晩秋の「ジャケ買い」シリーズ1 謎の少年

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ワインの世界に現れた怪しいけれど痛快な「正義の味方」。

晩秋の「ジャケ買い」シリーズ1 謎の少年

「ジャケ買いというワインの幸せ」、「ジャケ買いっていいんですよ」については、以前の私の記事:「春の「ジャケ買い」シリーズ1 春の息吹を、飲む(リンク先http://r.gnavi.co.jp/ippin/article-2074/)」、を一読いただくとして、パーティーやイベント、手土産など、ワインを飲む機会も増える晩秋もまた、ジャケ買いで気軽にいきましょう!というご提案を。

 

さて、今回の“名盤”ジャケットは、オーストラリアワインの生産量の大半を担い、古くからのブドウの木も現存するという、実に魅力的なエリアである南オーストラリア、その中でも名産地に数えられるバロッサヴァレーから。2005年に設立された名前の通りの小規模ワインメイカー「スモールフライ ワインズ」からエントリー。『スモールフライ 15 バロッサ ジョヴェン』。スペックで言えばミディアムボディの赤ワイン。問答無用というか……ヴィヴィッドな赤ラベルのベースに、西部劇風の文字、不適に笑う正義の少年。いや、本当に正義の味方なのか、はたまた清濁あわせもついたずら小僧なのか?プロレスで言うところのベビー(善玉、正義のヒーロー)なのかヒール(悪玉、反則レスラー)なのか判然としないところがまた憎たらしい。この不敵な笑いの理由かどうかはわからないのだけど、実はこのワイン、ジャケ買いにふさわしいわかりやすいヴィジュアルながら、中身はといえば、並みいるワイン評論家やトップソムリエをも困惑させるもの。シンプルに「うまい!」ってワインで、気持ちよく飲むなら全く気にせず楽しく飲めるのに、プロの方々はその裏にあるなんともいえない複雑さに困惑し、構成されるブドウ品種やワイルドとデリケートをミックスしたような作り方に「???」とか「!!!」の連続。

 

ブドウ品種でいえば、支配的なのがスペインの国民的ブドウ品種テンプラニーリョ、地中海沿岸でメジャーなグルナッシュ、これに加えて同じくスペインではおなじみのモナストレスに、バスタルド?そのブドウって欧州とかでまれに、やや甘ワインにつかわれるバスタードと一緒?で4%使ってる?それがどんな効果をもたらしてるの?とこのあたりから?が頭の中でふくらみ、最後、これまた超レアなティンタ・アメリア2%ってところで、もう、このワインメイカー、なにがやりたいんだー!と投げ出したくなる気分。

 

 

で、でも、うまいよね……。ワインジャーナリストの方々やトップソムリエの方々は探究心、つまりはこの覆面の少年の正体を暴きたくて、暴きたくて、どうしようもなくなるわけだけど、それは専門家の方にまかせて、その謎解きの様子も楽しみながら、謎の少年の大活劇に興奮しちゃえばいい。つまり同じワイン1本で、さまざまな人がさまざまな視点で興奮できる。それもまたワインの素晴らしい世界。

晩秋の「ジャケ買い」シリーズ1 謎の少年

興奮ついでに同じワインメイカーからもう1本。これもまた印象的なエチケット。特に左側の、『タンジェリン・ドリーム』と名づけられた白ワイン。白といっても最近、世界的に話題になりつつあるオレンジワインのカテゴリー。白ワインを赤ワインのように皮などごと醸造するとオレンジ色になるのですが、これをタンジェリン(みかん色)にひっかけてのネーミングのようです。キリンが夢見るイメージは、もっと首が長くなればあの甘い果実が食べられるのに……というような哲学的でもあり、痛々しくもかわいらしい思いからなのか……。タンジェリン・ドリームならぬ、ケイティ・ペリーのヒットチューン、スペルがちょっと似ている「ティーンエイジ・ドリーム」が脳内再生(そういえば、30年以上前に一世を風靡したドイツのシンセサイザーロックバンド。タンジェリン・ドリームっていたなあーとかいう回顧)。楽しくて、ちょっと切ない。ワインとこの曲の共通のイメージが浮かびます。このワインのブドウ構成も、専門家が?を連発し、興奮し、探求し、私たちのパーティーのテーブルや一人の休日では単純に幸せをもたらしてくるもの。リースリング、セミヨン、ペドロ・ヒメネス、ルーサンヌ、マスカットで12.7%という白ワインとしては豊かなアルコール。

 

これだけ見てても、明るいリゾートなのか、エレガントなのか、艶っぽいのか、どこの国のワインなのかもまるで迷路。正義の仮面の正体暴きに続いては、聞きやすいポップチューンの裏にある超絶な技巧や革新的なコードやリフ、編曲などの音楽テクニックの探求。おしえてくれるのはこの夢見るキリンのエチケット。飲んでみれば、切なくて楽しくてのタンジェリン&ティーンエイジ・ドリーム。ただアバンギャルドなブドウの使い方ではなく、2005年設立ながらそれまでブドウ栽培は5代続くという、木と土のプロフェッショナル。いわば確信犯的な挑戦を、ポップなジャケットに包んで。謎解きに参加するのも、活劇とポップスを楽しみつくすのも、あなたの自由です。

※掲載情報は 2015/11/04 時点のものとなります。

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キュレーター情報

岩瀬大二

ワインナビゲーター

岩瀬大二

MC/ライター/コンサルタントなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカーなどの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」。ワインに限らず、日本酒、焼酎、ビールなども含めた「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。
フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。
日本ワイン専門WEBマガジン「vinetree MAGAZINE」企画・執筆
(https://magazine.vinetree.jp/)ワイン専門誌「WINE WHAT!?」特集企画・ワインセレクト・執筆。
飲食店向けワインセレクト、コンサルティング、個人向けワイン・セレクトサービス。
ワイン学校『アカデミー・デュ・ヴァン』講師。
プライベートサロン『Verde(ヴェルデ)』でのユニークなワイン会運営。
anan×本格焼酎・泡盛NIGHT/シュワリスタ・ラウンジ読者交流パーティなど各種ワインイベント/ /豊洲パエリア/フィエスタ・デ・エスパーニャなどお酒と笑顔をつなげるイベントの企画・MC実績多数。

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