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毎日忙し過ぎる大女将のために作っていたのが始まりの、すっぽんの煮こごりのスープ
「すっぽん」というと皆さんはどういうイメージでしょうか?好き嫌いはあるにしても、高級で高いというのは間違いではないですね。普段からよくすっぽんを食べに行く、丸鍋を食べに行くという方は、相当な好事家だと思います。
日本料理店に行った時に、コースなどに組み込まれていて「食べさせられた」という経験をお持ちの方もいるでしょう。「丸鍋」と書きましたが、丸鍋はすっぽん料理の代表で、すっぽんの甲羅が丸いので通称「まる」とも言われているのです。すっぽんは普段めったに食べられないせいか、すっぽんに出会った時の味はよく覚えているものです。
まだ、20代の頃原宿の「重よし」に通っていた時がありました。現在でも名店中の名店ですが、生意気盛りで、到底若造が行く様な店では無かったのですがね。そこで、キャベツの丸ごとを煮込んだ鍋がことのほか好きで、食べていました。シンプルで家でも出来るのかと、昆布や鰹節でだしを引いて炊いてみたのですが、全然違うのです。よく聞いてみると、これはすっぽんのスープだったのです。これは、自分で再現なんか出来るわけはありませんね。
次に荻窪の懐石料理「四つ葉」に出会うのですが、ここはすっぽん料理で有名な店だったのです。丁度テレビで「料理の鉄人」が全盛の頃で、「料理の鉄人」の関連本を制作していて取材撮影で何度か訪れていたのです。最後の取材で、フランス料理のシェフと「四つ葉」のご主人と対談をお願いしたのですが、その日の朝、オウム真理教の「地下鉄サリン事件」がありました。「四つ葉」の主人はその日、事件のあった車両に乗っていて途中で、不調のために降りて、事無きを得たと聞いた時は驚いたものでした。そんな中で作っていただいたすっぽんのコースは、美味しかったという事もありますが、別な意味で今でも記憶に残っているのです。
そして、最近では神保町の「神保町 傳」のすっぽんのスープがしみじみと美味しく、スープの器の上の蓋は、なんとすっぽんの甲羅の骨格見本なのです。見た目の驚きと味覚でこれも忘れないすっぽんです。
さて、このようにすっぽんは料理屋さんへ出かけていかないと味わえないのかというと、このすっぽんのエキスをレトルトにしたものがあるのです。京都の和久傳の「すっぽんの煮こごり」のご紹介です。
昨年の夏に和久傳の創業者(大女将)とある機会でお会いしたのですが、背筋がピンと伸びていて、若々しいのです。話を聞いていると、このすっぽんの煮こごりのスープは、和久傳ではもともと毎日忙し過ぎる大女将のために作っていたのが始まりだったそうです。
古来漢方では滋養強壮の妙薬として用いられて来たすっぽん。すっぽんを水と酒だけで長時間じっくりと煮て純粋なうまみを引き出し、しょうゆと生姜で風味をつけただけのシンプルなものです。味は淡白ですが、コラーゲンたっぷりなのです。温めてそのままスープにして飲んでも、すっぽんの茶碗蒸しにしても、身体が弱って来る時には、本当にぴったりの滋養食になります。ちょっとこのところ、夏バテ気味でしたが、すっぽんの煮こごりで復活しました。今度はこのすっぽんの煮こごりで雑炊仕立てにしようと考えていますが、秋になってからですね。少し松茸も入れたりして‥‥‥。
※掲載情報は 2016/08/23 時点のものとなります。
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キュレーター情報
アートディレクター・食文化研究家
後藤晴彦(お手伝いハルコ)
後藤晴彦は、ある時に料理に目覚め、料理の修業をはじめたのである。妻のことを“オクサマ”とお呼びし、自身はお手伝いハルコと自称して、毎日料理作りに励んでいる。
本業は出版関連の雑誌・ムック・書籍の企画編集デザイン制作のアート・ディレクションから、企業のコンサルタントとして、商品開発からマーケティング、販促までプロデュースを手がける。お手伝いハルコのキャラクタ-で『料理王国』『日経おとなのOFF』で連載をし、『包丁の使い方とカッティング』、『街場の料理の鉄人』、『一流料理人に学ぶ懐かしごはん』などを著す。電子書籍『お手伝いハルコの料理修行』がBookLiveから配信。
調理器具から食品開発のアドバイザーや岩手県の産業創造アドバイザーに就任し、岩手県の食を中心とした復興支援のお手伝いもしている。