【クローズアップ】缶詰に込められた奥深いストーリーを楽しく伝えたい 黒川勇人

【クローズアップ】缶詰に込められた奥深いストーリーを楽しく伝えたい 黒川勇人

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世界中どこを探してもきっと見つからない缶詰博士として、世界の缶詰を紹介する「缶詰blog」が業界内外でも注目を浴びている黒川さん。その缶詰愛はとても深く、缶詰の知識のみならず、缶詰たちのいきいきした表情を引き出す写真にも定評があります。そんな黒川さんの缶詰との運命的な出会いとは? 缶詰とはどんな存在なのか? さらに今注目の缶詰情報も教えていただきました。

缶詰が大好きな幼少期を経て、ブログをきっかけに缶詰博士へ

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Q.缶詰との出会いを教えていただけますか?

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初めて缶詰というものを認識したのは4歳の時です。具体的には、「五目めし」です。どのメーカーのものかは覚えていませんが、とりめしや牛めしなど、炊き込みご飯のシリーズがあって、1980年代までメジャーだった缶詰なんですよ。キャンプなどに持って行く人が多かったと思います。僕の場合も、父の会社の人たちとキャンプに行った時にこの缶詰と出会いました。大人が焚き火を使って鍋で何かをゴトゴト煮ているのを見て、カレーでも作るのかな?と思い近づくと缶詰を湯せんで温めていたんです。『これは何だろう? 食べ物とは違うようだ…』と思ったら、蓋を開けると美味しそうな五目めしが出てきて。しかも、鶏肉、ごぼう、にんじん、たけのこ、しいたけと5つの具材がちゃんと入っている本格的な五目めしなんですよ。『こんな宝箱のような物があったとは……』と、衝撃を受けました。缶を開けると、中にはすぐに食べられる状態の一品料理が入っているわけです。その出会いがあまりにも強烈だったので、その後も缶詰好きのまま成長して大人になりました。自分ではあまり覚えていないのですが、同窓会で会った友人たちが言うには、中学生の頃にもキャンプやハイキングの時には必ず、オイルサーディンやコンビーフなどを持って行っていたそうです。

 

 

Q.缶詰博士と名乗るようになったのはいつ頃ですか?

 

2006年からです。きっかけは今も続けている「缶詰blog」です。2004年に日本でブログサービスが始まり、ぜひ自分のブログを作ってみたいと思った僕は、日々の出来事やエッセイのブログとは別に、何かに特化したテーマのブログをやりたいと考えました。その時に思い浮かんだのが缶詰だったんです。実は当時、ほぼ毎日缶詰でご飯を食べていたこともあって、『これだな』と思いました。

 

「缶詰blog」をスタートして1年半くらい経った頃にYahoo!カテゴリーで認定されて、ブログがいろいろなサイトで取り上げられるようになりました。その中で、僕のことを「缶詰の博士のような人がいる」と紹介している記事があって、この肩書きを使いたいと思いました。でも、勝手に「博士」と名乗って良いものかわからなかったので、公益社団法人 日本缶詰協会に問い合わせて、了承をいただきました。僕が缶詰博士と名乗ろうと決めたのはその時ですね。

 

 

Q.缶詰博士になる前は、どのようなことをなさっていたのですか?

 

大学を卒業後、証券会社などでサラリーマンをしていました。物書きになりたいという夢があって、昼間は建築の現場で働き、夜は小説を書いていたこともあります。そのうち、フリーライターという道を見つけて、出版社の手伝いをしたり、編集やライターをしたりして生計を立てていました。でも、当時はあまりお金がなかったので、毎日缶詰を食べていたんです。サバの水煮缶を1日3回に分けて食べていたこともありましたね。「缶詰blog」を始めたのはその頃です。

日本と世界の缶詰知識を持つ、唯一無二の存在

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Q.今までどれくらいの数の缶詰を食べてきましたか?


個数は何回トライしても計測不能になってしまいます。種類は3〜4年前に、だいたい1000種類くらいまでは数えていたのですが、途中で意味が感じられなくなりました。ただ、国の数だけは計測していて、現在47カ国の缶詰を食べたことになります。缶詰はネットで注文して取り寄せることもありますが、国内のものは出張に行った際、空港や道の駅で見つけて購入することが多いです。海外には直接行くか、旅行土産としていただくことも多いですね。缶詰と言えば僕と思ってくれるみたいで、いろんな国の缶詰をいただいています。

 

 

Q.今まで食べた中で、一番感動した缶詰は?


