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甘酒や粕汁に溶けやすいばら粕
落語の“枕”や小話に、与太郎と酒粕の噺が多くある。酒の呑めない与太郎が酒粕を食べて顔を真っ赤にしていると、オジさん(または、熊さん)が「酒を飲んだのか」と聞く。「酒粕を食べた」と答える与太郎に、オジさんは「そんな時には“茶碗で二杯呑んだ”と返すのだ」と教える。その先のオチはさまざまで、与太郎が間違えて「二枚喰った」というものや、「冷やは体に悪いから焼いて……」というものもある。与太郎が顔を真っ赤にした酒粕は、実はアルコール度数が高く、ビールよりも高い6¬8度。酒に弱い人なら酔っぱらってもおかしくないないのである。
子どもの頃の話だが、寒い冬の夜には食後に大鍋に酒粕とザラメを入れた熱々の甘酒をよく飲んだ記憶がある。甘酒が熱いので、冷たい白菜漬けを食べて口の中を冷やしながら何杯もお替わりしたものだ。また、与太郎ではないが、おやつに焼きたての酒粕もよく食べた。どうも、これが酒飲みになる第一段階だったような気がする。長じて酒の飲が飲める年齢になると、もはや甘酒などはほとんど飲まなくなってしまった。このように相当な酒好きだが、何故か酒粕で漬け込んだ奈良漬けは微妙なアルコール臭が苦手なのだ。
日本酒でもワイン、ウィスキーでも、酒を造る段階でアルコール醗酵した後には搾りかすがでる。ワインの絞りかすを再度蒸留して作るアルコール度数の強い酒は、フランスのマール、イタリアのグラッパが有名で、ほかにもドイツにはトレスターブラント、スパインにはオルホというものもある。ビールやウィスキーでも二次蒸留することはあるものの酒粕自体は美味しくなく、家畜の飼料などになっているからしい(バイオ技術が進んで化粧品や医薬品もあるが)。中国の紹興酒の酒粕は、水、塩、砂糖、香辛料などをなじませて、漉して香糟(シャンザオ)という調味料の原料になっている。
そう考えると日本酒から取った酒粕は、二次蒸留して焼酎の原材料にも活用されるが、固形化された酒粕というものは非常に特異な存在のような気がする。湯で希釈して甘酒を作り、そのまま与太郎のように焼いても食べ、さらに粕を使って粕汁にし、魚や肉、野菜を粕に漬け込んで料理にも使うというのは、凄いことではないだろか。酒粕はたんぱく質や食物繊維、ミネラルが豊富という知識が広がり、“古いけれど新しいもの”として見直されていることは良いことだと思う。
さて、今回ご紹介する酒粕は、新潟の「越乃寒梅 酒粕」。「越乃寒梅」はいまさら紹介する必要にないくらい新潟を代表する日本酒である。そんな銘酒の酒粕はどんなものだろうとパッケージを開けてみると、まず、香りが良い。酒粕には、もろみを絞りプレス機で圧縮し板状にした「板粕」、プレスからこぼれたり軟らかすぎて板状にならないものを集めたりした「ばら粕」、さらに酒粕を練り合わせて柔らかいペースト状にした「練り粕」の3種類がある。
「越乃寒梅 酒粕」はまだ米のつぶが感じられるばら粕で、しっとりして日本酒感が強い。少し口に含んでみると「越乃寒梅」のコクがあるがさらっとした香りが鼻孔に広がり、甘みも感じる。ばら粕なので湯に溶けやすく、早速甘酒を作って、砂糖を表示通りの分量をといて飲んでみたが、確かに元の酒が良いからか旨いと思った。個人的には表示している砂糖の分量(酒粕100gに砂糖50g)は、もう少し少なめでも良いと感じた。さらに、根菜類たっぷりの粕汁も作ってみたが体がほかほかして暖かくなり、寒い日にはピッタリだ(越乃寒梅 酒粕は3月末まで)。余談だが、与太郎風に酒粕を焼いてみた。焼き用には板粕の方が良いようだ。
※掲載情報は 2018/01/24 時点のものとなります。
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キュレーター情報
アートディレクター・食文化研究家
後藤晴彦(お手伝いハルコ)
後藤晴彦は、ある時に料理に目覚め、料理の修業をはじめたのである。妻のことを“オクサマ”とお呼びし、自身はお手伝いハルコと自称して、毎日料理作りに励んでいる。
本業は出版関連の雑誌・ムック・書籍の企画編集デザイン制作のアート・ディレクションから、企業のコンサルタントとして、商品開発からマーケティング、販促までプロデュースを手がける。お手伝いハルコのキャラクタ-で『料理王国』『日経おとなのOFF』で連載をし、『包丁の使い方とカッティング』、『街場の料理の鉄人』、『一流料理人に学ぶ懐かしごはん』などを著す。電子書籍『お手伝いハルコの料理修行』がBookLiveから配信。
調理器具から食品開発のアドバイザーや岩手県の産業創造アドバイザーに就任し、岩手県の食を中心とした復興支援のお手伝いもしている。