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普段のだしは煮干味で
子どもの頃、実はみそ汁が大の苦手でした。その時の原因を色々と考えたことがありました。みそ汁の味噌自体が濾していない、つぶつぶの豆味噌で、椀の底にどろっと残っているのです。さらに、だしが煮干しだしなのですが、本来ならだしが出た時点で引き上げなければばらない煮干しがそのまま残っているのです。そして、最悪なのはこの煮干しは見たまんま、つまり、頭もはらわたも取られていないのです。このみそ汁を父親は「カルシュウム」が取れるからと言って全部食べることを強要するのでした。こんな理由でみそ汁が嫌いになったのでした。
子どもの頃に体験したみそ汁のだしの煮干しが結構トラウマになっていたのですが、長じて、料理関係の仕事をするようになり、そこで正しい煮干しだしの取り方を学んだのです。
煮干し(かたくちイワシ)の頭とはらわたを取ってから、しばらく水に浸けてから加熱し、煮立ててからアクを取り濾す。これだけ簡単な話ですが、煮干しは、鰹節とは違い、だしがすぐに取れないのです。また、沸騰させてから煮干しを入れるとアクの成分が早く抽出されても、旨味成分が中々出てこないのです。
そんな初歩的なことからはじめて、煮干しは購入してから頭とはらわたを取り除き、朝のみそ汁用には前日から水に浸しておき、5分くらい充分沸騰させてからアクを引き使うようになってから、美味しいみそ汁が出来るようになったのです。しかし、母親が作ってくれたみそ汁は、元々東北で食糧が乏しく、ムダを出さないという意味では”フードロス”では無かったと思うと、もう一度見直す必要も感じているのです。
そんな食生活の東北・岩手の八幡平へ仕事で出かけました。ここには、創業80年の「麹屋もとみや」という麹屋さんがあるのです。甘酒から味噌まで麹を使った商品が多く並んでいるショップで目に入ったのが、「麹屋の煮干だし」だったのです。最初はこんな山奥で(失礼)煮干しだし?とも思ったのですが、興味があり購入してしまったのです。
以前は、煮干しもちゃんと手間をかけてだしを取っていたのですが、簡便なだしパックを使うようになると、水が高き場所から低き場所に流れるごとく多いに手抜きをしているのです。本音を言うと、だしパックは便利で楽なのは確かなのですがね。この「麹屋の煮干だし」は煮干し以外にも、かつおぶしや昆布などに食塩なども加わっているので、厳密な意味での煮干だしではないのですが、全体にバランスの取れただしになっているのです。
すまし汁には合いませんが、みそ汁から煮物まで比較的濃い目の味付けには向いているのです。一番のお薦めは、蕎麦やうどんの麺類の汁ですが、基本は煮干しパックでだしを取ってから、だし8に対して、醤油1、味醂(あるいは酒)1の割合で沸騰させて万能だしを取るのが良いです。
蕎麦は少し醤油を多めに、うどんなら醤油を控えにするのがポイントです。煮干しだしパックのだしを取り終わったら、中身をフライパンに出して、醤油や味醂で味を整えて煎れば、即席のふりかけが出来ます。フードロスで一番多いのは調理途中なのですが、こういう使い方をすれば余分な食材のロスが防げます。最近わが家では、フードロス対策にお弁当を作っていますが、長年の煮干だしの歴史に一区切りついたと思うのです。
※掲載情報は 2016/09/07 時点のものとなります。
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キュレーター情報
アートディレクター・食文化研究家
後藤晴彦(お手伝いハルコ)
後藤晴彦は、ある時に料理に目覚め、料理の修業をはじめたのである。妻のことを“オクサマ”とお呼びし、自身はお手伝いハルコと自称して、毎日料理作りに励んでいる。
本業は出版関連の雑誌・ムック・書籍の企画編集デザイン制作のアート・ディレクションから、企業のコンサルタントとして、商品開発からマーケティング、販促までプロデュースを手がける。お手伝いハルコのキャラクタ-で『料理王国』『日経おとなのOFF』で連載をし、『包丁の使い方とカッティング』、『街場の料理の鉄人』、『一流料理人に学ぶ懐かしごはん』などを著す。電子書籍『お手伝いハルコの料理修行』がBookLiveから配信。
調理器具から食品開発のアドバイザーや岩手県の産業創造アドバイザーに就任し、岩手県の食を中心とした復興支援のお手伝いもしている。