美味しくて感動したのは、タイのお土産でいただいた「バジルライス」の缶詰です。常温で開けても食べられる柔らかさで、ちゃんとピリ辛でやや酸味もあり、生のバジルの葉が刻まれていて、ものすごく美味しかったですね。タイ米だから軽やかで、ふわっとしていて……。あの味には感動しました。しかも、人工的な添加物は一切使っていないそうです。

 

コンセプトで感動した缶詰はパン・アキモトの「パン」の缶詰ですね。考案者である秋元さんは栃木のパン屋さんで、阪神淡路大震災のときに救援物資で届けたパンが痛んでしまい、被災者の『もっと長持ちするパンなら良かったね』という声がきっかけでこれを開発しました。パンを焼いてから缶に詰めるのではなく、生地を入れた缶ごと焼き上げ無菌状態で密封することで長期保存を実現。パサパサした感じがなく、しっとりしているのが特徴で、製造の特許も取得しています。それに、2009年に宇宙食としてNASAが認めた世界基準の缶詰でもあるんですよ。

 

 

Q.海外の缶詰事情は日本とはどのように違いますか?


海外の缶詰は、日本の缶詰よりもシンプルな加工のものが多いんですよ。例えばオイルサーディン。日本のように手の込んだグルメ缶はあまり多くありません。でも、みんなが日常的に缶詰を食べているのが羨ましいですね。海外では日本よりも缶詰の売場が充実している国が多くて、特にスペインやフランスに行くと、普通のスーパーでも缶詰の棚が2間半くらいの幅に7段構えでずらりと並んでいるような光景を目にします。ひとつの棚全体が貝の缶詰、その隣がオイルサーディンとツナ、その隣がスープとか。それだけ売れているということですから、日頃から食事に缶詰をたくさん取り入れているという意味では、日本以上と言えます。

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外国の缶詰で画期的だなぁと思ったのは、力を入れなくてもパッと剥がせるイージーピールと呼ばれるタイプの缶詰です。最初はフランスで登場したようですが、イタリアでもよく見かけますね。近頃は日本の缶詰でも採用されるようになってきています。それでも、やはり日本の缶詰技術というものは素晴らしいです。世界の缶詰を知れば知るほど、日本の缶詰の魅力に気づかされることは多いですね。

 

 

Q.最近の日本の缶詰にはどのような変化がありますか?

 

「グルメ缶詰」というものが続々登場しています。値段が基本的に300円以上の缶詰で、良い素材を贅沢に使い手間とコストをかけて作られているのが特徴です。「グルメ缶詰」という言葉が使われるようになったのは昨年くらいから。例えば「真いわしの香味野菜トマトソース煮」など、レストランで出てくるような料理が缶詰になっていて、これがまた美味しい! こういうのがきっかけで缶詰がもっと身近になるといいなと思っています。先陣を切ったのは2010年に登場した国分の「缶つま」シリーズ。酒のおつまみとしての缶詰をコンセプトに、最初は14アイテムが登場しました。オイルサーディンなどスタンダードなものが多かった中、異彩を放っていたのが「厚切りベーコンのハニーマスタード味」です。開発担当の女性が、お店でチーズに蜂蜜をかけてワインと合わせている女性客を見てヒントを得たとか。これが大ヒットして、今ではこのシリーズは104種類も出ているほど。それまでの缶詰業界の『300円以上の缶詰は売れない』という常識を打ち破り成功を収めたことで、他社も追随する形となり、日本の缶詰業界は今とても活気づいています。

徹底した取材と写真で、缶詰の魅力を引き出す達人

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Q.缶詰を紹介するときに大切にしているのはどんなことですか?


その缶詰の開発担当者に取材して、こだわりはもちろんのこと製造方法を全部聞くんですよ。原材料をいつの時期にどこで調達するのか、下ごしらえや味付け方法など、かなり細かく質問します。味噌を使っていると言われたら、どこの味噌蔵なのかまで教えてもらうという具合です。そして最終的に他社製品と比較して、この缶詰にしかないという魅力や特徴をひねり出して紹介するようにしています。味や原材料の良さだけではなく、ネーミングを取り上げることもあります。『日本初のダジャレ缶が出ました!』というようにね。タイトルで目に留まり面白いと思ってもらえることが大事ですから。もちろんその後で缶詰の中身の特徴についてもフォローします。僕が自分のブログやメディアで紹介させていただく缶詰は、実際に食べて気に入っただけでなく、そうやって開発担当者さんのお話を聞いてグッときたものばかりですね。

 

取材は最初から順調だったわけではありません。「缶詰blog」をスタートして以来、毎日違った缶詰を食べるようになり、缶詰を作っている人に話を聞いて製造工場を見せてもらいたいと思うようになりました。そこで、いくつかの缶詰メーカーに取材を申し込んだところ、最初はどこも取り合ってくれませんでしたね。それでも、ある1社が『そこまで言うなら』と取材に応じてくれたのが最初です。取材するとより深い目線で記事を書くことができるので、メディアでの反響も大きくなります。次第に実績を認めていただけるようになり、取材を断られることはほとんどなくなりました。今では各地のメーカーから缶詰が届いて試食が追いつかないほどです。試作の段階で意見を求められたり、ネーミングを一緒に考えてお手伝いすることもあります。

