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業界人を困惑させ、ワイン好きを心地良くする、ポルトガルからの涼風
優しい笑顔のワインメイカー。ワイン造りの情熱や、発想や、仕事の話を先にしなければならないのはわかっているのだけど、とにかく、このワードから始めたい。「爽やかエロティック」。いや、もちろんワインメイカーさんの話ではなく、こちらのワインを飲んだ印象が、この言葉。
初めて試飲したときに、とにかく驚いた。キラキラしていて、爽やか。麦畑とレモン畑の風景。白いサマードレスの美女と、白いドレスシャツとストローハットの美少年が手をつないでいるような（だんだん妄想にエンジンがかかっていきます）、その手のつなぎ方が、プラトニックなのに、それがかえって艶っぽいというか、恋心が爆発しそうなギリギリのからみあいというのか……。それを単純に書くと、「爽やかエロティック」。クリスプ（軽快、快活）な舌触りからどんどんなまめかしい感触に変わっていくのだけれど、あくまでも爽やかでピュアなまま。倒錯、ではなく、静かに劇的。グリーン、イエロー、ゴールドが輝き、溶け合い、蕩けて、でも、やっぱり爽やか。
ルイスさんが右手に持つ「ソアリェイロ2015」は、やわらかい風がレモン畑をふわっと抜けて、ゆったりとやってくる余韻。忘れがたい青春の思い出を、ちょっと切なさを伴って長く続く。左手の「ソアリェイロ レゼルバ 2012」は、ブラッドオレンジ、レモン、レモングラス、ルビー・グレープフルーツにドライトマトなどをたっぷり持ったバスケットを、贅沢に独り占め。太陽の力を思う存分旨みに変えた柑橘たちが、エレガントにエロティックに涼やかに。
実はその驚きというのはワインそのものの話でもあり、一方ではちょっと業界的な話でもあります。こちらのワインは、ポルトガルの最北部で造られる、ヴィーニョ・ヴェルデという呼称で呼ばれるカテゴリーのワイン。その特徴は若々しく、瑞々しく、素直で強い酸味をともなう軽快さ。アルコール感も決して強いものでありません。ヴィーニョ・ヴェルデと聞けば、今はマーケット的には微発泡の軽やかなワインという認識が広がっています。もちろん、こうした手がかりは買う側にとってはありがたいことではあるのですが、そこから外れるワインもあるんだ！ というのは業界の人間として、ただおいしいということ以上に衝撃的だったのです（もちろん外れるといっても、もともとそういうワインは存在しているわけですが、なかなか目にすることがなかったのです）。
こちらのワインメイカーが使う葡萄品種は「アルヴァリーニョ」。スペインやイタリアでは名前が知られている葡萄も、この地域が、実は栽培や表現に適したエリアであることはまだあまり知られていません。大西洋からほど近く、海と太陽の恵みを浴びながらも、山々に囲まれ、余計な湿気や風を防ぎ、冷涼な環境の中で、美しさを内包するアルヴァリーニョワインが造られる。これもまた、嬉しい発見の一つでした。下の写真の「ソアリェイロ プリメイラス ヴィーニャス 2015」は、その表現として見事な作品。軽やかさ、明るさ、繊細さ、エロティックさ、旨み…それらのバランスが長い余韻とともに続いていきます。
だからといって気どって飲むのではなく、気の置けない友人とのバカ話のときでも、ありあわせの惣菜で作ったカナッペを食べながら一人で本を読む時や、気軽な食事や時間との相性もいい。もちろん、愛を語り合いたい最初の1杯でも、長く連れ添った夫婦の素敵な記念日の1杯でも。ワイングラスをステム（脚）の長い繊細なものにしたときは、ややエレガントとエロティックが強めで、ステムの短いグラスなら明るく、爽やかさが強く、ステムのないタイプのワイングラスなら、バランスがよく。そんな楽しみ方もできるでしょう。
ワインフリーク、ワインの知識のある人を驚かせ、ワインの世界に詳しくない人は素直に「爽やかエロティック」を堪能。やっぱりワインとの出会いは面白いものです。
※掲載情報は 2016/09/05 時点のものとなります。
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キュレーター情報
ワインナビゲーター
岩瀬大二
MC/ライター/コンサルタントなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカーなどの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」。ワインに限らず、日本酒、焼酎、ビールなども含めた「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。
フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。
日本ワイン専門WEBマガジン「vinetree MAGAZINE」企画・執筆
（https://magazine.vinetree.jp/）ワイン専門誌「WINE WHAT!?」特集企画・ワインセレクト・執筆。
飲食店向けワインセレクト、コンサルティング、個人向けワイン・セレクトサービス。
ワイン学校『アカデミー・デュ・ヴァン』講師。
プライベートサロン『Verde（ヴェルデ）』でのユニークなワイン会運営。
anan×本格焼酎・泡盛NIGHT/シュワリスタ・ラウンジ読者交流パーティなど各種ワインイベント/ /豊洲パエリア/フィエスタ・デ・エスパーニャなどお酒と笑顔をつなげるイベントの企画・MC実績多数。
