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伝統工芸「陶芸の技法」で制作する進化をとげた造形物「器」を生み出す
蛍イカが美味しい3月の富山。素材を活かした料理演出に欠かせない「土」の器を求めて、岩瀬の街並みの一角にある陶芸作家・釋永岳氏のギャラリーを訪ねました。
今回は、ご縁をいただいて内藤廣氏設計のエクスクルーシブホテル「リバーリトリート雅樂倶」に滞在。ずっと訪れたかった併設レストラン「レヴォ」でも釋永氏の器が使用されていました。
北陸新幹線富山駅からリバーリトリート雅樂倶まで車で約30分。ゆるやかな神通川のまわりには、日本海からの優しい風に青々とした稲の苗がなびく田園風景が続きます。企業誘致が盛んな町にもかかわらず景観を壊す商業看板が少なく、整然とした街並みは北ヨーロッパの街並みに通ずるものを感じ、富山市民の堅実な気質が伝わってきます。
「レヴォ」では、谷口シェフによる富山の地元食材にこだわった数々の料理が、一品一品、異なる素材と形をした器に絶妙なバランスでアレンジされ、食べる前からアート作品のように想像力をかきたてられます。これらの器は釋永氏の手になるもの。翌日に控えたギャラリー見学がより楽しみになってきました。
全国を飛び回っている釋永氏、ご縁をいただいて、今回はタイミング良く本人在郷中のときにアポイントをとることができ、ギャラリー兼自宅アトリエを案内いただきました。明るい街並みから一歩、蔵のように暗いギャラリーに足を踏み入れ目が順応すると、大きな長テーブルの上に、数々の作品が整然と並んでいることに気がつきました。開け放した玄関ガラリから、時折、入り込む日本海からの涼しい風を感じながら、釋永氏の造形へのこだわりについて、お話しを伺いました。
「極薄の盃」、一見ガラス素材に見えるが、素材は何と「土」。
極限まで薄さを追い込むことで、ガラスのように透ける「盃」が完成するそうです。製作過程は他の器と同じように、一つ一つ手で成形して釜で焼くため、なんと半分近くは割れてしまう。驚く程の薄さは、まさに芸術作品。素材が土からできていることを忘れてしまうほど。家の中に1つ置くだけでも、その場の空間が凛と張り詰めるような、アート作品としての力を持っています。
地元猟師によって捕獲された熊料理の舞台として、レヴォで使われていた器“age”アージュは、富山の自然の恵み、力強さと優しさが溢れる一皿。
こちらを大変気に入り、私のサロンで使いたい大きさの規格外の個別注文に、有り難いことことに柔軟にご対応いただくことができました。
“age”アージュは、陶器で無い様な質感が特徴的。大地の「茶」色は、食材にマッチし、自然素材を表現するのにはまさに絶好のアイテム。荒々しさを表現するために、一枚一枚、削り出して作っているそうです。そして一つとして同じ厚さ、風合いは無い所も魅力の一つだと思いました。
釋永岳氏は富山県の越中瀬戸焼を継承する家に生まれ育ち、東京藝術大学と京都府立陶工専門校成形科で彫刻を学ばれ、在学中に日本の伝統工芸や陶芸の技法、素材の豊かさに魅せられ、「土」を素材に表現して行くことを決意。
実家で見習いをされる中、ご自身の表現を探すために越中瀬戸焼を離れ、古い町並みを残す岩瀬町にて独立。今までに無い陶芸表現を日々模索されています。
レヴォで使われている器をはじめ、ギャラリーにある釋永氏の作品は、いずれもシンプルな造形の内側に、「土」がもたらす豊かなテクスチャーを秘めており、手にした時の温度感からも独特なたたずまいを感じることが出来ます。
ギャラリーで感じた日本海からの風のような力強さと繊細さを併せ持つ、富山出身の陶芸作家ならではの自然観が表現されています。
※掲載情報は 2016/07/15 時点のものとなります。
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キュレーター情報
料理家・食アートコーディネーター
中村まりこ
SHOKUart代表
料理家
東京出身。
ELLE grumet フードクリエイター部、料理教室 鎌倉legame cooking 主宰、フードスタイリング、レシピ開発、イベント講師、食に関する記事の執筆、を中心に活動。
食に造詣の深い父とウクライナ人の母から2つの食文化を習得。世界23ヵ国で生活した高校3年間を原点に、料理の道へ。
和食材も自由に取り入れた料理ジャンルからでなく素材からボーダレスな料理を経験上を軸に独創的な組み合わせで「empirical&unleash」を表現する「SHOKUart」設立。
外国の方にむけて「私達の日常の和食を伝えたい。」思いから、日本家庭料理の料理教室 "Authentic Japanese Cooking Class" も主宰。
外国人向けのWedマガジンサイトへのレシピ提供も手掛ける。