【クローズアップ】産地の応援リーダーとして、感動を発信し続ける。小谷あゆみ

【クローズアップ】産地の応援リーダーとして、感動を発信し続ける。小谷あゆみ

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野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」として、自らの農体験や生産者との出会いで生まれた感動を発信し続けている小谷さん。親しみやすいキャラクターと軽快なトークで、全国から講演依頼が寄せられる忙しい日々を送っています。今回は、そんな小谷さんをクローズアップ。局アナ時代のこと、ベジアナを名乗ることになった経緯、これからの目標などを教えていただきました。

 

【クローズアップ】産地の応援リーダーとして、感動を発信し続ける。小谷あゆみ

野菜作りは、知ることで生まれる感動の連続。

Q:まずは、小谷さんの現在のお仕事について具体的に教えてください。


テレビ番組の司会者など、フリーアナウンサーとしてのお仕事をベースにしつつ、介護や農業をテーマとした講演活動、ジャーナリストしての執筆活動もしています。講演会は、以前は介護をテーマとしたものが中心でしたが、最近は農業をテーマにした依頼が多くなっています。農業も介護も、高齢者問題と農村問題の根本は同じなんですね。


多いときでは月に半分以上は講演に出かけていて、この秋だけで北海道から鹿児島、ミラノ万博まで50回出張していました。

 

Q:小谷さんは「ベジアナ・農業ジャーナリスト」としてippinのキュレーターもされていますが、そのように名乗ることになった経緯を教えていただけますか?


はい、私は兵庫県出身の高知県育ちで、大学を出て最初は、石川テレビのアナウンサーとして、10年間、夕方のニュース番組のキャスターをしていました。同時に、週1回、自分のコーナーを持っていたので、企画を考えて自ら取材し、原稿を書いてリポートをつける日々で、毎日の放送に追われる中、着目したのは農業です。それまで石川県内の郷土料理や伝統野菜を取材する機会も多く、春には山菜摘み、秋にはきのこ狩り、イワナ釣りも体験取材しました。そういった季節ごとの取材を重ねる延長で、野菜作りをテーマにすることを思いついたんです。畑の様子を定点観測して紹介すれば、毎回どこかへ出かけなくても、季節ごとの野菜の成長過程を伝えることができます。

 

私の野菜作りの第一歩は、金沢市民農園の一区画。実際にやってみてわかったのは、農業は畝作りひとつにしても理にかなっていること。キュウリの花のおりしから赤ちゃんキュウリが少しずつ伸びてくる姿など、野菜作りのあらゆるプロセスに美しさや感動を覚えました。そして、今では能登の千枚田は里山里海として世界農業遺産に登録されていますが、その近くの棚田で米作りにも挑戦しました。棚田に佇んで見る夕暮れの風景は何とも言えない郷愁を誘い、農村には美しさと感動が秘められていると、改めて感じましたね。

 

その後、石川テレビでの10年間を経て、フリーアナウンサーとしてフィールドを広げようと2003年に拠点を東京へ移しました。最初に住んだ品川区には、なんと区民農園がありまして、最初の年は当選したものの、その後は当選したり、しなかったり。落選しても野菜は作りたくて、ついに自宅のベランダで野菜を作り始めました。局アナ時代のように即座にニュースにはできなくても、野菜作りで感動することはたくさんある。その記録と発信ツールとして、2005年からブログを始めました。「ベジアナ」という名前はブログの読者の方が考えてくれたもので、ブログのタイトルにも使うようになりました。看板を掲げると情報が集まるという話は本当で、そこから農業にまつわる講演のご依頼をいただくようになっていきました。

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ないものねだりではなく、あるもの探し。

Q:小谷さんはNHKの介護福祉番組で司会をなさっていますが、介護福祉と農業に関わってきて、どのようなことを感じるようになりましたか?


