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期間限定「八坂の雪」
昔は姿寿司とか棒寿司どちらかというと苦手だった。何が苦手だったかと記憶を辿ると、今はもう無いある有名な日本料理店でコースの最後に鮎の姿寿司がでて来たのだが、どうもこれがトラウマになったらしい。鮎に酢があまり効いてなく、どちらかというと半生に近い感じで美味しいとは思えなかった。寿司好きで発酵臭の強い鮒寿司でも平気で食べることが出来るのに姿寿司だけは避けていたのである。それが、数年前に京都から帰りの時に”魔がさして”鯖寿司を買って新幹線で日本酒のあてに食べたところことのほか旨くて病み付きになってしまった。「やはり、姿寿司は京都に限る!」と。
すしの歴史をひも解くとかなり、大雑破だが、「熟れずし」から「握りずし」に進化している。「熟れずし」は鮒ずしの用に発酵期間があり、長く保存の効くすしで、「握りずし」江戸前に代表されるすしである。細かく解説するとすしの種類は沢山あるが、「熟れずし」と「握りずし」の間に「生成(なまなり)ずし」があり、「熟れずし」が1年近い本漬けの期間に比べて、10日ほどで出来上がる早ずしが「生成ずし」なのである。
しかし、現在では「生成ずし」という言葉もあまり使われなくなって、大阪の「雀ずし」、吉野の「釣瓶ずし」、富山の「鱒ずし」が仲間で、姿寿司、棒寿司とも言われて今回ご紹介する京都の「鯖寿司」なのだ。京都の「鯖寿司」は鱧(はも)同様京都を象徴し、京都人は鯖ずしが大好きで、家庭でも普通に作られているのだ。昔は若狭の浜で塩をした鯖が鯖街道を通って京都に運ばれて来たものを使っていたが、現在は生鯖が手に入るので、塩切りにして、季節や魚の大きさによって違うが2時間から7時間ほど漬け込んで、三枚におろし毛抜きで小骨を抜いて、酢で締めて、身の厚いところをはいで尾のところに添え、細長く長方形に形を整える。昆布とかつお節のだしで米をかために炊き、熱いうちに酢、塩、砂糖を合わせる。飯が冷めたら棒状に固め、鯖をはり、昆布で巻いた上を竹の皮で包み、布巾で巻き締める。冬なら7日、夏でも3日ほどはもち、食べ時は作って1日おいたもので、かたくなったら火で炙って食べるという趣向だ。以上はすしの食文化の碩学篠田統(しのだおさむ)の『すしの本』の中にある京都の鯖ずしの代表の「いずう」の作り方であるが、冒頭のハマった鯖寿司はこの「いずう」のものである。
京都で色々な鯖寿司を食べてきたが、今回は京都・八坂神社のすぐ近くにある割烹「祇園にしむら」。今回の「祇園にしむら」の鯖の棒寿司は「八坂の雪」という名前で、真っ白な千枚漬けが鯖の上にのった様を八坂神社に降る雪に見立てて意匠されたものである。上の千枚漬けは150年の老舗千枚漬本家「大藤」の千枚漬で、鯖はその日の脂ののりで微妙に異なるものの、三枚におろしてたっぷりの塩で覆い、1時間30分から2時間ほど。さらに約1時間、甘酢に漬け込んで仕上げたもの。口に含むと、鯖の風味を残したまま千枚漬けの爽やかな甘みと酢飯の酸味が相まった奥深ない味わいになり、後を引き、酒も進む逸品である。しかし、「八坂の雪」は10月から3月までの季節限定で、千枚漬けのシーズンを待たねばならないが、4~9月は千枚漬けの代わりに白板昆布を乗せて「東山」として販売しているのでこちらも旨いのである。京都の名店の「鯖寿司」をどうぞ味わってください!
※掲載情報は 2019/03/26 時点のものとなります。
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キュレーター情報
アートディレクター・食文化研究家
後藤晴彦(お手伝いハルコ)
後藤晴彦は、ある時に料理に目覚め、料理の修業をはじめたのである。妻のことを“オクサマ”とお呼びし、自身はお手伝いハルコと自称して、毎日料理作りに励んでいる。
本業は出版関連の雑誌・ムック・書籍の企画編集デザイン制作のアート・ディレクションから、企業のコンサルタントとして、商品開発からマーケティング、販促までプロデュースを手がける。お手伝いハルコのキャラクタ-で『料理王国』『日経おとなのOFF』で連載をし、『包丁の使い方とカッティング』、『街場の料理の鉄人』、『一流料理人に学ぶ懐かしごはん』などを著す。電子書籍『お手伝いハルコの料理修行』がBookLiveから配信。
調理器具から食品開発のアドバイザーや岩手県の産業創造アドバイザーに就任し、岩手県の食を中心とした復興支援のお手伝いもしている。