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もはやスープといっても過言ではないフレンチトースト
映画で初めて知った料理がある。1979製作、日本ではその翌年に公開されたアメリカ映画『クレイマー、クレイマー』をご覧になったことのある方は多いだろう。第52回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚色賞、主演男優賞、助演女優賞の5部門を受賞するなど世界中を圧巻した。ダスティン・ホフマンとメリル・ストリープが離婚した夫婦を演じた映画だが、一番印象に残るのは「フレンチトースト」なのである。妻(メリル・ストリープ)に出ていかれた夫(ダスティン・ホフマン)が、7歳の息子に朝食に何が食べたいかと聞くと「フレンチトースト」という答えが返ってくる。フレンチトーストはおろか、料理ひとつしたことがないダスティン・ホフマンが、悪戦苦闘しながらトライするが、ことごとく失敗する。ちなみに、映画でのフレンチトーストの作り方は、卵をボウルに割り入れ、攪拌して砂糖を入れて、さらに牛乳を加えて溶きのばす。次に食パンを何度も裏返しながら作った卵液をたっぷり染み込ませ片面1分ずつ焼き、きれいな焼き色をつける。最後にオーブンで焼き、 焼き上がったら半分に切って、皿に盛り付けて出来上がり。非常にシンプルな料理だが、ダスティン・ホフマンは,上手に出来ない、いや、超ドヘタ! しかし、息子が妻に引き取られる最後には、びっくりするくらい父と子の関係になっていて、フレンチトーストを見事に作り上げる。
この映画を観るまでは、フレンチトーストという料理を知らなかったのであるが、俄にフレンチトーストがどのようなものなのかを知りたくなったのである。フレンチトーストを食べる機会があれば食べて、さらに某シェフに、取材でフレンチトーストの手ほどきまで受けたのである。
その時のレシピは、食パンではなく乾燥したバゲットを3センチほどの厚さに切り、これを卵、砂糖、牛乳にバニラエッセンスを合わせた浸し液(アパレイユ)を作り、一度ザルで濾してから一晩バゲットを漬け込む。そして、バターを熱したフライパンで両面を焼き、仕上げにオーブンに入れる。大体、フレンチトーストのレシピは同じようだが、ホテルや作る人によっていろいろな工夫があるようだ。それほどまでにフレンチトーストの深みにはまっていくと、前方に「世界一のフレンチトースト」というものがあった。
日本でも屈指の老舗ホテルの「ホテルオークラ東京特製のフレンチトースト」である。なんでも、某国の首脳が「世界一美味しいフレンチトースト」だと言ったのが謂われとか。ホテルに泊まるか、わざわざ朝食目当てに食べに行かないと食べることは出来ないのだが、実はこのフレンチトーストはテイクアウトが出来るのだ。
作り方はいたって簡単で、テイクアウトしたフレンチトーストをレンジで温めて、熱いままに皿にのせて、付属のメープルシロップをかけて、バターをのせるだけ。
フォークで突くと弾力があるほど充分にしみ込んだアパレイユをパンとともに口に運ぶ、メープルシロップとバターの香りが鼻孔をくすぐる。パンのスポンジ状の網の目に染み込んだ液体はパンと一体化して、口中にアパレイユが広がる。ある意味でフレンチトーストはパンに浸されたスープではないだろうか。
ちなみに、ホテルオークラ東京のフレンチトーストは、片面12時間、裏返して12時間、計24時間もアパレイユに漬けこんでから仕上げに余分な液を絞っているそうな。一度はぜひ食べてみたいフレンチトーストだが、1日に作る数量には限りがあるようなのでご確認を。
※掲載情報は 2017/12/15 時点のものとなります。
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キュレーター情報
アートディレクター・食文化研究家
後藤晴彦(お手伝いハルコ)
後藤晴彦は、ある時に料理に目覚め、料理の修業をはじめたのである。妻のことを“オクサマ”とお呼びし、自身はお手伝いハルコと自称して、毎日料理作りに励んでいる。
本業は出版関連の雑誌・ムック・書籍の企画編集デザイン制作のアート・ディレクションから、企業のコンサルタントとして、商品開発からマーケティング、販促までプロデュースを手がける。お手伝いハルコのキャラクタ-で『料理王国』『日経おとなのOFF』で連載をし、『包丁の使い方とカッティング』、『街場の料理の鉄人』、『一流料理人に学ぶ懐かしごはん』などを著す。電子書籍『お手伝いハルコの料理修行』がBookLiveから配信。
調理器具から食品開発のアドバイザーや岩手県の産業創造アドバイザーに就任し、岩手県の食を中心とした復興支援のお手伝いもしている。