私が介護福祉と関わるきっかけになったのが、番組開始から11年間司会を務めているNHK Eテレの「介護百人一首」です。一方で、野菜の魅力を発信する番組をやりたいという気持ちがずっとあって、そんな中、CSの畜産番組のリポーターのオファーをいただきました。月に1回、全国各地の牧場を訪ねる番組で、最後にはお肉を美味しくいただくという、地上波ではなかなかないタイプの番組でした。このマニアックな畜産番組が縁で、農林水産省の委員をするようになって、後にフードアクションニッポンFANバサダーや「医福食農連携」の選定委員をするきっかけになりました。その以前は、ニュース番組のグルメリポーターも長くやっていまして、畜産の生産者を取材する一方で、レストランの食情報という、産地と食卓の両方に携わるうち¬に、生産者側へと気持ちがシフトしていくようになりました。

 

2011年の震災を境にグルメリポーターのお仕事が終了し、改めて「グルメとは?」を突き詰めて考えました。また農業や畜産を通して命のありがたさ、生産者の努力や思いを目の当たりにし、介護福祉の世界では、介護が必要な状態を憂うのではなく今あることに感謝すべきという、介護をポジティブに捉えることを学びました。これは、ないものねだりをするのではなく、あるもの探しをするという地方創生の考え方にも通じます。まだまだできることはある。あるものを喜んでいこうという精神です。

 

こうして振り返ると、局アナ時代も含めて、関わってきたすべての番組作りで生き方や考え方を学び、今の自分の考えが構成されたように思います。ジャーナリストとしては「知らないことを知って感動したことを伝えたい」という気持ち。その感動こそ、私にとっては田んぼ、畑、牧場という生産の現場にあることに気づきました。

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私たちに必要なのは、野菜を選ぶ力。

Q:小谷さんが現在掲げている「1億総プチ農家プロジェクト」とはどのようなものですか?


都会の人は、普段どんな基準で野菜を選んでいるでしょう?産地やブランドのシールで判断するとか、誰かがメディアが紹介していたという格付けに頼らざるを得ない状況です。安さでも選びがちです。でも価格やマークだけでなく、198円のキュウリにも物語があるということを知ってほしい。流通の発達はありがたい一方で、生産者と消費者の距離が遠くなり、産地の物語が見えにくくなりました。「1億総プチ農家プロジェクト」は、都会に暮らす消費者自身がレンタル菜園やベランダでちょっと野菜を作ったりしてプチ農家体験をすることで、野菜を選ぶ力や食へのリテラシーを深めようというものです。野菜のなりたちを知り、土と自然のありがたさに気づき、生産の物語を知れば、自ずと産地や生産者へのリスペクトが生まれるはずです。

 

Q:今一番気になっている野菜は?


たくさんありますが、仙台の根っこごと山盛りのセリを入れるセリ鍋は東京でも人気になっていますよね。根っこがホクホクして香りがあっておいしいんです。わたしが取材したのは、茨城県行方市のセリでした。セリはセリ田という田んぼを使って栽培されます。旬は12月〜3月なので、収穫は寒い中で行われます。田んぼから抜いたセリを水で洗うと、土が落ちて真っ白な根が顔を出します。それを知ってからは、茨城産のセリと聞くだけで胸がキュンとなります(笑)。こういう感動が、野菜の価値を高めてくれると強く思います。ヒット商品にはストーリーが必要だと言われていますが、農体験をした人は、そのストーリーを自分自身の中に見いだすことができますから。

 

Q:各地を訪れている中で、最近はどんなことに感動しましたか?


仕事で北海道を訪れたときに、田んぼで白鳥を見ました。朝晩は湿原にいて、昼間は田んぼへ落ち穂を食べに来るのですが、白鳥の鳴き声のぜんぜん美しくないことに(笑)「おおっ!」と感動しました。ダミ声でうるさいぐらいなんですよ。でもそれが写真では伝わらない生の現場の臨場感なんですね。都会にいると、生き物の声を間近に聞いたり、うるさいと感じることはほとんどありません。この大地は生き物と共生しているんだなぁと感じました。今年はミラノ博に行ったこともあり、地球を意識するようになっています。

 

もうひとつ、三宅島と桜島に行って感じたのが、どちらも活火山があって、噴火も含めて自然と共生しながら人々が生きているということです。そんな災害の多いところになぜわざわざ住むのかと、他人は思うかもしれません。でもそうではないんですね。


普段から避難訓練を行い、地域全体での避難の仕組みを作って、上手によけながら共生する。桜島で感動したのは、一つ一つのお墓に屋根が付いているんです。噴火の灰からお墓を守るためです。火山があるから引っ越そう、ではなくて何十年何百年も先祖がそこで生きてきた、そのためにお墓を守る瓦屋根のほこらを建てるという文化が生まれたのです。噴火は悪いことばかりではなく、温泉や水はけのよい土壌をもたらすなど恩恵もあります。農業には適地適作という言葉がありますが、桜島大根は桜島だからこそ育てていけるもの。三宅島にも明日葉(アシタバ)という名産野菜がありますね。

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都市の人も食べものを作る喜びを取り戻す時代

Q:大切にしている言葉や座右の銘はありますか?

