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スペイン中部ラ・マンチャ地方産の「地理的表示保護」チーズ
「ケソ・マンチェゴ Queso Manchego」は、スペイン中部に位置するラ・マンチャ地方(カスティーリャ・ラ・マンチャ州の大部分を占める)の伝統的なハードタイプの羊乳チーズ。先日、カスティーリャ・ラ・マンチャ州政府 貿易振興会 駐日代表様のご厚意によるケソ・マンチェゴと、ラ・マンチャ地方の郷土料理、ワインをいただくホーム・パーティーを開催しました。
17世紀初頭に活躍したスペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスの代表作でもある『ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』は、「絶望の中にあっても困難に立ち向かっていく」ことの大切さを描いた感動的な長編小説。『ラ・マンチャの男』のタイトルでミュージカル化もされています。その一方で作品にはグルメもあふれていて、ラ・マンチャ地方の郷土料理の数々が登場します。
スペインでは、小説中に登場する料理のレシピ本が発売されているほどです。
ケソ・マンチェゴも、作品中でドン・キホーテの相棒サンチョ・パンサの好物のひとつとして紹介されています。今ではラ・マンチャ地方のみならず、スペインが誇るEU(ヨーロッパ連合)の地理的表示(GI)保護および原産地名称制度(PDO)登録チーズとして知られるようになりました。
ちなみにケソ・マンチェゴは、昨年、日本の農林水産省によるGI保護が公示された26品のEUのGIチーズのひとつでもあります。
ケソ・マンチェゴの魅力は、ラ・マンチャ地方の指定地域内で育ったマンチェガ種という羊から搾取した低温殺菌されていないミルクを使った、強く芳醇な香りと、酸味と甘味を含んだなめらかで濃厚な味わい。熟成期間によって名称が変わり、熟成度が高いほどまろやかさが増します。
化学添加物の使用は一切禁止されており、たんぱく質とビタミンA、D、Eが豊富に含まれる栄養価の高い発酵食品でもあるのです。
ラ・マンチャ地方は夏と冬の寒暖の差が激しく、石灰質と粘土質を含む乾燥した土地柄。その牧草地で育ったマンチェガ種の羊と、チーズ作りの歴史は古く、紀元前3000~1200年の青銅器時代にさかのぼるものだと地元では信じられているそうです。
芳醇な香りとなめらかな味わいで一度食べたらやみつきに!
ケソ・マンチェゴは、カベルネ・ソーヴィニヨンやシラー、テンプラニーリョなど赤ワインとの相性が抜群です。薄くスライスしてそのまま食べるほか、サラダにかけたり調理して食べてもおいしいのですが、「ドゥルセ・デ・メンブリージョ」というマルメロ(セイヨウカリン)果実から作る甘いジャムと一緒にいただくと、何ともいえないマリアージュに思わずほっこり、頬がゆるんでしまいます。
そしてできれば、ラ・マンチャ地方の郷土料理もチーズとご一緒に。ラ・マンチャ地方はにんにくの特産地でもあり、もっとも有名かつ簡単な土地の料理は、「ソパ・デ・アホ(にんにくスープ)」という、にんにくとたまねぎ、たまご、固くなったパンなどで作るスープです。
パーティーでは「マタンブレ」という揚げパンや、豆とハモンセラーノのリゾット、「カブラ・アドバーダ」という酸味のある山羊(羊)の煮込みなどの料理を用意しました。
一度食べたらやみつきになるケソ・マンチェゴとともに、ラ・マンチャの素朴な田舎風料理でドン・キホーテの故郷にぜひ思いをはせてみてください。きっと味わい深いすてきな食卓になるはずです。
※掲載情報は 2018/10/12 時点のものとなります。
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キュレーター情報
各国・郷土料理研究家
青木ゆり子
雑誌「ぴあ」等の記者を経て料理に目覚め、2000年に「世界の料理 総合情報サイト e-food.jp 」を創設。以後、各国の「郷土料理」をテーマに、サイト運営、執筆、レシピ研究および開発、在日大使館・大使公館での料理人、料理講師等などに携わる。
地方色あふれる国内外の郷土料理の魅力を広く伝えるとともに、文化理解と、伝統を守り未来につなげる地域活性化をふまえて活動を行っている。
「世界の料理レシピ・ミュージアム」館長。著書「しらべよう!世界の料理 全7巻」(ポプラ社)、
「日本の洋食~洋食から紐解く日本の歴史と文化」(ミネルヴァ書房)。