革新の願いを込めた九つ重ねた葡萄を使ったワインで、偉大な横綱・親方に乾杯。

革新の願いを込めた九つ重ねた葡萄を使ったワインで、偉大な横綱・親方に乾杯。

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オレゴン生まれのスパークリングワインで献杯

スパークリングワインは祝祭のワインだと思う。しかし、だからこそ、追悼の場面にも似合う。「シャンパーニュは勝利のときに飲む。そして敗戦を癒すためにも飲む」(大意)と言ったのはナポレオン。シャンパーニュに限らずスパークリングワインは、晴れの日はもちろん、涙の夜も、癒し、明日の力をくれる。

 

角界だけではなく社会現象となった偉大な横綱が亡くなった。猛禽類と猫科のしなやかさと獰猛さと鋼の意志。体型もスタイルも、それまでの土俵のイメージを変えた革新。そして引退後は親方として相撲道を極めた。幸いにも生前、取材をすることできた。あるお酒の取材だったが、「この手の」取材を単独で受けることは稀だと聞いた。いたずらっぽくインタビュアーの僕をからかう少年のような天真爛漫と、鋭い批評眼と言葉の重い力をもった人だった。現役時代の栄光とケガとの戦い、親方としての育てる喜びともどかしさ。そんな相反する要素も魅力的だった。

 

本来の意味は別にあるのだろうけれど、親方となってつけた名前。何を重ねているのかといえば、勝手に思い浮かべたのは、獰猛、我慢、童心、渇望、求道、歓喜、脚光、覚悟、不動。相反する要素が重なって、それが進化と熱狂を生み出したのだろう。あの取材の時間は、僕にとっても宝物だ。

革新の願いを込めた九つ重ねた葡萄を使ったワインで、偉大な横綱・親方に乾杯。

亡くなったと聞いたときに思い出したのが、そのときの取材の後にチョイスしたこのスパークリングワインだった。そのときは駄洒落気味の軽い気持ちだった。『ソコール・ブロッサー エヴォリューション スパークリング』。理由は単純。9つのぶどう品種を重ねたワインだから。ピノ・グリ、リースリング、マスカット、ゲヴュルツトラミネール、ミュラー・トゥルガウ、シルヴァネール、ピノ・ブラン、セミヨン、シャルドネ。お互いの個性を補完しあいながら、しかし別のキャラクターも生かしながら。重ねながらも重厚さや複雑さよりもむしろ透き通ってフレッシュな世界。重ねたからこそ到達できるピュアと心地良いほろ苦さ。カジュアルでポップなエチケットの裏で感じる凄み。茨の道も通ってしまえば素敵な思い出。まだまだ明るくいこうじゃないか。あのときの親方のいたずら坊主な笑顔もまた、茨の道を知っていたからこそなのか。そう思って飲むと、苦味が旨みに変化したような気がした。

 

献杯の場でもスパークリング。あなたにとっての大切な人を見送るとき。それはその大切な人にとっても自分にとっても、新たな旅立ちのとき。そこにお気に入りだったり、縁を感じるスパークリングワインがあって、いい。明るい笑顔。それはお互いのためのエールになることだろう。

※掲載情報は 2016/08/22 時点のものとなります。

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キュレーター情報

岩瀬大二

ワインナビゲーター

岩瀬大二

MC/ライター/コンサルタントなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカーなどの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」。ワインに限らず、日本酒、焼酎、ビールなども含めた「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。
フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。
日本ワイン専門WEBマガジン「vinetree MAGAZINE」企画・執筆
(https://magazine.vinetree.jp/)ワイン専門誌「WINE WHAT!?」特集企画・ワインセレクト・執筆。
飲食店向けワインセレクト、コンサルティング、個人向けワイン・セレクトサービス。
ワイン学校『アカデミー・デュ・ヴァン』講師。
プライベートサロン『Verde(ヴェルデ)』でのユニークなワイン会運営。
anan×本格焼酎・泡盛NIGHT/シュワリスタ・ラウンジ読者交流パーティなど各種ワインイベント/ /豊洲パエリア/フィエスタ・デ・エスパーニャなどお酒と笑顔をつなげるイベントの企画・MC実績多数。

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