 

以前、村上春樹さんの著作で読んだ「Living well is the best revenge.」という言葉です。日本語にすると「優雅に生きることは最大の復讐だ」となります。かっこいい考え方だと思いませんか。この考え方は、私が介護の達人から学んだことにも通じていて、とても前向き。私のブログでもネガティブなことは書かないようにしているんです。時には腹の立つことだってあるけれど、争うことなく「はい次!」と、気にしないようにしています。

 

Q:これからの夢や目標はありますか?


この間、「都市を耕す〜エディブルシティ」(2014年製作アメリカ)というドキュメンタリー映画を観ました。日本でも今後、都市で暮らしながら野菜を作るシティーファーマーがもっと増えるだろうと予想しています。ボタニカルがファッションの流行になっていることや、日々の暮らしの中に植物を取り入れることで癒しやリラックス、健康になろうとする考え方がトレンドになっています。若くておしゃれな人たちの中で、農的ライフスタイルに関心を持つ人も増えています。本業としては、来年2月に発売される「菜園ライフ」という家庭菜園のDVDにナレーターとして参加しました。都市住民が自分で食べるものを人任せにしないで、生産する喜びを自らの手に取り戻す、「1億総プチ農家」の時代がこれから来ますよ。ファミリー菜園もよいですが、わたしは「おひとりさま農園」をつくりたい!自分のためにです。(笑)

 

Q:ippinキュレーターとして、お土産選びのコツを教えていただけますか?


まず土産話があってこそのお土産だと思うので、旅の感動を伝えながら渡すだけでも、もらった人の受け止め方は変わると思います。お土産を渡すということは、旅行した場所や、お土産に選んだ物と自分のつながりをプレゼンすること。誰かに与えられた物語ではなく、自分で見出した物語を紹介したいという気持ちでお土産を選んでみてはいかがでしょうか。私がippinで紹介しているのは、ほどんとが直接作り手と会って話を聞いたことがあるものです。自分なりに咀嚼して、自分の伝えたい物語を紹介するよう意識しています。

 

手土産やプレゼント選びで大切なのは、自分がどれだけ相手のことを慮っているかどうか。その気持ちがあれば、贈り物ひとつ選ぶにしても迷うことはないはず。今ではほとんど使わなくなりましたが、相手を敬う「先様」という言葉があります。贈る相手を「先様」と意識するだけで、手土産選びにも気合が入りますし、何より「先様に喜ばれる」って、なかなかいい言葉ですよね。

 

 Q:ホームパーティーに招いたゲストへの、おもてなしの極意とは?

 

来てくれた人をホスト役がみんなに紹介することが一番大事だと思います。初対面同士の人が初めて会ったとき、互いの頭の中にあることは、相手は誰なのか、という疑問と、自分が何者であるかを相手に伝えたい、という2つなんですね。ビジネスの場では自ら名刺を差し出すのでしょうが、ホストであるならば、ゲストのもやもやを解消してあげなくては。このストレスをクリアできないと、会話は始めにくいんです。人と人とをつなぐことが、本当のおもてなしではないでしょうか。

 

【プロフィール】
農業ジャーナリスト、野菜をつくるアナウンサー「ベジアナ」として、2005年からブログ「ベジアナあゆ☆の野菜畑チャンネル」を更新中。レストランの有名シェフをリスペクトするように、全国にあるおいしい農畜産物とそれを生み出す生産者や農業そのものがリスペクトされる社会を目指し「1億総プチ農家プロジェクト」を掲げて、小さな感動を発信している。講演活動にも精力的に取り組み、長年の介護番組司会経験から、介護テーマにした講演も多数。NHK Eテレ「ハートネットTV 介護百人一首」、「楽らくワンポイント介護」出演中。農林水産省「医福食農連携プロジェクト」選定委員。フードアクションニッポンFANバサダー

※掲載情報は 2015/12/27 時点のものとなります。

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