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まず樹を選び、半年をかけてビールを造る
「クリスマスエールを造ることは、私たちにとってとても重要な伝統なのです」。今回、アメリカ・サンフランシスコを訪れ、アンカーブルーイングの醸造長スコット・アンガーマンさんに話を伺った。「1975年からスタートしたクリスマスエールは今年で45年目となります。毎年ボトルラベルのデザインを変更し、ビールのレシピも毎回違います。レシピは、常に新しいもの、そして遊び心あるものに挑戦していますが、そのレシピはトップシークレットで誰も知りません。おっと、私たち以外はね」とスコットさん。
このビールを造るプロジェクトは毎年3月からスタート。まず、ラベルのモデルとなる樹を選定する。その樹のプロフィールが醸造担当者にも伝えられ、そこからどんなビールを造るのかの検討が始まる。試験醸造を重ね、秋にビールが完成。10月以降にアメリカ国内はもちろん世界各国へ発送となり、クリスマスカラーに染まり始めた11月から世界中の街へと送り届けられる。
45年目のテーマはCoastal Spicy
ラベルのイラストはアンカーブルーイングのすべてのラベルをデザインするジム・スティットさんによる手描きのイラストだ。今年の樹は、アンカーブルーイングがある北カリフォルニア産の西洋クロベという常緑針葉樹が選ばれた。この樹は日本でも同じ属の黒檜が秋田から四国までに自生していて、最近は観葉植物としてもこの時期によく見かけるコニファーもこの属に含まれる。「樹を理解してからレシピは考えます。例えば2018年は韓国の松を選んでいますが、味わいも松ヤニのような自然な樹木を感じるような味わいに仕上げ、ラベルのイメージに寄り添うレシピとなっています。でも、必ずしも毎年ラベルイメージと連動しているというわけではなく、毎年楽しみにしてくださるファンの方々にちょっとした驚きを感じてもらえるような工夫も凝らしています」とスコットさん。ちなみに、これまでには、椰子の木や白樺などがラベルに描かれた年もある。
写真は、ブルワリー併設のタップルームに展示されている、歴代のクリスマスエールのボトル。並んでいるのは1990〜1995年のボトルで、左から2番目の1991年には白樺が選ばれ、描かれている。
「今年のクリスマスエールは、昨年よりもさらに深みのあるブラウンエールです。例えれば物語のページをめくるように、味わいのレイヤーを次々に楽しんでいただけるようにレシピを設計しました」とスコットさん。口に含むと、カラメルやコーヒーの心地よい苦味、その後にチョコレートのようなふわりとした甘さ。さらに、常緑樹らしい松ヤニや花の香りも見え隠れする。ふくよかに広がる味わいと香りのストーリーに驚くうち、いつの間にか、すっと海を渡る風のように消えていく。「豊かな味わいの後、すっきりとしたフィニッシュを迎えます。イメージはアンカーブルーイングのあるサンフランシスコらしい“Coastal Spicy”です。クリスマスや新年の家族や仲間との集まりでは大瓶でシェアしたり、小瓶はプレゼントにも最適です」
今年選ばれたこの樹は“生命の樹”とも呼ばれ、現代医学が進歩する以前には治癒の力があると信じられてきた。今年も笑顔でクリスマスを迎えることに感謝し、そして、訪れる新しい年に地球上のすべてが健やかに成熟していくことを祈って、このビールで乾杯したい。
※掲載情報は 2019/12/16 時点のものとなります。
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キュレーター情報
ビアジャーナリスト/パンコーディネーター
宮原佐研子
日本パンコーディネーター協会認定パンコーディネーター、日本ビアジャーナリスト協会所属ビアジャーナリストとして日本ビアジャーナリスト協会HP、雑誌『ビール王国』(ワイン王国)、世界22カ国158本のビールを紹介するe-MOOK『ビールがわかる本』(宝島社)、ビアエンタテインメントムック誌『ビアびより』(KADOKAWA)他執筆。『ビール王国』では、「コンビニ限定うんまいビア ペア」で、コンビニエンスストアで買えるビールとパンのペアリングを連載。日本パンコーディネーター協会主催の講座「ワインよりおすすめ?パンとビールのおいしい関係」でパンとビールのペアリング体験講座も実施。