにあった検索をしてみることにした。
「こんごう カレー」で検索をかけると。

 

おやおや。
「メニューを考案した冨永誠剛さん(左)と斉藤浩司艦長(右)」というキャプションで写真が出ている。調べるとこんごうの艦長、斉藤一佐は2017年現在だと3代前の艦長を務めていらっしゃった方。そのもとでメニュー開発をされていたのが冨永二等海曹であった。これには仰天した。メニューを作ったご本人が連絡をくださったということか。一も二もなくお返事を差し上げ、ありがたくカレーを頂戴することとなった。しばらくすると航海から戻った冨永さんが、「GC1グランプリ イージス艦こんごう ビーフカレー」を送ってくださった。

日本人のカレーライス観は海からやってきた!

 

封筒を開けると「JS KONGO DDG 173」の文字が踊るパッケージが出てきた。
JSはジャパンシップ、DDGはミサイル駆逐艦の意味となる。心も踊る。

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さて、準備。
士官と兵卒。自衛隊では料理は同じものを食べる。食べ物の格差は士気に関わるからだ。ただし食事する場所が違うのと、曹士はセルフで小分けの金属皿に自分で欲しい分を山盛り盛り付ける。士官は瀬戸物などの食器できちんと盛り付けられて、係が配膳までしてくれる。そういう違いはある。

日本人のカレーライス観は海からやってきた!
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今日の盛り付けはあいだをとって皿は瀬戸物。こんごうでの盛り付け写真を見てサラダと目玉焼き、福神漬けを追加してみた。

 

さあ、カレーだ。

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ひと口カレーソースを含む。うん、これはおいしい。これはちゃんと作っている、という感じがある。
レトルトカレーというハンデを感じさせない酸味と甘みのバランス、その奥の方からピリリとした辛さがやってくるという構成で、きちんとおいしいものだ。肉がまたなかなかいい。ちゃんとおいしい肉が満足いく分入っている、と感じた。
カレーライスというものはこういうものだよ、と教えてくれるような正しいカレーライスだ。ジャンルでいえば正統派の洋食カレーライス寄りで、その土台の上に工夫を凝らして深みを追求するスタイルと感じた。

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濃い味でパンチがあるが、思ったよりもったりしないのが美点。中辛程度の辛さは万人に嬉しいだろう。素直にご飯を多めに盛りたくなる。大変好みの味だった。
目玉焼きやサラダはやはり付け合わせにしてよかった。どちらもよく合う。

 

原材料名を読むのが楽しかった。オニオンソテー、牛肉、チキンブイヨン、カレーフレーク、デミグラスソース、にんじん、赤ワイン、リンゴピューレ、ビーフエキス、トマトケチャップ、チョコレート、チャツネ、ウスターソース、バター、はちみつ、香辛料、砂糖などが列記される。隠し味系のものも多く、こんごうのカレーの秘密の一端が見えてくる。なるほどこれこそ工夫を凝らしたこんごうのギャレーで作られるカレーそのものなのだ。

 

こういうカレーをわたしは大事に思っている。
昨今の都市部ではバラエティに富んだカレーライスが外食、レトルト問わずに手に入る。インドを中心としたアジアエスニックの味のもの、強いスパイス使いのもの、欧風のもの、スープカレー。どれも面白く、美味しいものだ。そういう中で、王道のカレーの、それもきちんと手をかけたもの。そういうものが少ないと感じている。そういう中でいわゆる「海軍カレー」と分類されるカレーはカレーライスの王道を歩き、手が込んでいたり、工夫が強くなされていたりする。日本人のカレー観の故郷のようなジャンル、大事にしなければいけない。

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このカレーは2014年のGC1(護衛艦カレーNo.1)グランプリで優勝を勝ち取ったもの。
GC1グランプリは海上自衛隊佐世保地区の艦艇部隊が自慢のカレーを競うオープンイベント。2014年は参加艦艇7隻。こんごう、しまかぜ、ちょうかい、第2掃海隊(ひらしま、やくしま、たかしま)、あけぼの、あまくさ、きりさめの7チームと特別参加で陸上自衛隊相浦駐屯地も参加。8種のカレーを一般参加者が試食して優勝を競うものだった。
確かにこのカレー、優勝の価値がある。

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冨永さんからのカレーには手紙が添えてあった。いまは勤務がこんごうからあさゆきに移ったこと、カレーを楽しんでほしいこと、そして、今年も乗艦のあさゆきからGC1グランプリにエントリーしたこと。今年の開催は12月2日。佐世保市の島瀬公園だということ。

 

冨永さんのカレー、ぜひ直にお会いしてお話を聞きながら食べてみたいものだ。

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※掲載情報は 2017/11/20 時点のものとなります。

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飯塚敦

カレーライター・ビデオブロガー

飯塚敦

食、カレー全般とアジア料理等の取材執筆、デジタルガジェットの取材執筆等を行う。カレーをテーマとしたライフスタイルブログ「カレーですよ。」が10年目で総記事数約4000、実食カレー記事と実食動画を中心とした食と人にフォーカスする構成で読者の信頼を得る。インドの調理器具タンドールの取材で09年秋渡印。その折iPhone3GSを購入、インドにてビデオ撮影と編集に開眼、「iPhone x Movieスタイル」(技術評論社 11年1月刊)を著す。翌年、台湾翻訳版も刊行。「エキサイティングマックス!」(ぶんか社 月刊誌)にてカレー店探訪コラム「それでもカレーは食べ物である」連載中。14年9月末に連載30回を迎える。他「フィガロジャポン」「東京ウォーカー」「Hanako FOR MEN」やカレーのムック等で食、カレー関係記事の執筆。外食食べ歩きのプロフェッショナルチーム「たべあるキング」所属。「ツーリズムEXPOジャパン」にてインドカレー味グルメポップコーン監修。定期トークライブ「印度百景」(阿佐ヶ谷ロフトA)共同主催。スリランカコロンボでの和食レストラン事業部立ち上げの指導など多方面で活躍。

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