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名物をダブルで味わえる、飛騨牛を乗せた朴葉みそも
古く美しい日本の街並みが残る岐阜県の飛騨高山は、京都や金沢、世界遺産に登録された合掌造りの集落のある白川郷とともに、海外からの日本の観光ツアーが必ず訪れる街。3年ほど前に初めて訪れた時に驚いたのは、人口9万人足らずと国際都市としては決して大きくないにもかかわらず、外国人旅行者の受け入れ態勢が目を見張るほど手厚いことでした。
飛騨高山を代表する郷土料理といえば、黒毛和牛の飛騨牛と、朴葉(ほおば)みそです。特に後者は、香りのいい朴の葉にきのこや山菜、刻みねぎと一緒にみそを乗せ、炭火で焼いてごはんに混ぜて食べる素朴さが何とも魅力的。海外向けに紹介するなら、ベジタリアンでも食べられ、自然の芳香が食欲をそそる日本の中部山岳地帯の伝統料理、といったところでしょうか。
最近は、名物をダブルで味わえる飛騨牛を乗せた朴葉みそも登場。海外からの旅行者がよく使うガイドサイト「トリップアドバイザー」のレビューなどを読むと、その人気ぶりがわかります。地元の方々にとってはあまりにも身近でありふれて感じる料理でも、ローカル感を演出するちょっとしたPRの工夫で、訪れた人をもっと惹きつけることができるよい例ともいえます。
飛騨牛と朴葉みそのセットは、JAの通販で購入することもできます。
また、飛騨高山ではイスラム教徒向けのムスリムフレンドリー・プロジェクトが発足され、ハラールの牛肉を使った朴葉みそなどというメニューもすでに開発されているそう。さすがの対応です。
一方、岐阜県は、日本のシンドラーといわれた杉原千畝の生誕地であり、同県八百津町にある彼の記念館とともに、飛騨高山は彼に命を救われたユダヤ人の子孫たちが感謝の念をこめて訪れる観光ルートにも入っています。ユダヤ教の安息日である土曜日には、宗教上の理由から乗り物や家電を使えない敬虔なユダヤ教徒に配慮したツアーも出ているそうです。
飛騨牛やみそまではわかりませんが、イスラム教徒のハラールのような、ユダヤ教徒が清浄とするコーシャの食事も用意されるとのこと。これから2020年の東京オリンピック/ パラリンピックに向けてますます増加が見込まれる訪日外国人への細やかな食対応を実践し、郷土名物を世界中から訪れる観光客に上手にアピールしている自治体の先例として今、飛騨高山に注目していきたいところです。
※掲載情報は 2017/03/07 時点のものとなります。
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キュレーター情報
各国・郷土料理研究家
青木ゆり子
雑誌「ぴあ」等の記者を経て料理に目覚め、2000年に「世界の料理 総合情報サイト e-food.jp 」を創設。以後、各国の「郷土料理」をテーマに、サイト運営、執筆、レシピ研究および開発、在日大使館・大使公館での料理人、料理講師等などに携わる。
地方色あふれる国内外の郷土料理の魅力を広く伝えるとともに、文化理解と、伝統を守り未来につなげる地域活性化をふまえて活動を行っている。
「世界の料理レシピ・ミュージアム」館長。著書「しらべよう!世界の料理 全7巻」(ポプラ社)、
「日本の洋食~洋食から紐解く日本の歴史と文化」(ミネルヴァ書房)。