記事詳細
紹介している商品
宮崎を代表する焼肉のたれはカレーを作るときに必須の隠し味
皆さんはカレーを自分で作るときに何か隠し味など入れていらっしゃるだろうか。
世の中にはカレーの隠し味と呼ばれるものが星の数ほどあるようだ。自慢のスパイスをミックスする人も多いが、既製品、たとえばカツオだし、醤油、チョコレート、ウスターソース、パイナップルジュースにインスタントコーヒー、梅干しにピーナッツ。それこそなんでも入れて試して見る人が後をたたない。
そんな中、意外な隠し味でなおかつ結構「効きがいい」ものがあるという。それは「焼肉のたれ」。
ああ、なるほど、なんとなくわかる。
甘みと辛味、旨味にコクと奥行き。そういう要素が色々と詰まっており、なおかつその種類や味の幅も広い。味も強く、カレーに負けていない。これを色々試してみるのは楽しいだろう。
そんな中、焼肉のたれ、お先に完成品のカレーに入れちゃってますよ、という製品を見つけて驚いた。そんなものまであるのか。というか、やはり焼肉のたれを入れるというのはカレー作りでは定番なのだろうか。そんなことを考えながら手にしたレトルトカレーがこれ。
「とむら焼たれカレー」
パッケージを見てもわかるとおり、「戸村の焼肉のたれを入れて煮込みました」という表記の横にその「戸村の焼肉のたれ」の写真が出ている徹底ぶりはつまり「戸村の焼肉のたれ」が入ることに価値があるという考え方に基づいて作られたカレーだということだ。
しかしなぜこの「戸村の焼肉のたれ」が名指しになるのだろう。「戸村の焼肉のたれ」とはなんなのだ。ただの焼肉のたれではダメなのには訳があるはずだ。
調べてみて驚いた。「戸村の焼肉のたれ」は宮崎日南の戸村フーズが製造する焼肉のたれ。昭和40年に創業した戸村精肉店本店がその土台になっている。当時そのたれは販売用の焼肉のたれではなく、加工品製造のための肉の漬けだれとして使用していたものだったが顧客の要望があり1袋50円で売り出したのが始まりなのだそう。それが今では宮崎を代表する焼肉のたれになっているのだ。宮崎県の焼肉のたれのシェアの50パーセントをこの「戸村の焼肉のたれ」が占めているそうで、これはもう宮崎の定番、宮崎焼肉にはこのたれありというものなのだ。
機械での大量生産を行わず、人の手によって釜で炊き上げるスタイルのタレはリンゴとバナナをたっぷり使ったフルーティにして甘め、濃厚な味。今回レトルトと一緒に「戸村の焼肉のたれ」をも入手したのだが、甘く、濃く奥行き深く、でも沈みすぎない軽やかさがある逸品であった。この味はかなりの中毒性を感じる。気をつけないとたれだけ舐めたい欲求がやってくるような味。なるほどこれは色々な料理に応用が効きそうだ。
焼肉のたれではあるが、万能調味料として冷蔵庫にストックするのも良さそうだ。いや、宮崎ではそれが当たり前なのかもしれない。ホームページでも「カレーやチャーハンの隠し味に。肉や魚の漬けダレにして竜田揚げにしても美味しく召し上がれます。」と推奨がある。
さて、カレー。
「とむら焼たれカレー」
はどうであろうか。
さっそく温めてあつあつのごはんにかける。ごはんの上にはみじんに刻んだたくあんを散らしてみた。甘い味つながりである。さて、ひとくちスプーンを運ぶと。
ああ、うん、この甘みはとむら焼肉のたれからくるもの。それがわかる。
香ばしい強い味と甘く奥行き深いその奥の方から、甘みと交代でスパイシーな辛さがやってくる。これはなかなかいいではないか。たくさん入っているわけではないがうまいビーフが存在感を示す。これもいい。上出来のカレーだ。
食べ進むうち、ふと思い立ってごはんとよく混ぜて食べることにしてみた。これが存外いい感じなのだ。甘あじのカレー、均一にごはんと混ざると味のでこぼこがなくなりそれがよりバランスがよい味を生み出す。おすすめしたい食べ方である。
おいだれと洒落こむのもいい。白ごはんの部分にたれを垂らして少し食べてみれば、これまたよかった。カレーと行ったり来たりするとカレーのどの部分に「戸村の焼肉のたれ」が効いているのかがよくわかる。これはごはんがいくらあっても足りなくなりそうだ。
このカレーの共同開発には同じ宮崎の、同じジャンルのタレ、つゆなども製造するヤマエ食品が当たっている。明治4年創業の宮崎県都城市にある醤油、味噌の醸造メーカー。ライバル会社とも言えるようなジャンルを持つ両社だが、どうも宮崎はこういう動き、みんなでやろう、みんなで盛り上がろう、地元を盛り立てようという強い気持ちがあるように感じる。心地が良い。
一次産業が強く、特に肉、焼酎、果物と名物も多い宮崎は食材王国ともいえる地域。その強さの秘密が、こういう横につながる力なのではないだろうか。そんなことを感じるひと皿だった。
※掲載情報は 2018/08/27 時点のものとなります。
- 4
キュレーター情報
カレーライター・ビデオブロガー
飯塚敦
食、カレー全般とアジア料理等の取材執筆、デジタルガジェットの取材執筆等を行う。カレーをテーマとしたライフスタイルブログ「カレーですよ。」が10年目で総記事数約4000、実食カレー記事と実食動画を中心とした食と人にフォーカスする構成で読者の信頼を得る。インドの調理器具タンドールの取材で09年秋渡印。その折iPhone3GSを購入、インドにてビデオ撮影と編集に開眼、「iPhone x Movieスタイル」(技術評論社 11年1月刊)を著す。翌年、台湾翻訳版も刊行。「エキサイティングマックス!」(ぶんか社 月刊誌)にてカレー店探訪コラム「それでもカレーは食べ物である」連載中。14年9月末に連載30回を迎える。他「フィガロジャポン」「東京ウォーカー」「Hanako FOR MEN」やカレーのムック等で食、カレー関係記事の執筆。外食食べ歩きのプロフェッショナルチーム「たべあるキング」所属。「ツーリズムEXPOジャパン」にてインドカレー味グルメポップコーン監修。定期トークライブ「印度百景」(阿佐ヶ谷ロフトA)共同主催。スリランカコロンボでの和食レストラン事業部立ち上げの指導など多方面で活躍。