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余計なものはなし、原材料の美学
夏みかんの季節が来ると仕込みが始まる。その年の夏みかんの収穫次第で、売り切れ必至の季節の香りの夏甘味。戦後間もなく甘いお菓子が足りなかった頃に、庭にあった夏みかんと寒天と砂糖で寒天寄せを作ってお客様に出したのが、老松の夏柑糖の始まりなのだとか。
以来、夏みかんと寒天にこだわり続けてきた。
昨今は、柑橘の種類も豊富。果物のもつ自然の酸味や苦味が苦手な人も多く、夏みかんを改良した甘夏や、自由化により海外からオレンジやグレープフルーツなども大量に輸入されている。皮がむきやすい柑橘や、皮をむかなくてよいものもあり。甘夏などの品種に変わる夏みかん農家が多い中、老松は、夏みかんにこだわり続ける。
さらに寒天にもこだわる。夏柑糖の原材料は超シンプル。夏みかん、寒天、砂糖のみ。だからこそのきめ細かい舌触りとキリリと引き締まるさわやかな酸味が実現するのだ。ゼリーではないのだ。そのため、さっぱりしながらも一個まるごと食べるのは品がない。やはり和のスプーンで、4等分くらいが黄金バランスではないかな、と思っている。冷茶を合わせても夏の涼をとるのにしっくりくる。
思い出も彷彿とさせる果物の魅力
以前、私の祖父母が庭で全くの趣味だが多くの果物を作っていた。夏みかんの木も沢山あった。やはり祖母の作る甘味もゼリーではなく寒天だった。完全無農薬のため、外皮も三温糖や純粋はちみつをつけて乾燥させた干し甘味にしたりもしたし、ジャムも作った。懐かしい祖母との思い出が、老舗の京都の商品は思い出させてくれる。
段々貴重になりつつある夏みかん。菓子という字は、草冠をとった果物に由来している。そのことをまさに思い出させてくれる水菓子である。
箱のグリーンも品がいい。包装の和紙も厚みがあって上質だ。こんなところにも老舗の誇りが見える。
※掲載情報は 2015/06/11 時点のものとなります。
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キュレーター情報
(株)トータルフード代表/トータルフードプロデューサー
小倉朋子
(株)トータルフード代表取締役/亜細亜大学講師/「食輝塾」主宰/日本箸文化協会代表/農水省関東農政局食育推進ネットワーク幹事/ジャパンビアソムリエ協会マナー顧問/(社)エチケット・マナー協会理事
来世も再来世も食の仕事を!生粋の食マニア。トレンド、食文化、お取り寄せ、マナー、ダイエット、食育、伝統食…専門は広く、多角的に食の提案しています。どんなメニューも可能、店舗、食品関連のメニュー開発から一連のフードプロデュース多数。世界の食事マナーと食を総合的に学び生き方を整える「食輝塾」主宰。20年近く一度も同じ内容せず毎月開催を更新中!
●メディア
NHKラジオ番組3年以上レギュラー講師、日テレ「世界一受けたい授業」、テレビ朝日「芸能人格付けチェック」、はなまるマーケットなど出演、新聞、雑誌連載
●著書
『私が最近弱っているのは毎日「なんとなく」食べているからかもしれない』(文響社)、『世界一美しい食べ方のマナー』(高橋書店)、『愛される「ひとり店」の作り方』(草思社)、『「いただきます」を忘れた日本人』(アスキー新書)、『グルメ以前の食車マナーの常識』(講談社)ほか、ベストセラー多数