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ハワイコナ産カカオ100%のクラフトチョコレート
年始からバレンタイン、ホワイトデーにかけてチョコレートの季節と言われているが、今年は商戦の後半になって新商品発売のニュースが飛び込んできた。ハワイ島コナ地区で栽培されたカカオを全て買取り、「ダブルトールカフェ」(東京・渋谷)が商品化。100%ハワイコナ産のカカオ豆である唯一のチョコレートとして売り出した。形状は板チョコレートで1枚45g。価格は税別2,000円と贅沢だ。
※ハワイ島コナ地区のカカオ農園で栽培されているカカオの様子。右がカカオの花。カカオの花は幹から直接伸びたように咲く。左がカカオポッド(実)。カカオには様々な品種があり、ポッドの色や形状も多彩。(ダブルトールカフェ提供)
チョコレート製造はクラフトチョコレートワークスが担当
ハワイ島で栽培したカカオを農園主らが収穫、発酵・乾燥させたカカオニブをダブルトールが輸入。コーヒー豆を焙煎する「ダブルトール焙煎室」のカカオ専用機で焙煎し、薄皮を飛ばす。焙煎したカカオニブはビーントゥーバーの人気店「クラフトチョコレートワークス」(東京・三宿)に運ばれ、磨砕(すりつぶしてカカオマスにする)、混合(カカオバターや砂糖と混ぜ合わせる)、微細化(ある粒度まで滑らかにする)、コンチング(練り上げる)の工程を経て商品化される。輸入した2018年産カカオは発酵した豆の状態でわずか1トン、最初のロットとして商品化したチョコレートは400枚強と数量は希少。2月に発売されて以来、順調に売れ始めているという。販売は全て原宿と渋谷にあるダブルトールカフェの店頭で行なっている(一部オンライン販売がある)。
※ダブルトールカフェ代表の齊藤正二郎さんとハワイ島のカカオ。カカオポットを割ると甘酸っぱい白い果実に包まれた種が並んでいる。種の胚乳がカカオニブ、チョコレートの原料となる。(ダブルトールカフェ提供)
エスプレッソ専門店がなぜチョコレート?
ダブルトールカフェといえば、日本で最初にエスプレッソを紹介したコーヒー専門店であり、代表の齊藤正二郎さんはエスプレッソマシンの工学に詳しく、開発したパーツは国際特許を取得して世界中のバリスタに愛用されているというコーヒーのプロの中のプロ。なぜ、突然チョコレートを売り出したのか? それには理由がある。齊藤さんは真においしいコーヒーを求めるあまり現在ハワイ島に自社コーヒー農園を開発中で、自ら土地を開墾し、苗を植え、栽培を始めている。この縁で現地の数少ないカカオ農家と知り合った。「コナでは彼らしかカカオをつくっていないんです。ハワイコナ100%という希少性と味のポテンシャルに惹かれてカカオ豆を全量購入、商品化を決意しました」と齊藤さんはいう。
黒ブドウ系の香りと蜜のような甘さ
ハワイ・コナ産カカオで作ったこのチョコレートの味の特徴は、柔らかく渋みのないブドウ系の香り、赤ワインでいえばメルローのような重すぎない甘さがある。甘さの質は蜜のようで、製造を担当したクラフトチョコレートワークス代表の竹内誠太さんによると「ココナッツシュガーを煮詰めたようなシロップ感があって、余韻が長い。香りは黒ブドウ系でふくよか。質のいいカカオ豆です」竹内さんはさまざまな産地のカカオ豆を、その味の特徴を捉えて配合や粒度を決めている。板チョコレートであっても食感は一様ではなく、あえてざらりとした粒子を残すものもあれば、非常に滑らかに仕上げるものもある。ハワイコナの場合は、その蜜のような甘さが引き立つように少し粒子を残してなめらかに仕上げている。
※右はハワイ島のカカオポッドを収穫した光景。ポッドの色は品種の違いとは関係がなく、品種も複数混ざっている。左は発酵・乾燥を終え、輸入されたカカオ豆。(ダブルトールカフェ提供)
技術のコラボレーションで味が決まる
カカオニブの焙煎はダブルトールカフェ側で123〜124度で40分とカカオとしては比較的低めの温度でじっくり焼いている。ニブそのものを食べてみると適度な発酵の味わいと軽い酸味、芯まで通じる甘さを感じる。この甘さの引き出し方が焙煎によって決まり、水分量を残せばフレッシュな香気が残りやすいが、後の工程にとっては焙煎時の水分量の微妙な差が(カカオバターという油脂と混ぜ合わせるために)加工しにくさに直結している。「水分量が多ければテンパリングがうまくできず、カカオバターでの追油を多めにする必要があります。カカオバターが多くなると嗅いだ時の香りの印象は軽くなりますが、口に入れた時の香りが開きやすく、口当たりもなめらかになります」(竹内さん)。今回は最終的にカカオ分70%の仕上げに収まっている。コーヒー焙煎のプロの焙煎手法とチョコレートのプロの加工技術が組み合わさって、このチョコレートの味わいが生まれている。
クラフトチョコレートワークスでも自社バージョンを予定
ダブルトールカフェでは今後、販売を拡大していきたい考え。今年初夏のロットからはクラフトチョコレートワークス側でも焙煎から行なって、他産地同様にオリジナルパッケージで店頭販売することを計画中。同じカカオ豆をそれぞれの焙煎で加工したら、どんな味の違いが表れてくるのかが今から楽しみだ。
※掲載情報は 2019/04/08 時点のものとなります。
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キュレーター情報
株式会社anemosu 代表取締役 食プロデューサー
浅井裕子
東京・新宿生まれ。
食の老舗出版社に編集者として25年5ヶ月勤務したのち、2018年10月に独立。
「食」と「大人とこどもの食育」をもっと楽しく深く広めることをテーマに、デジタル世代のための新しい出版社anemosu(アネモス)を起業。出版・編集の他、前職時代にカリフォルニア米「カルローズ料理コンテスト」審査員、講演、商品企画アドバイザーなどを経験。飲食、中食、食品小売、宿泊・観光、製菓製パン、コーヒー、カフェ、食品メーカー、家電メーカー、農業まで深く精通。現在は企業や自治体産品のブランディングご依頼等も承っています。