ワインツーリズム。それはワインとの関係が幸せに深まる機会

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「ヴューマネント」が教えてくれるチリワインとチリの魅力

いつもは「モノ」について書いている当コラムですが、今回は「コト」について書きます。現地で体験すると「モノ」に対するイメージが、変わり、深まり、広がる、というお話。今回皆さんに紹介したいのはチリのワインツーリズム。

 

2017年の初訪問以来、チリワインをテーマに少なくない記事を書き(ippinでも書いていますのでご一読いただけましたら!)、愛好家向けのワイン会を行い、ワイン学校では講座を行ってきました。それらの表のテーマは「チリワインの新発見と再発見」というもので、大きな成功を収めただけに、かえってチリワインに貼られてしまったレッテルを一旦剥がし、実際の今の姿を感じていただこうというものでした。それにしてもこの時のチリでの3週間は素晴らしいもので、朝のひんやりした空気、太平洋の眺め、緑生い茂るガーデン、モダンで可愛らしいワイナリーのホテル…すべてが新鮮で心地の良い驚きでした。

さて、「表のテーマ」と書きました。表があれば、「裏のテーマ」もあります。それは、チリワイン、ということだけではなく、チリそのものに興味を持っていただき、少しでも好きになっていただきたい、という思いです。

というのも、フランスのワインが好きな方、イタリアのワインが好きな方、カリフォルニアのワインが好きな方って、きっと、フランスが好きだし、イタリアに興味があるし、カリフォルニアに思い出があったりすると思うんです。元々よく知られている国やエリアですとそこからワインに親しんだり、愛せたり、深まったりできる。僕はスペイン系のイベントでMCをすることが多いのですが、そこではスペイン好きとスペインワインの幸せな関係を見てきました。サッカー、ファッション、建築、芸術、舞踊、音楽、遺跡、食文化。サンセバスチャンやアンダルシアに憧れる。そこにはワインやチャコリやシェリーがある。この自然な関係性。そう、その国に憧れ、知ること。これがその国のワインを知りたいと思う第一歩。僕がニューヨーク州のワインに興味を持ったのも、そもそもニューヨークという場所、スポーツ、音楽が好きだからすっと入っていけたから。英国ワインにはUKロックがあって、ニュージーランドワインにはラグビーがあった。そのワインの全体像や背景を知るためには、また、伝えるためには、その国の文化を知り、興味を持ち続けられることが大切なのではと思うのです。

 

そこで、チリ。チリワインの話をする方の中で、チリそのものに憧れたり、思い出があったり、興味を持っている方ってどれくらいいるんだろう。自分の経験からしてもほとんどチリ自体の話に発展したことはありません。でも、それを知らずしてチリのワインを本当に楽しめるのか? ワインの世界でいえば、チリはなぜオーガニックが可能なのか? なぜクール・クライメイトが成り立つのか? なぜ多彩なブドウ品種ができるのか? なぜコストパフォーマンスの良いワインが生まれ、またそれだけではない多様なワインが生み出せるのか…その裏側には、ワインだけではなく、チリの素晴らしい環境、文化、歴史、食がある。チリそのものを知って、好きになることがチリワインを楽しむための助けになるはずなのです。これは僕の体験でもあります。

 

といっても僕自身、長く滞在したとはいえ1度しか訪問したことがなく、そこから興味を広げている途上。以前の僕のチリのイメージはサッカー強国(今年6月、南米選手権に出場した日本がチリに一蹴されましたね。強かった!)ぐらいしかなく、まだ偉そうなことも言えない。でも、訪問をして、素晴らしい人、食、ランドスケープ、風、太陽に出会ってチリワインが一層好きになった。もっと伝えたい。そんな折、とても素敵な方と東京でお会いするチャンスがありました。チリ・エノツーリズム協会会長のホセ・ミゲルさん。エノツーリズム協会は、様々な公的機関や観光協会、学術機関、生産者が手を組んで4年前に立ち上がった組織。チリのワインツーリズムのポテンシャルを顕在化し、引き上げるための取り組みを、それぞれの強みを持って推進していこうとされています。チリは確かに日本からは遠い。1日がかりの行程。エアも安いわけではありません。それでもこの地に行く価値は高い。なにせ、ここには素晴らしいワインとワイナリーがあります。

ワインツーリズム。それはワインとの関係が幸せに深まる機会

↑ホセ・ミゲルさん(左)とニコラスさん(右)