 

 

Q.黒川さんは缶詰の写真にもこだわっている印象があります。

 

写真はなるべく自分で撮りたいですね。僕独自の写真を撮る目線というものがあるらしいのです。食品や料理専門の写真家はたくさんいらっしゃいますが、缶詰の写真ばかり撮っているのは世界中でも僕くらいでしょう。缶詰には他の食べ物とは違う美味しそうな撮り方というものがあって、試行錯誤の末、自分なりのノウハウが出来上がっているように思います。

  

Q.まだあまり知られていない缶詰で「これはおすすめ!」というものや、ちょっと変わった缶詰があれば教えてください。

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長野の北信地方で昔から食べられている郷土料理「サバタケ」をそのまま缶詰にしたものが面白いですよ。姫竹や根曲り竹と呼ばれる、細いタケノコのような山菜を使った料理です。姫竹は痛みが早く、採ってきたその日のうちに味噌仕立てにして煮るそうです。その時に、缶詰のサバの水煮を一緒に入れます。長野には海がないため、生鮮のサバがなかなか手に入らなかったことから缶詰のサバが使われてきました。そして缶詰の「サバタケ」にも、わざわざサバの缶詰を使っているというから驚きです。そうしないとこの味にならないそうで、日本の郷土食の缶詰は奥が深いと感じます。

【クローズアップ】缶詰に込められた奥深いストーリーを楽しく伝えたい 黒川勇人

これから発売になる新商品では、明治屋のパスタソースの「ハンバーグナポリタン」に注目です。ちょうど昨日食べたばかりなんですよ。ナポリタンソースの中にハンバーグが入っているのですが、2人前なのでちゃんと2つ入っています。しかも、うまいんですよ! 味付けが素晴らしいですね。おそらく3月発売だと思います。最近こういう洋食のパスタソース缶はあまり見かけなかったのですが、ここで復活して、しかも美味しい。感動しました。

 

 

Q.最後に、黒川さんにとって缶詰とはどのような存在ですか?

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シビれる存在ですね。毎回新商品が出るたびにシビれます。『これどうやって作っているんですか?』と開発担当者に聞いて、聞くと今度は『そこまでやっているの?』とシビれるんです。こだわりのすごい缶詰は、一口食べると味が違いますよ。缶詰って、無機質な見た目で損しているところがあって、工業製品的に機械で作られているという思い込みが先に立ってしまう。でもそうじゃないんです。缶詰メーカーの人たちは職人堅気なので、原材料や製造工程にこだわっていても、それを大きな声で言わない傾向があります。でも言わなきゃ伝わらない。それを何度提案しても『広告宣伝に使うお金があったら、もっと良い材料を使いたい』と。開発ストーリーや作り方を知ってから食べると『これがあのこだわりの製法で作られた缶詰か』と、味わい方も変わると思うんです。だからそれを伝えるのも僕の役目だと思っています。

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缶詰は保存食ですが、食べたいと思って買ったなら、ぜひその日のうちに食べてみて欲しいですね。いろんな缶詰が揃っているお店ですか? 都内なら秋葉原の「日本百貨店 しょくひんかん」にある「缶詰博士・黒川勇人の“ほんとはおいしいニッポンの缶詰」コーナーがおすすめですよ!


【プロフィール】
昭和41年福島県生まれ。2004年から世界の缶詰を紹介する『缶詰blog』を執筆。缶詰に精通していることから“缶詰博士”と呼ばれ、TVやラジオ、新聞など各種メディアで活躍中。国内外の缶詰メーカーを訪れ、開発に至る経緯や、製造に対する現場の“思い”まで取材するのが特徴。そのため独自の視点から缶詰の魅力を引き出し、紹介している。著書は『おつまみ缶詰酒場』(アスキー新書)、『缶詰博士・黒川勇人の缶詰本』(タツミムック)、『缶づめ寿司』(ビーナイス)、『日本全国ローカル缶詰 驚きの逸品36』(講談社+a新書)『缶詰博士が選ぶ!「レジェンド缶詰」究極の逸品36』(講談社+a新書)、『安い!早い!だけどとてつもなく旨い! 缶たん料理100』(講談社)など。朝日新聞beに缶詰コラム『忙中カンあり』連載中。小曽根マネージメントプロ所属。

※掲載情報は 2016/03/04 時点のものとなります。

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