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北海道空知郡上富良野で誕生したソラチエース
ビール原料となるホップは、その多くは海外で開発されたものが普及しています。ですが、もちろん日本でも品種開発されてきた歴史があります。
コードネームは75K-B6-5。1974年に北海道空知郡上富良野町にあるサッポロビール株式会社幌工場上富良野分場(現・北海道原料開発センター)に勤めていた荒井康則氏は、ソラチエースの元となる新品種のホップ開発計画をスタートしました。既存のホップを選び掛け合わせて生まれた新たなホップは当初から他のホップにはない独特の強い香りの特徴を持っていました。大事に研究を重ね、10年後の1984年9月5日、誕生の地の名をつけた「ソラチエース」としていよいよ品種登録となります。
日本の中でもホップの育種に早くから力を注いでいるサッポロビール株式会社は、北海道・上富良野の研究所で研究開発を主に行っていますが、研究所として初の登録品種となった、記念すべきホップの誕生でした。
紆余曲折を経て日本に凱旋帰国したソラチエース
登録を経て、いよいよ商品化に向けて試験栽培や醸造を重ねますが、当時日本で主流となっていたビールとの風味の違いなどが妨げとなり、残念ながら普及までには至れませんでした。登録から10年後、サッポロビールのホップ研究員であった糸賀裕氏がアメリカ・オレゴン州立大学にこの品種を持ち込んだことからこのホップの運命が変わります。それがきっかけでホップの世界的な生産地であるワシントン州ヤキマ地方でホップ農場を営むダレンガメッシュ氏がソラチエースと出会い、その魅力を高く評価した彼は、各地のブルワリーに紹介していきます。
「ソラチエースを使うと完成度が上がる」「他とは違うビールが造れる」と評判になり、アメリカ国内はもちろん、ヨーロッパなどでもあっという間に大人気を博し、名だたるブルワリーでこのホップを使う個性的なビールが誕生し、世界中で話題をさらいました。
日本では残念ながら日の目を見ることがなかったこのホップですが、サッポロビールのInnovative Brewerブランドのブリューイングデザイナーブルワーを務める新井健司氏が「絶対にこのホップでビールを造りたい」という熱い思いを抱き、限定販売などを経て、いよいよ2019年4月9日に新発売となるのが、この『SORACHI1984』です。
凛とした日本の個性にあふれるビール
グラスに注ぐと、白い泡に美しい黄金色。うっすらと蜜のような、レモングラスのような香りが鼻をくすぐります。そして一口飲むと、花のような柑橘のような香りが広がりつつも、華やかに舞い立つのではなく、ヒノキのように静かな落ち着きへと導かれます。ビアスタイルはゴールデンエール。ソラチエースはホップを数種ブレンドして使うと、他のホップのキャラクターを引き立ててくれるという特徴もあるそうです。ですが、このビールは贅沢に100%使うことで、他にはない成熟した大人のビールに仕上がっています。
「ソラチエースを使ったビールの中で世界一だと思っています」と新井氏は自信を持って話してくれました。
繊細でありつつも、ぐっと肝が据わったようなこのビール。笑顔の乾杯ももちろんいいけれど、私なら例えば先の見えぬ状況にもがいているとき、そんな1日の終わりに一人で飲みたいと思っています。きっと、ソラチエースが私の気持ちをさりげなく引き立て、力をくれるような気がします。
※掲載情報は 2019/04/02 時点のものとなります。
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キュレーター情報
ビアジャーナリスト/パンコーディネーター
宮原佐研子
日本パンコーディネーター協会認定パンコーディネーター、日本ビアジャーナリスト協会所属ビアジャーナリストとして日本ビアジャーナリスト協会HP、雑誌『ビール王国』(ワイン王国)、世界22カ国158本のビールを紹介するe-MOOK『ビールがわかる本』(宝島社)、ビアエンタテインメントムック誌『ビアびより』(KADOKAWA)他執筆。『ビール王国』では、「コンビニ限定うんまいビア ペア」で、コンビニエンスストアで買えるビールとパンのペアリングを連載。日本パンコーディネーター協会主催の講座「ワインよりおすすめ?パンとビールのおいしい関係」でパンとビールのペアリング体験講座も実施。