そしてホセ・ミゲルさんは自ら当主としてワイナリー「ヴューマネント(Viu Manent)」を率いています。今回は同ワイナリーのアジア担当輸出部長のニコラスさんと共に来日。「ヴューマネント」は1935年に創立、三代続く、チリの中では歴史のあるワイナリーのひとつ。名産地コルチャグアヴァレーを本拠地に、3つのエステート(ワイン畑と醸造所)を擁します。世界約50か国に輸出と、規模と生産規模は大きいのですが、100%家族経営という、「手触り」のあるワイナリーでもあります。また、チリワインへの期待を広げてくれる取り組みも。今回僕がテイスティングしたシングルヴィンヤーズ(単一畑)シリーズのシラーとマルベックは、チリといえばカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローにカルメネールという概念を、「それだけじゃないんだよ」と軽やかに教えてくれるような傑作。もちろんこれはマーケティング的な奇策でもなんでもなく、ホセ・ミゲルさん曰く「この2品種こそヴューマネント」と胸を張る昔から育んできたスペシャリティでもあります。この2アイテムは、日本でも販売され(現在は違うラベルですが順次この写真のものに差し替えられます)。

そう、チリワインは全般的に日本の食卓にあうワインが多いのですが、それはチリの美食が日本人好みのものが多いというのも関係していると感じます。ホセ・ミゲルさんも「新鮮な海の幸があること。ウニも安くて大きくて美味しい!日本のみなさんもチリで食については存分に楽しんでいただけると思いますよ」と笑顔。その新鮮な魚介類を生かした「セビーチェ」(簡単に言えば魚介のマリネ)は、僕のチリでの大好物。街場のレストランでも、またワイナリーに併設されたレストランでも、それぞれ酸味や甘み、具材の大きさ、ハーブの種類などが違い、とにかく飽きない。3週間の滞在中、日に2回ということもありましたが、それでも飽きず、滞在中の癒しでもあり、パワーフードでもあり。これに良く冷えたチリの白ワインは抜群の相性。特にワイナリー併設のレストランでは、酸味や甘みや…その他要素にあわせてワインを提案してくれるので(というより、そのワインにあったテイストのセビーチェがつくられる)シンプルな料理のようで、かなり多彩で複雑で、深い。魚、お酢、薬味の文化がある日本人だからこそ楽しめるものがあるでしょう。そのほか、脂が少なく赤ワインとの相性の良さで、これも飽きない牛肉。さらに旨みが強い新鮮な野菜など、長期滞在で、同じようなメニューが続いても、ワインとの組み合わせ含めて、まだまだ試したいと思わせてくれるのです。

 

もちろん「ヴューマネント」も「ガストロノミーにはこだわっていますよ」とホセ・ミゲルさん。ワイナリーにはレストランが併設され、ワインと食の幸せな関係を、ワイン畑も空気を感じながら楽しめます。やはりワインツーリズムのハイライトは、ワインと美食。また、ガイドツアーを一般向けにも開催。ベーシックなプランは、1時間30分ほどで、醸造施設、畑を巡り、アクティビティ、テイスティングを楽しむというもの。その後にはもちろんワインと食のペアリングを存分に楽しみたい。また収穫時期限定で収穫体験、さらにディープな愛好家やプロ志望の方には、もっと深く、醸造家としての仕事が学べるアクティビティもあります。「この記事を読んできていただいた方には…なにか特別な体験を用意しましょうか」と笑顔のホセ・ミゲルさん。風と太陽を感じ、醸造の苦労を知り、働く人と会い、そこで飲むワイン、一緒に楽しむ食。これを一度体験すれば、日本での、日常でのワインとのかかわり方はもっと楽しいものになるでしょう。頭ではなく、まずは感じること。ワインツーリズムはその素敵な刺激にあふれています。そこに少しだけ(飲んで、楽しんで得た)ワインの知識があればいい。実は、僕が、ippinで書かせていただいている「モノ」のコラムの裏側にはいつもこの気持ちがあります。その「モノ」を手にする前でも後でも、それが生まれた背景、環境、場所、人に思いを馳せると、もっと素敵なものに感じられるはずなのです。

ワインツーリズム。それはワインとの関係が幸せに深まる機会

↑「ヴューマネント」のアクティビティから

 

そのワインが生まれた国や地域に思いを馳せる。そうすると今までわからなかったことが見えてきたリ、愛おしくなったりすることがある。ワインって豊かな酒だなって思います。またチリに行かなければ…ヴューマネントがまた意欲を駆り立ててくれました。

※掲載情報は 2019/07/14 時点のものとなります。

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キュレーター情報

岩瀬大二

ワインナビゲーター

岩瀬大二

MC/ライター/コンサルタントなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカーなどの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」。ワインに限らず、日本酒、焼酎、ビールなども含めた「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。
フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。
日本ワイン専門WEBマガジン「vinetree MAGAZINE」企画・執筆
(https://magazine.vinetree.jp/)ワイン専門誌「WINE WHAT!?」特集企画・ワインセレクト・執筆。
飲食店向けワインセレクト、コンサルティング、個人向けワイン・セレクトサービス。
ワイン学校『アカデミー・デュ・ヴァン』講師。
プライベートサロン『Verde(ヴェルデ)』でのユニークなワイン会運営。
anan×本格焼酎・泡盛NIGHT/シュワリスタ・ラウンジ読者交流パーティなど各種ワインイベント/ /豊洲パエリア/フィエスタ・デ・エスパーニャなどお酒と笑顔をつなげるイベントの企画・MC実績多数。

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