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フィンランドでもっとも愛されるデザイナーが生んだグラス
ビールでもワインでもソフトドリンクでも、何を注いでもさまになるグラス、ウルティマ ツーレ。北欧デザインガラスで知られるイッタラのロングセラー商品であり、デザインはタピオ・ヴィルカラ。フィンランドでもっとも愛されるデザイナーの一人です。
タピオ・ヴィルカラはイッタラで数々の名作を生み出し、陶器、家具、工業デザイン、さらにはフィンランド紙幣(ユーロになる前のマルッカ紙幣)まで手がけた多才な人物。1951年のミラノ・トリエンナーレでは3部門で入賞する快挙を成しとげています。
ウルティマ ツーレとは人が暮らせる最北の地、世界の果てという意味をもつ言葉。タピオ・ヴィルカラは国を代表するデザイナーとして活躍する一方で、フィンランド北部のラップランドに家をもち、できる限りそこで制作に励んだと伝えられています。ウルティマ ツーレも、ラップランドで氷が溶ける様子から着想を得たもの。ラップランドの土地とフィンランドの自然を何よりも愛したタピオ・ヴィルカラというデザイナーの才能と個性をとくによく表している作品といえるでしょう。
1968年の発表当時は「売れないだろう」とも言われたウルティマ ツーレ。その予想を見事に裏切ってイッタラを代表する製品となり、50年近く経ったいまも生産されています。グラスの他にお皿やボウル、ピッチャーなどがあり、フィンランドのレストランや家庭で見かけることも多いシリーズ。ちなみにわが家のウルティマ ツーレは『オールドファッション』とよばれるタンブラーで、ビンテージで手に入れた物。現行品とは若干サイズが異なるようです。ちなみにタピオ・ヴィルカラの製品はビンテージ市場でも人気が高く、廃番になったシリーズは価格もぐんと上がっています。巨匠のデザインながら比較的手頃な価格で買えるウルティマ ツーレはフィンランドガラスを試してみたい、という方にもおすすめです。
そして今年はヴィルカラの生誕100周年!イッタラショップにはウルティマ ツーレの復刻モデルや、ヴィルカラの代表的なデザインのショットグラスをセットにした『Wirkkala decades』などが登場。ボトルやベースなどの100周年記念商品は1年間のみの限定販売となっています。
本国フィンランドでは100周年にあわせて、もうすぐヴィルカラの大回顧展が開催されます。展覧会ディレクターはイッタラの現アートディレクターでもあるハッリ・コスキネン氏で、フィンランドデザインの継承者であるコスキネン氏がヴィルカラの世界をどのように見せるのかという点にも注目が集まっています。9月12日にオープンしたばかりのイッタラ丸の内店で、レセプション時にコスキネン氏にお会いしたので「ヴィルカラ展、日本には来ないのですか?」と聞いてみたところ「可能性はあると思うよ!」とのこと。ぜひ日本でも観たいものです!
※掲載情報は 2015/09/18 時点のものとなります。
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キュレーター情報
コピーライター・北欧BOOK代表
森百合子
コピーライター。北欧BOOK代表。著書に『北欧のおいしい話』『コーヒーとパン好きのための北欧ガイド』『3日でまわる北欧』シリーズ(スペースシャワーネットワーク)、『北欧レトロをめぐる21のストーリー』(主婦の友社)など。フィンランドやスウェーデン大使館との仕事を通じて北欧の暮らしや文化への知識を広げ、執筆の他、監修、トークショーなど幅広く活動。定期的に北欧諸国を訪れて取材を重ね、食やコーヒー文化、ビンテージの生活道具などユニークな切り口で北欧の魅力を紹介している。東京・田園調布で北欧ビンテージ雑貨の店『Sticka スティッカ』も運営。http://hokuobook.com